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2─ 探索 ─

アントリクス帝国暦185年 地石の月。

数十年前、コード大陸、南の大部分を支配していたアントリクス帝国にある男が皇帝に即位した。
後にアントリクスの城を築いたアド=アントリクスである。
彼は、即位後たちまちのうちにコード大陸の約半分を平らげ周辺諸国を震え上がらせた。

しかし彼は、野心溢れる皇帝であると同時に大変な浪費家でもあった。


即位後、20年目。

大陸の大部分を手中に収めた彼は、帝国の国家予算3年分という莫大な資金と数十万人の奴隷を投入し、シール丘陵に巨大な城塞都市を築いた。

それが、このアントリクスの城である。

見たこともないような巨大な城壁に、白く美しい芸術の域を極めたような城。
訪れた者は皆、口を揃えてこの城こそが帝国の象徴よと噂したという。
皇帝アドはここを首都に定め、時には小国が傾くような浪費をしながら政治を行った。

だが、その栄華も長く続かなかった。
アントリクスを首都に定めて5年目。
突如、城の何処かより魔物が現れ、たちまち城と街を埋め尽くし、アントリクスの城は魔物たちの楽園となったからだ。

かろうじて難を逃れた皇帝アドは、城を奪還すべく兵を送り込んだが、ことごとく失敗に終わる。なぜなら城に近づけば近づくほど魔物は強くなり手に負えなかったからだ。

やがて帝国は城の奪還を諦め、アントリクスの城から魔物が出ないよう監視するだけとなった。

それが丁度10年ほど前の話である。




「錬さん、ここまで分かりましたか?」
「ああ、ありがとう。大体分かった」

錬の前で、PTを組むことになった可愛らしい少女が、どこか得意そうに講釈をたれている。
この少女の名前はティア。錬より一つ下の16歳で、その愛くるしい姿や仕草は、見る者を暖かな気持ちにさせる。
あれからPTを組むことになった錬は、お互い簡単な自己紹介を済まし、城門前でアントリクスの古城について説明を受けていた。

「なるほど。すると、アントリクスの古城には魔物がいて、奴隷たちはみんな生きて出られると思ってない訳か?」
「そうです。実際、軍隊でもどうにもならないですし、自分たちがお城を攻略できると思ってる人なんていないと思います」

ティア自身、生きてここから出られるとは思ってもいないのだろう。
先ほどの得意そうな顔を一転、今度はどこか硬い表情で話すティアに、錬は「ふむ」と頷いた。
自分を誘った理由は不明だが、
少なくとも一人で城に行くよりかはマシだと思ったに違いない。

まぁ、当然だな。

頭をガシガシ掻きながら錬は話を続ける。

「なら俺たちをここに連れてきたのは帝国の奴らか?」
「だと思います。ここは帝国領土ですし、彼らの旗にも帝国の紋章がありますし……」

チラリとティアが、兵士たちの方に掲げられている、青い旗に視線をやって目を伏せた。
鳥のような顔の金の刺繍が入った青い旗。
始めは見てもなんとも思わなかったのだが、こうして話を聞くとなんだか気分が悪くなる。
風にはためく旗を視界から外し目を閉じると、錬はこれまでの情報を整理するために思考に入った。

奴隷から解放される条件は、城を帝国の手に取り戻させるか、10万金貨か、それに等しい価値のある物を見つけること。
逃走は不可能。城の周りは帝国兵で埋め尽くされている。
現状、自分が生き残るには、奴らに言われた通り魔物の闊歩する城の攻略か、10万金貨に等しいものを探すしかない。
武器は銅剣のみ。
しかも自分は剣をもったこともない素人だときている。
どう見ても助からない。

自分が魔物と戦って勝てる想像がどうしても沸かないのだ。

(やはり死ぬしかないのか)
内心でポツリと呟き、自分が魔物に切り裂かれることを想像し憂鬱になってしまう。


いや、待てよ……。
そこで錬は、瞼を開き隣の少女に目を向けた。
自分をPTに誘ってきたこのティアという少女。
この娘が強ければ、なんの問題もないのではないだろうか?
彼女が戦い、自分がそれをなんらかの形でサポートする。これでグッと生き残る確率が上がるのではないか。

