新人くのいち伊吹と佐奈の戦国忍法帖
登場人物紹介
伊吹 真面目で切れ目が特徴のグラマーな黒髪ロングの美少女くのいち。
佐奈 たれ目が特徴のムチムチどじっこポニテ美少女くのいち。
千花姫 伊吹と佐奈が護衛する榊家に仕える家老の姫 おしとやかで黒髪ロング。
───
時は戦国、伊勢の国。
そこに細々と活動している孕村忍軍という里があった。
忍びの集団では弱小中の弱小孕村忍軍は、近々自然消滅するのではないかと噂されており、忍びの里はかなり危機感を漂わせていた。
「私たちに護衛任務!?」
すっかり日が落ち、夜が支配する頃。
頭領の孕村道源の屋敷に呼び出された新人(下忍)くのいち伊吹と佐奈は、驚きを隠せないでいた。
「うむ、そろそろおまえたちも任務に慣れてきたと思ってな」
初老の域に差しかかった道源は、穏やかな眼差しで、自分の目の前で正座した伊吹と佐奈に微笑む。
「実は榊家当主、榊忠治さまに仕える家老の間塚輝夫さまの娘、千花さまが松ヶ島城より長野城にお帰りになさる。その護衛をおまえたちに任せたいのだ」
「まさか、そんな」
くのいちデビューして一か月目の自分たちに初の護衛の任務。町娘にやつして諜報活動ばかりしていた伊吹には感動である。
特に相棒の佐奈は驚くほどのドジっ子ぶりであり、彼女と組んでるうちは重要任務を任せられないと思って諦めていたのだ。
「でも道源様ぁ、伊吹ちゃんはともかく、私には戦闘なんてとても無理ですよぉ」
「佐奈っ!」
伊吹の隣に座る佐奈が、気弱な声で弱音を吐くと、真面目な伊吹はすぐに佐奈を叱って頭を下げさせた。
「申し訳ございません。佐奈は緊張のあまりこんなことを……」
「よい、わかっておる。初護衛の相手が家老の姫、佐奈が弱音を吐くのも無理からぬこと。だが安心するがよい。千花さまにはお前たちの他にも護衛がつくし、そこまで厳しい旅にはならぬであろう。そなたらは姫に仕える侍女に身をやつし旅に同行するのだ」
「はっ!」
伊吹と佐奈は姿勢を正すと、孕村忍軍頭領、道源に頭を下げた。
「伊吹ちゃん、本当に大丈夫かなぁ、私この任務を任されたこと自体が凄く不安なんだけど……」
月明かりが照らす帰り道。佐奈はふらふらとあぜ道を歩きながら、伊吹にそう訴えかけていた。
「どういう意味よ」
こういう言い方をするときは何か意味がある。
佐奈はどうしようもないドジっ子だが、小動物のような勘はあったので、伊吹は歩みを遅くして佐奈の方を向いた。
「わたし前に諜報活動してるときに小耳にはさんだんだけど、榊さまと家老の間塚さまって仲が悪いみたい」
「そうみたいね」
その噂は伊吹も知っている。
松ヶ島周辺では結構有名な話だ。
「千花さまって今まで人質みたいにして松ヶ島城にいたわけでしょ? それが間塚様の居城、長野城に帰るっておかしいじゃない」
「そう言われればそうね……」
護衛初任務で舞い上がっていた伊吹が思い至らなかった、きな臭い可能性。
確かに新人くのいちである自分たちに任せるには荷が重い気がする。
「仲直りしたのかもしれないわよ」
「そっかなぁ?」
「きっとそうよ。それに他の護衛もいるわけでしょ? 頭領様の言われた通り、そこまで心配する必要ないわ」
「うん」
月を背に歩く二人。
だが、その楽観が崩れ去るのは、護衛のために間塚の屋敷に訪れた時である。
・・・・・・
・・・・
・・・
「よくぞ参りました。あなた方が孕村忍軍のくのいちですか。ずいぶん可愛らしい方たちなのですね」
「それほどでもぉ~」
「佐奈っ!」
松ヶ島にある間塚屋敷に着くと、伊吹と佐奈は屋敷に通され、護衛対象の千花姫に拝謁していた。
千花姫はとても気品があり、自分たちと同じくらいの10代半ばの美しい姫だった。
きっと世の中の男が放っておかない。それほどの可憐さで、伊吹は刮目して見ていた。
