「おまえら奴隷を、あの、アントリクスの古城攻略に差し向ける為よ」
そう告げられた時の奴隷たちの絶望に彩られた表情、自らの運命を呪う言葉。
そんな中、沢山の奴隷たちの中にいた男、西扇錬は彼らの絶望や嘆きを耳に入れながら天高くそびえたつ古城を見上げていた。
どうしてこうなったのか。
もう、俺は元の世界に戻れないのだろうか……。
気づいた時には、すでに奴隷たちを詰め込んだ馬車の中だった。
この訳の分からない世界にやってきた経緯なんて覚えちゃいない。
だって朝起きていつものように高校に向かう途中だったのに、いつのまにか見知らぬ道の真ん中で仰向けに寝てたのだから。
───ガタンガタン
きちんと整備されていない道を進んでいる為なのか、時折激しく揺れる馬車にうんざりしながら、
錬は自分の手足に嵌められた鈍い色を放つ鎖を見た。
鎖は太く頑丈で、奴隷たちの手足に繋がれて逃げ出せないようになっている。
奴隷たちの年齢はまちまちで、幼女と呼んでも差し支えないような少女や50代半ばにいってそうな男、はたまた錬のような15、6歳程度の若者もいた。
この世界が自分のいた世界ではないと気付いたのは、奴隷たちの髪の色だった。
自分のような黒色の髪は一人もおらず、他は金髪や茶髪、そして青や緑や赤の髪の色をしていたからだ。
始めはなんのコスプレだ。と思ったのだが、よくよく観察してみるとこれが地毛だと分かり驚愕した。
また顔の作りは堀が深く欧米人のようで、服装も自分のような制服を着ているのは一人もおらず、薄汚れたボロボロの布の服を身にまとっていた。
共通しているところと言えば、同じ人間らしいというところと言葉くらいだろうか。
馬車を操る兵士たちの目を盗んでヒソヒソと奴隷たちが会話を交わしているのだが、
その言葉がどう聞いても日本語で、錬にもしっかりと理解できたのだ。
「それにしても兄ちゃんは災難だったなぁ」
馬車に揺られて1時間ほど経った頃だろうか、
隣に座る30代半ばと思しき茶髪の男がこちらを見て気の毒そうに言った。
「ええ、まぁ…」
なんと答えていいのか分からず、曖昧に答えて錬は前を向く。
「ええ、まぁ…って、兄ちゃんは楽天家なのかい? もう兄ちゃんは奴隷なんだよ、分かってるのかい?」
「分かってます。ですが奴隷だという実感がわかなくて……」
この人の良さそうな男が言いたいことは分かっている。
道の上で寝ていたところ、突如現れた馬車から甲冑をつけた兵士が降りてきて自分の両脇を抱えて
馬車の中へ放りこんだのだ。これを災難と呼ばずしてなんというのだろう。
正直、眠気が残っていたため、これは夢だと思っていたところもあったのだが、
さすがに乱暴に鎖に繋がれ、馬車に放りこまれて
『おまえは、今日から奴隷だ』
と、にやつく兵士を見れば夢から覚める。
もっとも鎖に繋がれた今となっては後の祭りなのだが。
「ふーん、そうかい。まぁ、兄ちゃんは育ちが良さそうだもんな」
ジロジロと無遠慮に制服を見る男に内心で辟易しながら、錬は首を傾け視線を馬車の外に向けた。
───西扇錬
それがこの男の名である。
年齢は今年で17。都内に住むごく普通の高校生だ。
勉学は取りたてて優秀と言う訳でもなく、運動神経が他人より少しいいくらい。
身長は170を少し超えたくらいで、容姿に関してもブサイクではないだろうと自分でおもってるくらいな平凡な男。
立派なのは、どこぞの名家なのかと思しき名前だけだろう。
少なくとも彼がどこぞの主人公かと思えるチートな能力を持っていないことだけは確かだ。
先ほどから視線の先の風景は大して変わっていない。
馬車は草原に作られた道を進み、馬の蹄と馬車の車輪のゴトゴト鳴る音がやかましい。
時間にしたら今は昼間だろうか。
熱い日差しが草原全体を覆うように降り注いでいる。
見ているだけで喉が渇きそうだ。
「いったいどこに連れて行かれるんだろうな……」
「そりゃあ、兄ちゃん、奴隷って言ったら街で売られるか、どっかで強制労働させられるのが常識さ」
「………」
何気なく呟いた言葉を、隣の男が目ざとく拾う。
聞き逃せばいいのに……。
夢も希望もありはしない答えにうんざりしながら、この男の話に付き合うことにする。
「あなたは、えっと、、」
「俺かい? 俺の名前は、ボルガだよ」
「ええ、ボルガさんは、どうして奴隷に?」
「俺は、アーキス王国で傭兵をやっていたんだが、ウチの傭兵団が魔獣の群れにやられて壊滅しちまってね。
ボロボロになったところを兄ちゃんと同じように奴らに捕まり馬車の荷台に放りこまれたのさ」
答えにくい質問だと、言ってしまった後に気付き後悔したのだが、
ボルガは気にした風もなく苦笑しながら答えてくれた。
その様子に内心でホッとしながら、ボルガが漏らした言葉に興味を抱く。
(アーキス王国? 魔獣? 傭兵?)
