数日後、いつものように僕は千早ちゃんと一緒に隣の教室に行くと、
隼人とまりなちゃんが何やら言い争いをしていた。
僕が近づくと、まりなちゃんは机に広げてあった新聞みたいなものを握りしめて、僕と千早ちゃんに訴える。
「聞いて2人とも! 隼人が前にウチの部に取材に来たんだけど、その記事の内容がひどいの!」
「えっ、そうなの?」
僕はまりなちゃんから手渡された新聞を、千早ちゃんと一緒に覗きこむ。
そこには一面ででかでかと大きな写真とチアガール部について書かれた記事があった。
『お尻を出してお出迎え、チアガールのおまんこはよく締まる!!』
四つん這いになったまりなちゃんのおまんこが部の先輩たちの手によってくぱぁ~されてる写真がタイトルの下にドンと掲載されている。
僕と千早ちゃんは驚いて、隼人の顔を見た。
「これくらいインパクトあったほうが読者は喜ぶんだよ。先輩も言ってたしな」
「何が喜ぶよ! 全然チアガール部の取材じゃないじゃない!」
すごい剣幕で怒るまりなちゃん。その気持ちは分かる。
確かにこれじゃあ、取材じゃないよね。
「しょうがないだろ、チアガール部は演技失敗したんだから。ウチの部は真実を書くのを売りにしてるんだ。
失敗したのを書かないんだったら、おまんこの具合の良さを褒めるしかないだろ」
「うっ!」
まりなちゃんは言葉に詰まる。
どうやら失敗を挽回するために、チアガール部員が隼人のおちんぽみるくを受け入れたらしい。
「で、でもおまんこの良さを褒めるなんて、他にも書くとこあるでしょ!!
しかも写真は私だし恥ずかしいじゃない!」
「それについては謝るしかないな。締切が迫ってて仕方なかったんだよ。
というか、俺の記事が一面を飾ったんだぜ、褒めてくれよ」
やれやれといった風に抗議を流す隼人。
僕と千早ちゃんは顔を見合わせる。
写真を見ると確かにひどい気はする。
カラーだし、おまんこの穴が見えてるし、おまけにおちんぽみるくが入り口から少し垂れて滝みたい零れてる。
だけど、真実を掲載をする新聞部の隼人にとってはチアガール部の失敗を隠すにはこれしかなかった気がする。
「隼人、チアガール部の記事はこれで終わりなの?」
「いや、どうかな。部長は反響次第って言ってたがな」
「なら、反響次第ではまた取材するってことだよね?」
「まぁ、そうだな」
僕の問いに隼人が首を少し傾け頷く。
「なら、まりなちゃん、まだチャンスがあるんじゃない。評判が良ければまた取材してくれるよ」
「だといいけど……」
何か納得してないように力なくまりなちゃんは呟く。
「あきらめちゃ駄目だよ。今度は頑張ってもっといいとこ見せよう!」
「……そうだよね。諦めちゃ駄目だよね。うん! ありがとう健太!」
元気を取り戻してまりなちゃんは笑顔になる。
良かった。元気になって。
「じゃあ、とりあえず記事の反響待ちだね。僕も記事が良かったってみんなに言っとくよ」
「おう、ありがとな。だけどあんまり派手にやらないでくれよ。サクラだと思われるからさ」
「わかってる。任せといて」
僕は力強い声で答える。
まりなちゃんの為にも頑張らないと。
「じゃあ、千早ちゃんも言っといてね」
「うん」
こうして僕らはチアガール部の記事の宣伝をした。
評判があがるといいなぁ。
放課後になった。
僕は陸上部の千夏先輩とお話ししていた。
今日は陸上部の練習が休みなのだが、帰ろうとしたときに廊下でばったりあったからである。
「先輩、今帰りですか?」
「ええ、そうよ。君も今帰りかな?」
いつもと違い、制服姿の千夏先輩がニッコリ微笑む。
なんだか雰囲気が全く違ってて面喰ってしまう。
「はい、そうです」
「じゃあ、一緒に帰ろうか」
「は、はい」
憧れの先輩に声を賭けられて、若干緊張しながら返事する。
歩く姿も颯爽としていて、隣に歩くのが恥ずかしくなるくらいだ。
まわりの目が先輩に集中しているのを感じて、なおさらそう思った。
ガヤガヤと皆が歩き回るなか、僕と千夏先輩は下駄箱に向かう。
途中千夏先輩は、いろんな人から声をかけられて、挨拶をかわす。
僕と違って友達もいっぱいいそうだ。
下駄箱で靴を履きかえ、校舎の外にでる。
2年の寮は、1年の寮とそんなに離れてなくて、帰る方向も一緒だ。
緊張している僕を気遣って千夏先輩から優しく話しかけてくれる。
「どう、部活に慣れてきた、しんどくない?」
「はい。最初は筋肉痛がひどかったですけど、慣れてきました」