「いいのですよ。私たちは同じくらいの歳みたいですし。こんなに気安く同世代の子に話しかけられて新鮮です」
「申し訳ございません……」
真面目な伊吹は、それが一種の釘刺しだと読み取り平伏する。
だが、空気の読めない佐奈は伊吹が平伏する横で、気さくに千花姫に話しかけた。
「千花さま、いつから出発なのですか?」
佐奈っ!と叫びそうになり、顔を跳ね上げると、千花姫がクスクス笑った。
「とても素直な方。出発はもうそろそろです。爺が呼びに来てくれるまでどうぞ肩の力を抜いてお待ちください」
「は~い」
伊吹の額に青筋が浮かぶが、なんとか怒りを抑える。
いくら初護衛任務とはいえ、佐奈の態度は無茶苦茶だ。
お茶を澄まし顔で飲み、千花姫と雑談に興じる佐奈に殺意が芽生える。里の評判のために殺るのも仕方なしなのかもしれない。
とりあえず自分も落ち着こうと、出されたお茶に手を伸ばし香りを楽しんでいると、急にドタドタと床の音が鳴り、年老いた武士が襖を開け駆け込んできた。
「姫様っ、敵襲です。すぐにお逃げください!!」
「そうですか……」
突然の敵襲にも驚くことなく、千花姫が静かにお茶をテーブルに置くと、年老いた武士をみる。
「して、敵の名は?」
「敵は憎っくき榊忠治、ついに我らを討ち取らんと行動を起こしたのです!」
急展開に伊吹が唖然としていると、佐奈がピョンと立ちあがった。
「じゃあ、逃げなきゃ。お爺ちゃん、どっから逃げればいい?」
「こ、こちらです」
年老いた武士は、佐奈の余裕な態度に一瞬面食らうと、すぐに千花姫を促し佐奈と一緒に部屋から出て行こうとする。
伊吹は慌ててそのあとを追った。
屋敷の外は地獄だった。
あちこちで殺し合いをしており、時の声が上がる。
街中と言うのに被害など考えていないようで、すでに屋敷には火が放たれていた。
「ここは我らが食い止めます。どうか姫様のことを頼みましたぞ」
「任せといて!」
普段ぼけぼけの佐奈が姫様の手を掴み、屋敷の外に飛び出していく。
飛び交う剣戟のなか、混乱に乗じて姫様と自分たち供回り数人が松ヶ島を脱出した。
・・・・・・
・・・・
・・・
「困ったねぇ」
「いいかげん、その口調は改めなさい。姫様に無礼でしょ!」
「えー!」
なんとか松ヶ島を脱出した、千花姫と供回り5名は、山中に潜伏していた。
安全な長野城までの街道は全て押さえられており、動こうにも動けなかったのだ。
「これからどうします?」
「それを考えるのはおぬしらの役目ではないのか」
困った伊吹に、供回りの若い武士が苛立ったように返す。
こういうときに自分たち外部の者になんでもかんでも押し付けるのは、
やめてほしいと、伊吹は思った。
「とりあえず街道は抑えられてるから、この山中で休めるところを探した方がいいんじゃないかな。もう日が暮れるし姫様も疲れてるよ~」
「むっ、そうだな」
佐奈の提案に、若い武士のひとりが大きく頷く。
ズラリと勢ぞろいした顔ぶれを見ると、供回りは自分と佐奈を除けば20代ほどの若い侍3人。
なんとも頼りない顔ぶれだ。
「して山小屋はどこにある?」
「そんなの知らないよ~。わたしここに来たの初めてだし」
「この役立たずのくのいちめっ!」
罵倒された佐奈がのほほんと、頭の後ろに手をやると、馬鹿にされたと思った若い侍が地団駄を踏んだ。
「五郎座衛門、落ち着きなさい。あなたがそのようなことでは長野城に帰ることも出来なくなります」
「姫様……」
五郎座衛門は膝をついて千花姫に頭を下げる。
「雨露がしのげるならそれに越したことはありませんが、それが叶わぬとも構いません。生きて帰ることが重要です。みなもそれを心得ておくように」
「ははっ」
供回りが返事をすると、先頭を切って姫様が歩き出す。
「千花姫さま、どちらへ?」