聞きなれない言葉に錬はボルガの顔をそっと窺う。
30代半ばの精悍な顔つき。歴戦の戦士を思わせるようなするどい目つきにオールバックにした金髪。
そっと視線をボルガの首下に走らせれば、薄汚れた布の服越しにも分かる鍛えられた分厚い胸板や太い腕の筋肉がボルガの言葉を裏付けるように主張している。
魔獣うんぬんはともかく、彼が傭兵であることは嘘ではないように思えた。
「俺達を捕まえたのは誰なんでしょうか?」
「さぁねぇ。少なくともアーキス王国のものじゃないってことは確かだろうね」
まるで人事のように話すボルガに内心で頭を捻る。
この男は他の奴隷と違う。
他の奴隷がどこか諦めた表情でうずくまり身動きをしない中、このボルガという男の声は奴隷のものとはほど遠く明るいものだ。
いったいどういうことだろうか。まさか奴隷慣れをしてるなんてことはあるまい。
再び、錬はボルガの顔に視線を向けた。
前を向き、不敵に笑うボルガの目は死んでいない。
彼の目は生気に満ち溢れ、自らの運命を切り開かんとしている。
それは、まるで、
奴隷になっても戦士の誇りを失わず……か。
───2日後
時折、休憩を挟みながら錬たち奴隷を乗せた馬車は草原を抜け、山道に入る。
今までと比べようもない悪路に錬は内心で悪態をつくが、それも1時間ほどで終わった。
なぜなら、馬車がその歩みを止め停止したからだ。
始めは、どこぞの兵士が小便でも行きたくなったのかと思っていた錬だったが、一向に動き出さない馬車に怪訝な表情を浮かべる。
見れば、他の奴隷たちも同じような表情を浮かべ訝しんでいた。
「降りろ!」
馬車の荷台に現れた2人の兵士が手に持った槍で威嚇しながら言い放つ。
逆らうこともなく錬たち奴隷は、その言葉に従い荷台から降りて行く。
やれやれ、ようやく目的地に着いたのか。
馬車の荷台から降りた錬は、両手に手錠のように嵌められた鎖をそのままに太陽の光を浴びながら体をほぐすように伸びをする。
狭いところにずっと押し込められていると伸びをしたくなるものだ。
ついで首を左右にゴキゴキ鳴らしていると、先に降りた奴隷たちが、ある一方行を見てざわめいているのに気づく。
(なんだ?)
釣られるようにして錬が他の奴隷たちの見ている方に顔を向けた。
「おいおいマジかよ……」
自然と漏れる言葉。
奴隷たちが騒ぐのも分かる。
なぜなら、そこで錬が見たのは、
山間に建てられた信じられないくらいの大きな城門とそれに負けないような巨大な城壁だったからだ。
唖然として声が出ない。いったいどれくらいの高さなのか。100メートル?いや200メートルはあるかもしれない。
兵士たちの格好や奴隷たちの話しから薄々、この世界の文化は、ヨーロッパー中世程度だと思っていたから城があってもあまり驚きはないが、この世界の城門や城壁はこれほど巨大なのか?