「そう良かったわ。ウチの練習は結構ハードだからね。音を上げる子も多いの」
「そうなんですか」
自然に肩を並べて歩く。
ちょっと緊張したけど、話しているうちに慣れてきた。
「夏川さんは美奈と仲がいいのね」
「いや、仲がいいってほどでは……」
「そうなの? あの子があんなに引っ付いてるのは初めて見たんだけど」
ふふっ微笑みながら、千夏先輩は僕をからかう。
僕は憮然しながら、再度否定する
「あれは美奈が勝手に引っ付いてきてるだけです。あいつは僕に……」
「僕に……?」
口を噤んでしまった僕に、千夏先輩が突っ込んでくる。
だけどこれ以上先は言えるわけなんてない。
だってあいつの目的は僕のおちんちんを見ることなんだから。
「その、えっと……。ああ、僕を遊び相手と勘違いしてるんです。あいつは子供だから!」
「そうなの?」
千夏先輩は笑みを深める。
もう僕をからかうのが目的だろう。あたふたする僕を見て楽しんでるに違いない。
「先輩いじわるです……」
「ごめんごめん。ちょっと面白くって」
口に手を当てて笑う千夏先輩は腹が立つけど綺麗だ。
憮然と歩く僕の横で、千夏先輩はある程度笑うと、笑みを浮かべて気を取り直したように言った。
「でもあの子と仲良くしてあげてね。あの子は君の言う通り、子供のとこあるから」
どこかその声に真剣さ籠っている。僕は千夏先輩の横顔をチラリと見た後、真面目に答えた。
「あいつが無茶なことを言わなきゃ、僕としては大歓迎です。友達は多い方がいいですし」
「ありがとう、ちゃんと言い聞かせておくからよろしくね」
はいと素直に答えず、僕は一緒に歩く。
照れくさかったんなと思う。僕もこういうところは子供だ。
それにしてもそこまで気に掛けるってことは、やっぱり千夏先輩にとって美奈は大事な幼馴染なんだな。
それから話題が変わり、色んなことを喋りながら楽しく歩いていると、
後ろから大きな声が聞こえて振り返った。
「あー! 健太が千夏と一緒に帰ってるー!」
怒涛の勢いで美奈が後ろから走ってくる。
何をそんなに慌ててるのか僕たちに追いついてくると、マシンガンのように言葉を口から出した。
「千夏、健太におちんちんを見せてもらう気でしょう!! 私が先に約束したんだからね。私が先なんだからね!!」
「わっ! 馬鹿っ!!」
慌てて美奈に飛びかかり、その口を塞ぐ。
「んんーー!!んんっ!!」
「千夏先輩、今のは冗談です! こいつが言ったまた訳の分からないことの一つでっ!!」
僕は必死に誤魔化す。
憧れの先輩であり部長でもある千夏先輩に本気にされたら、もう陸上部ではやっていけない。
千夏先輩がおちんちんに嫌悪とかしてたら終わりだ!
僕は内心で恐怖におののきながら、千夏先輩の反応を待つ。
「そうなの? 私は見てみたいなぁ」
「っ!?」
イタズラっぽく僕の顔を覗き込んだ千夏先輩の仕草に、僕の顔は真っ赤になる。
もう千夏先輩の顔をまともに見れない。目を逸らして俯き加減になる。
僕の気が逸れたことから自由になった美奈が、千夏先輩に食って掛かる。
「ダメっ!! 私が最初に見るんだからっ!!」
「えー、いいじゃない。私が見たって」
ううっ、先輩ってこういうキャラの人だったのかと思いながら、僕は小さくなる。
本当は千夏先輩におちんぽみるく出したいと思ってたので、チャンスがあればいいかもって考えていたのだが
こうも余裕ぶって対処されるとかえって言いづらい。
冗談で言ってるんだろうが、この雰囲気だと自分が割って入る勇気はない。
しかしこうしてみると、まるで親子だ。
実際は年齢が一つしか離れてないんだけど、駄々っ子のように手を振って強く千夏先輩に主張する美奈を
笑いながらからかうところなんか見てるとそう思う。
いつのまにかボーとした感じでふたりを見ていた僕だったが、
千夏先輩にどうしたの?と声をかけられて我に返る。
「なんでもないです。でも2人は本当に仲がいいんですね」
怒ってポカポカと千夏先輩を叩く美奈を見ながら僕がそう言うと、
千夏先輩は顔だけこちらに向けて微笑んだ。
「物心つかない頃からの付き合いだからね」
美奈が陸上部に入ったのは、千夏先輩がいたからかもしれない。
その後、僕たちは何事もなかったように3人で帰った。
千夏先輩から部屋に寄ってくって言われたけど、断ってしまった。
あそこでうんって言えれば、おちんぽみるくを出させてくださいって頼めたかもしれないのに、
僕はへたれだ。