希望の光が見え、錬の心は躍る。

そうだ、ティアが戦えばいい!
先ほど生き残るのは無理みたいなことを言っていたが、少なくともここの世界の住人だし、自分より強いに決まっている。
きっと魔物をバタバタとは言わないまでも、一匹も倒せない自分と違って、何匹かは倒せるに違いない!
そして奴隷から解放されたらティアに頼んで、一緒に元の世界に帰れる方法を探してもらおう!
そうしよう!

都合のいい想像が次から次へと頭に浮かび、軽くなった心をそのままに口を開こうとした錬の機先を制するように、ティアが先に口を開いた。

「私、戦ったことないんですけど、錬さんってお強いんですよね?」
「……………」

キラキラした目で、期待するように錬を見つめるティア。先行きは不安である。







城門を潜って十数分後。

(もう少しだ。あと少し……)

「あのー……錬さん、どうして私の後ろを歩くんでしょうか?」
「いや、これには深い訳が……」

風よ吹け、風よ吹け、と念じながらティアのひらひらした黄色いミニスカートを
後ろから凝視する錬に、ティアが不思議そうに振り返った。

あれから錬とティアは、城門前の兵士たちに追い立てられるようにして城門を潜った。
ティア自身も戦いの素人だと分かった錬は、すでにやけくそ気味で、死ぬ前にティアのパンチラを目に焼き付けて死のうと必死である。

他の奴隷たちは城門を潜ると、みな思い思いの方向へ散っていき、傍に残るのはパートナーのティアだけであった。


「他の皆さんは、無事でしょうか?」

ティアが不安そうに周囲を見渡しながら呟いた。

「さぁどうなんだろうね、無事だといいけどね」

ティアが振りむいたことでようやくスカートから視線をあげ、気だるげに答えた錬は本当にやる気がない態度である。

城門から中に入ると、そこは一面、廃墟となっていた。
燃え尽きた家、崩れかけた石造りの建物、はたまた屋根のない商店らしき建物。
かつては沢山の人たちが住み、賑わってあろう商店や民家の残骸が無残な姿を晒している。
また思ってた以上に城下街が広いことに驚いた。

そして今、錬たちが歩いてるのは、城へと一直線に続く大通り。
馬車が5台分くらいすれ違えそうなほど、広い石畳が敷かれた道である。
時折、道端に落ちている枯葉が風に吹かれカサカサと道を横断する以外、特に変わったことはなかった。

「錬さん、これからどうします? このままお城を目指しますか?」
「ん、う~ん」

ティアに尋ねられ錬は低く唸る。
今のところ魔物は現れていないが、このまま城に行っていいのか疑問は残る。
金目のものを集めるなら城へ向かう方がいいだろう。こんな廃墟を漁って10万金貨達成できるのか疑問だし、もし先行者が入れば、城門から近いこの場所は取りつくされている可能性が高い。
だが、、、
そこで錬は遠目に見える白く美しいアントリクスの城を見つめる。
自分たちより強い武装、訓練を受けた帝国兵士たちが取り戻せなかった城。
銅剣一つの貧弱な装備と戦いの素人である自分たちがそのまま行くのは殺されに行くようなものだ。
自分たちは装備も力も情報も全てが不足しているのだ。行くにしても、もっと準備を整えてからでも遅くはない。

そう結論付けた錬は城へ行くのをあっさり諦める。

「ティア、いきなり城はやめよう。まずはこの辺りを探索して金目の物を集めるんだ」






─────ガサゴソガサゴソ

あれから2人は、すぐに大通りに面した商店らしき石造りの建物の中に入った。
一見したところ商品らしきものは何一つなかったが、念のためにと店の中を分担して漁っている。