なにしろ巨大すぎて、城が開けっぱなしの城門を通さないと見えないほどなのだ。
地球でもこれほど巨大な城はないのではないだろうか。
「アントリクスの古城……」
いつのまにか隣に立っていたボルガが城を見上げながら茫然と呟いた。
「アントリクスの古城?」
「おい!おまえら何をやっている!早くこっちに来て並べ!」
呆然とするボルガにオウム返ししたところ、返事を聞く間もなく兵士がこちらを見て怒鳴った。
近づいてくる兵士を見ながら、錬は嫌な予感を抑えられないでいた。
───嫌な予感がする。
───猛烈に嫌な予感がする。
馬車の中でも隙のなかったボルガが、こちらが目に入らぬほど呆けていたのだ。
きっと、何かよくないことが起きるに違いない。
だが、深く考える間もなく、せきたてられるようにして、錬はボルガと共に兵士の命じるまま鎖を引きずって歩き出した。
もちろん、兵士たちが錬たちを連れ行こうとしているのは城のほうだ。
正確には城門前の広場だが。
目に見える範囲だが、すでに沢山の奴隷たちが、体育館で行われる全校集会のように城門前広場で列作って並んでいる。
いったいこれほどの数の奴隷がどこにいたのか。
少なくとも自分の乗ってきた荷馬車1台分の数ではない。
他の奴隷たちも自分たちと同じように荷馬車に乗せられ、ここへやってきたのだろうか?
まぁ、今はそんなことはどうでもいい。
重要なのは、これから自分がどうなるかなのだから。
数百人の老若男女の奴隷がいるであろう広場に連れて来られた錬は、兵士に促され奴隷たちの並ぶ列の最後尾に並んだ。
「あー、これで全員揃ったようだな」
奴隷たちの並ぶ最前列、城門を背に朝礼台のような台に上がったでっぷりと太った男が、錬とボルガが並び終えるのを見てとると、こちらを見下すような視線をくれた。
今までの兵士と違い、かなり偉そうにしていることから隊長格なのだろう。
周りの兵士がその男に媚びるようにヘコヘコしている。
見るからに嫌な野郎だ。
「さて、諸君らも馬車での長旅を終え疲れていることだろうから手短に話そう。諸君らには、これからある任務をこなしてもらう。
それはワシの背後にあるアントリクス古城の攻略だ」
その瞬間、広場を埋め尽くした奴隷たちの大きなざわめきと悲鳴が上がった。
「やっぱりあの城はアントリクスだったんだ!」
「もう、助からない!終わりだ!助けてくれっ!」
と、言った具合に騒ぎを起こしパニックとなっている。
事情がいまいち飲み込めない錬は、いきなりざわつき悲鳴があがった周囲に驚き戸惑ったが、
奴隷たちの様子から、あの城門から中へ入ることが危険だと分かった。
(なんだってんだ)
尋常ではない騒ぎに解答を求めるように、隣の列に並んでいたボルガに顔を向けるが、そのボルガでさえ青ざめている。
「静まらんか!おまえらっ!!」
騒ぎが収まらないのに業を煮やしたのか、壇上に上がったひげ面の兵士が隊長格の横に立ち大きな声で喚いた。
「おまえら静かにせんと、すぐに城門から中に放りこむぞっ!」
その一言で水を打ったように静かになる広場。
中には石像のように動かなくなった奴隷もいて、こんな状況だというのに錬は少し笑ってしまった。
そうして、ひげ面兵士は静かになった広場をグルリと見回し頷くと、隊長格の太った男に軽く頭を下げ壇上から降りて行った。
「うむ、静かになったな。では、続きを話させてもらおうかの」
奴隷たちが慌てふためくのを面白そうに眺めていた隊長格は満足そうに目を細めた。
「先ほどの話しの続きだが、もちろん我々は諸君ら奴隷が、このアントリクスの城を攻略出来るとは思っていない。
そこでだ、」
一旦言葉を区切り、全体を見渡すと隊長格は大げさに両手を広げた。
「もし金貨10万枚を用意するか、それと同等の価値のあるものを、このアントリクスの城から持ってくることが出来れば
奴隷の地位から諸君らを解放しようではないか!」
「無駄口を叩かず、列を乱すな」
あの後、錬たち奴隷は鎖をはずされ、支給品を受け取るための列に並んでいる。
支給品とは、アントリクスの城を攻略するために必要な物資らしい。
いったい何をくれるのか気になるが、今のところ一番気になるのが、あの城に何があるかということだけだ。
不気味にそびえたつアントリクスの古城。
見る者全てを畏怖させるような巨大な城門と城壁。それを見ればなんとなくだが奴隷たちの嘆きが分かるような気がする。
どうせ中に入ればロクな目にあわないのだろう。
まだ朝方だというのに、夏を思わせるその日射しが容赦なく錬たち奴隷を照らし身体中からジリジリと水分を奪う。
早く進んでくれよ……。