次の日、学校に行くと隼人がチアガール部の追加取材が決まったと教えてくれた。
どうやら僕らが宣伝しなくても反響がすごかったらしく、
あんな記事初めて見た。続きをみたいと要望が多かったとのことだった。
そのせいでまりなちゃんは学校で有名人になり、知らない人からも声をかけられたりしたらしい。
まりなちゃんは、声をかけられても恥ずかしそうにしてたみたいだけど。
まあ、何はともあれ新聞部の影響力には驚くばかりである。
取りあえずはチアガール部の面目躍如できそうだし、僕も少しは役に立てたかな。
取材なのでまりなちゃんと一緒に部活に向かう隼人を見送り、僕も陸上部に向かう。
今日も頑張って練習だ。
陸上部に行くと、体操服姿の千夏先輩が、準備体操をしていた。
スラリとした手足を惜しげもなく晒し、お尻を後ろに突き出しながら手を地面に着くところは、後ろから見ていてドキドキする。
練習では厳しいんだけど、普段は茶目っ気のある優しい先輩だと知ってしまうと、そのギャップに心が惹きつけられるのだ。
「おはようございます、千夏先輩」
「おはよう、夏川さん」
僕の姿を認めた千夏先輩が笑顔を見せる。
「今日もいい天気ですね」
「ええ、そうね。いい天気ね」
僕が空を見上げると、千夏先輩も空を見上げた。
何気ないしぐさも綺麗だ。
僕は色々先輩の事が知りたくなって質問する。
「先輩は短距離走すごく早いんですよね」
「早いって言われてもちょっと困るんだけど、結構賞を貰ってるから早い方かな」
苦笑いする先輩。
少し照れてるようだ。
「夏川さんこそ、長距離走早いらしいじゃない。頑張ってね。期待してるんだから」
「はい、頑張ります。それから僕のことは健太って呼んでください。みんなそう言ってるので」
「ええ、わかったわ。健太ね」
先輩が微笑むと、今度は僕が照れてしまった。
なんだか先輩に名前で呼ばれると照れる。憧れてるせいかも。
僕は先輩と話しながら一緒に準備体操をしていると、部活の時間になってもいつも喧しい美奈がいないことに気付く。
(どうしたのかな)
僕は校庭を走りながら、美奈の姿を探し求めて校舎の方に視線をやる。
が、すぐに自分が妙に美奈の事を心配してると感じて頭を振った。
散々迷惑かけさせられたのに、何あいつのこと心配してるんだ……。
僕は走ることに集中することを決め、何も考えないようにして走り続けた。
美奈がやってきたのは、ほとんど部活が終わりかけの時だった。
やってきた美奈は不機嫌そうで、千夏先輩に声をかけられても黙っている。
僕は喧嘩でもしたのかと思いながら、近寄ってきた美奈に話しかけた。
「どうしたんだ。こんな時間まで?」
「………」
美奈は黙っている。
僕は面倒だなと思いながらもう一度尋ねた。
「どうしたんだ? 来ないから心配してたんだぞ」
「……変なことしてたの」
ポツリと美奈が呟く。
「なんだって?」
「だから、体育館で変なことしてたの見てたら、喧嘩になったの!」
「わ、わかった。分かったから落ち着けって」
みんなの視線がこちらに向いたので慌てて美奈を宥める。
「どういうこと。ちゃんと説明して」
その声を聞きつけたのか、千夏先輩がやってきた。
「チアガール部が変なことしてたから見てたら、練習の邪魔だって怒られたの」
「変なことって?」
「なんかわかんないけど、今まで見たことのないようなことしてた……」
要領の得ない答えに千夏先輩は首を傾げる。
だが僕はそこであることが思い当たった。
「それって写真とか撮ってなかったか?」
「あっ! 撮ってたかも!」
「なら、それは新聞部の取材だよ。またチアガール部の記事を書くって言ってたからね」
「ああ、そういうことね」
千夏先輩が納得したように頷いた。
「つまり美奈が取材の邪魔をして怒られたと」
「邪魔してないもん! 見てただけだもん!!」
美奈が訴える。
「はいはい。分かったから大きな声を出すのやめような」
「むー!」
頬を膨らませて美奈は半泣きだ。
後でまりなちゃんたちに謝った方がいいかな。
結局、終始不満そうにしていた美奈をあやしながら、この日の部活を終えるのだった。
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- 2014/05/11(日) 00:00:01|
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