「長野城に向かいながら、山小屋を探しましょう。暗くなるまでまだひと時あります」
「ですが……」
「気遣いは無用です。ぐずぐずしていてはここにも追ってが迫りましょう」
供回りは、それに従うしかなかった。
山小屋が見つかったのは、すっかり陽が落ち、星が満天に広がった頃だった。
誰もいない山小屋に入ると供回りの若い武士がやれやれと座り込み、土間にあった瓶から水を掬って飲み干していく。
伊吹は囲炉裏の火を起こすと、千花姫と一緒に火にあたっていた。
「千花姫さま、お体の方は大丈夫ですか?」
「ええ、大丈夫です。歩き疲れてかなり眠たいですが」
淡い笑みを浮かべながら、千花姫は筋肉痛であろう足を揉み解す。
「もう少しの辛抱です。明日、私が周辺の街道を見回って抜け道を探してまいりましょう」
「ええ、伊吹お願いします」
「はい」
伊吹は腰の皮袋から竹皮に包んだ団子を差し出すと、千花姫はそれを摘まんで美味しそうに食べた。
夜─。フクロウが山小屋周辺で鳴く中、早めに就寝についた姫と伊吹以外の面々は、外で見張りについていた。
「ねぇ、どうして私まで見張りにつかなきゃいけないの、おかしいと思わない?」
「ふん、知るか」
小屋で寝たかった佐奈は不満たらたらで、自分に見張りを命じた伊吹に対し頬を膨らませてる。隣でぶっきらぼうにしている五郎座衛門に盛んに絡んでいた。
「別に私は伊吹ちゃんの配下ってわけじゃないんだよ。絶対おかしいよね!」
「うるさい、姫様の眠りの妨げになるから森の中に怪しい奴がいないか見て回れ」
「むぅ~」
しっしっ!と追いやられて、佐奈は仕方なしに森に入る。
森の中では、供回りの武士がキョロキョロしながら警戒していた。
「ご苦労さんだねぇ」
「むっ、貴様か」
若い侍が佐奈に気づき、足を止める。
「えっと、三郎座衛門さんだっけ?」
「誰が三郎だっ!適当な名前をつけるんじゃない」
「なんか、こっちのお侍さんも怒りっぽい」
佐奈がそういうと、呆れたように若い武士は首を振った。
「まったく、おまえのようなクノイチは始めてだ……」
「へぇ、クノイチに会ったことあるんだ」
「うむ、まぁ……な」
なぜか歯切れが悪そうに、若い武士は顔を背ける。
「どんなクノイチだったの、私たちの里の人?」
「違う。だが、おまえのようなふざけた奴ではなかったぞ」
「ナニしてもらったの?」
明かな確信をもって佐奈は、若い侍に自分の身体を押し付ける。
くのいちは目的達成の為、身体を許して男と交わることも辞さない。
佐奈は任務のために身体を許したことがないが、胸がムカムカしていたこともあり、自分の魅力でこの男が落とせるか試そうとしたのだ。
「くっ、きさま!」
佐奈の白い手が、性欲溢れる若い武士の股間を這いまわり呼吸を乱す。
佐奈が耳元で『教えて、お兄さん?』と甘く囁くと、たまらず若い武士を熱い息を言葉と共に吐いた。
「せ、精を吸い取られた。千花さまの動向と引き換えにな」
「へぇ~」
お堅い武士だと言ってもチョロイなぁ、と佐奈は微笑みながら、袴越しに竿を掴みゴシゴシしてあげる。
と、そこで今の話しに違和感を感じ、佐奈は手を止めた。
(おかしいなぁ、確かウチは間塚家と契約してるから他の里のクノイチが間塚家と接触するはずないのに……これってもしかして……)
みるみるうちに確信を掴む。
(この人って情報を流してたんじゃないの!?)
「もう焦らさなくていいだろう! 早く続きをしてくれ!」
鼻息が爆発した三郎座衛門。
佐奈はあっというまに身体を木に押し付けられ、両手を拘束されるのだった。
>>
- 2018/12/15(土) 22:46:38|
- 小説
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