汗が額に滲みそれを手の甲で拭いながら一向に進まない列にいらいらするが、文句を言う訳にもいかない。
列の左右には槍を持った兵が立ち並び、鎖から解放された奴隷たちを見張っている。
うかつな行動を取れば、殴られたり、場合によっては見せしめの為に殺されるかもしれない。
奴隷たちなんて奴らから見ればゴミみたいなもんだろう。兵士たちの奴隷たちを見る目が全てを物語っている。
1人2人殺してもまた他から連れてくればいいだけ。
どこの世界でも奴隷の地位は一緒らしい。
はぁ。
溜息ひとつついて錬は城の方へ顔を向ける。
支給品を受け取ったと思しき奴隷たちがノロノロと城門の方へ肩を落として歩いている。
どの奴隷たちの表情も絶望一色で、見ているこっちの気分まで重たくなった。
いったいあの城に何があるってんだ。
あそこに何があるか気になって仕方がない。
頼みの綱のボルガは自分よりだいぶ前の方に並んでいるらしく接触できそうにない。
とにかく支給品を受け取ったら、ボルガが自分を待っていることを願って全力で城門に向かおう。
そう、錬は心の中で誓った。
「次の者、前へ出ろ」
列に並び始めて数十分、ようやく錬は列の一番前に立ち兵士から支給品を受け取る。
渡されたのは、使い古された一本の銅剣と食料と水の入った二つの皮袋。
ところどころに血糊がついていることから、もしかしたら失敗した先行者のものかもしれない。
(剣を貰うってことは殺し合いでもさせられるのか……。そういえばさっき、城の攻略とか言ってたもんな)
壇上で偉そうにしていた隊長格の姿を思い出し虫唾が走った。
もし生きてここを出られたら自分を奴隷にした兵士たちの親玉である、あの太ったおっさんをボコボコにぶん殴ってやろう。
そして土下座させて謝らせてやる!
出来もしないことを妄想し、溜飲を下げる錬。
こんな妄想でもしなきゃ、やってられない。
「おっと、早く城門へ行かないと」
本来の目的を思い出し、銅剣を右手に持ち皮袋をベルトの左横に結びつけると、錬は50メートル先くらいにあろうかと思われる城門に向け走り出す。
少しでも生の喜びを味わおうとしてか、ノロノロと歩みを進める奴隷たちを次々追い抜き、先を急ぐその姿は、事情を知るものからすれば死に急ぎぬいてるようにしか見えなかった。
城門前に着いた錬は首を左右に振って城門付近にいる奴隷たちの中にボルガがいないか捜す。
やっぱり遅かったか。
チッと舌打ちしながら右手に持った銅剣を軽く肩に置く。
ボルガと思しき人物が城門前に向かったのは自分が支給品を貰うだいぶ前、待っていてくれるわけがない。
いくら人の良さそうな男だといっても、待ち合わせる約束すらしてないのだ。先に行ったボルガを責められないだろう。
それに冷静に考えてみればそこまで深い付き合いじゃない。馬車でたまたま隣同士だったというだけだ。
向こうは自分が傭兵だったということを話してくれたが、こちらは自分の事を突っ込まれることを恐れて何も話していない。西扇錬という名前すら言ってないのだ。
仕方がないか。
念の為に背後にいないかと思い、そちらを向くと、いつの間にか兵士の大軍が奴隷たちを取り囲むように半円の状態で20メールほど距離を取って槍や弓を構えている。
支給された銅剣で逃走や反乱を起こしても、すぐに矢が飛んできておだぶつということらしい。
仕事熱心な事で……。
皮肉気に口元を歪めると、顔を再び前に向ける。
さてどうするか…、他の奴に話を聞くしかないか。
尋常ではない奴隷たちの様子を見てしまった以上、このまま何も知らず城門を抜けるのは自殺行為。少しでも詳しい話を聞きたい。
「それにしてもやる気ない奴が多いな」
錬は呟きながら話を聞けそうな奴隷を捜すために視線をあちこちに飛ばす。
10万金貨で解放されるって知ったら少しはやる気を出しそうなのに、
奴隷たちの間には、「もう諦めてます…」とばかりに重苦しい空気が漂っていて、どうにも声が掛けずらい。
「んっ?」
そんな中、先ほどから城門前で銅剣を胸で抱え、きょろきょろしている1人の栗色のセミロングの少女の姿が目に入る。
いや正確には、その女の子の履いている短いスカートから覗く白い太ももがこれでもかと、目に入ってくる。
なんという眼福…。
いきなり訳の分からない世界に来て奴隷になるという不幸続きの錬だったが、この世界に来て初めていいことがあったと喜ぶ。
これは、もっと目に焼き付けておかねばな。
城門をくぐれば二度と目に入らぬかもしれないあの眩しい太ももに、邪な視線を送り続け頬を緩める。
だが、そんな錬のささやかな幸せは長くは続かなかった。
なぜなら、きょろきょろしていた彼女と目が合ってしまったからだ。
うっ……!!
太ももを凝視していたことがばれたのか、その少女はこちらを驚いたように見てとると、
次の瞬間、覚悟を決めたように、こちらに向かってツカツカとやってくる。
やばい、太ももを見てたのがばれたのか。どうしよう。
先ほどの幸せな気持ちは吹き飛び、
戦々恐々と少女が近づいてくるのを時間が止まったように見つめる錬。
もうダメだ。
目の前で立ち止まった少女を見て、錬はいよいよ覚悟を決め歯を食いしばり腹に力を入れた。
あの力強い目を見れば、いきなりビンタを食らってもおかしくない。
気分は、まな板の上の鯉である。
「あのぉ、、」
「はっ、はい!」
「ご一緒していいでしょうか?」
「…………は?」
思わず間抜けな声でそう言葉を漏らす。
この変態!と罵られ、ビンタでもくらうと思ってた錬は、予想外の展開に固まってしまう。
「あっ、えっと、言葉足らずでした。良かったらお城の攻略を一緒にやりませんか?」
固まった錬を見て、慌てたように目の前の栗色の髪をしたセミロングの少女が、こちらを見上げるようにして言葉をつけたした。
言ってる意味は分かる。が、脳がその処理に追い付いていない。
緊張と恐怖で良く分からなかったが、目の前の少女は美少女と言ってもいいほど可愛らしい。
少し汚れた栗色の髪に美しい青い瞳。髪の方は奴隷生活で薄汚れているが、ちゃんと洗えばつややかな色合いを取り戻すだろう。
年齢は自分と同じか1つ2つくらい下だろうか。身長は錬より頭半分くらい低く、顔の方はどちらかというと東洋的な堀が浅い可愛らしい顔立ちをしていて、優しそうな雰囲気を醸し出していた。
だが、しかし…これは。
問題は、彼女の服装にあった。
錬も異世界の制服という異質な服を着ているので人の事を言えないのだが、この少女の格好は別の意味ですごい。
セーラー服を思い起こさせるような青いリボンを胸元につけた黄色い半そでの布服に、丈の短い薄黄色のミニスカート。
ちょっと風が舞ったら間違いなくパンツが見えるに違いないという格好。
これからテニスでもやるのかという姿だ。
けしからん!けしからん!実にけしからん!だが、それがいいっ!
白い太ももが眩しく正直言って目のやり場に困るが、きっとこの太ももやミニスカートに隠された少女のお尻が自分のこれからの人生を救ってくれるに違いないということは確信できる。
急速に脳の処理を回復させながら、うんうんと悟りを開ききったように唸る錬。
すでに、頭の中ではいけない想像で溢れかえっている。
「あのー」
再び、自分の耳に聞きなれない声が響き、意識を覚醒させる。
見ると、先ほどの少女が、
そわそわしながらこちらを上目遣いで見つめて何かを訴えかけているようだ。
「なにか?」
キラリンと白い歯を見せながら錬は紳士に答える。
「いえ、、あの、それで返事は……」
こちらの様子に、若干引いたような笑みを浮かべる少女。
どう見ても、やばい奴にかかわっちまった、って顔をしてるが気のせいに違いない。
「……返事?」
「はい。返事です」
「………」
「………」
無言で見つめ合う錬と少女。
そう言えば何か言われてたような……。
「って、ああ!!
行きます行きます!是非ご一緒させてください!」
PTに誘われたの思い出し、錬はすぐさまOKの返事を出す。
危なく、この幸運を投げ捨てるとこだった。
汗をふきふき、白い歯をみせてニンマリ笑う錬は、第3者から見れば本当に馬鹿な男に見えるであろう。
実際馬鹿なのだが……。
「ほんとですか! ありがとうございます!」
丁寧に礼をしながら、少しはしゃいだようにピョンと跳ねた少女を見て、錬も嬉しくなる。
(こんなに喜んでくれて……俺と組めたのがそんなに嬉しいのか。でもお兄さん的にはもう少し高く飛び跳ねてパンチラを見せてくれると嬉しいな。)
西扇錬、本当に馬鹿な男である。
<< >>
- 2016/04/17(日) 20:50:07|
- 小説
-
| トラックバック:0
-
| コメント:0