「何か見つかったか?」

長い年月放置され、埃が積りに積もった商品棚の引き出しを漁っていた錬がティアに声をかける。

「いえ、こちらは何も。。」

台所を漁っていたティアが少し肩を落とし台所から出てきた。

(やはりそう簡単には行かないか……)

店内の狭い空間に埃が舞ってゴホゴホっと咳をしながら錬は顔を顰める。
愚痴を言ったところでどうにもならないことは分かってる。
戦闘経験のない自分たちが生き残るためには、こうして一軒一軒、廃墟になった建物をしらみつぶしに調べていくほかはない。
なんだかんだと言っても自分はまだ生きたい、死にたくないのだ。

日は既に空の頂点にあり、日射しがどんどんきつくなっていく。
この建物には屋根がついており、日射しを直接浴びることはないが、店外の大通りは見ているだけで暑そうだ。
こんな炎天下の中を歩くなんて、考えただけでも気が滅入る。

「ティア、少し休憩をしようか」

台所から出てきたティアに声をかけ、自分は商品棚の前に横倒しになっていた椅子を戻し、そこに座った。
椅子の背に体重を預けながら制服の上着ボタンを上からいくつか外し、手でパタパタやって風を取り入れる。
それだけで解放感に包まれ錬の気分を楽にさせた。

(そういえば、俺ってティアのこと何も知らないんだよな……)

ティアが錬の傍にあった椅子の上の埃を手で払うのを横目で見ながら、ぼんやりと考える。
誘われるがままにほぼ二つ返事でOKしてしまったが、兵士たちの監視もあり、必要最低限のことを聞く余裕しかなかったことを思い出す。
これから一緒に行動するなら、もう少しお互いの事をよく知っておく必要があるかもしれない。仲良くなった方が後々やりやすいに決まっているからだ。
とはいえ、ティアの身の上話など聞くのは少々憚れる。
どういう理由でそうなったのかは想像がつかないが、自分が奴隷になった経緯など話したくないだろう。
となると、今聞けそうなことは一番気になっていること。なぜ自分を誘ったのかだ。

「なぁティア、おまえ、どうして俺を誘ったんだ?」
「……ええと…それは」

椅子にちょこんと腰かけたティアが、俯いて少し言いづらそうに膝の上で指をくるくるさせた。

「いいよ、正直に言って」
「……強そうと思ったんです。私を守ってくれるくらいに」

「俺が?」
「はい。錬さんは他の奴隷と雰囲気が違いました。なんていうか自分が死ぬはずがないとかそういう自信が見えたんです」

買いかぶり過ぎだ、思ってもみなかった答えに、錬は内心で苦笑する。
そう見えたのは自分が何も知らなかったからだ。現に知ってしまった今は、他の奴隷たちと同じように魔物に襲われて死にたくねぇーとか思ってるし、ここからも逃げ出したい。

「すいません、錬さんを利用するみたいに誘っちゃって……」
「いやいや、謝らないでくれ。俺は全然気にしてないし、それにティアは可愛いから誘ってくれて嬉しかったよ」

ティアが恐縮するように少し居住まいを正し、謝罪するように頭を下げると、
錬は慌てて場を明るくさせるように少しおどけて笑った。

するとティアはわかりやすいほど顔を赤くして手を振ると、焦ったように言った。

「か、可愛いって!も、もうっ、錬さんって上手いんだから……。 でも、錬さんの足を引っ張らないように、私サポートを頑張りますね!」

照れているのか少し頬を赤く染めながら気合いを入れるように握りこぶしを作って、そう力強く宣言するティア。

それを可愛いと思いながら錬は思う。


やっぱり戦うのは俺なのね、と。





「う~ん、結局何もなかったか」
「そうですね」

錬とティアが、示し合わせたように同時に民家の床にドカリと座り込んだ。
あれから十数軒の商店や民家らしき建物をまわったが、誰かに持ち去られたのか怖いくらいに何もなく、がっくりと肩を落とした。
良かった事といえば、日が暮れようとするこの時間まで魔物に出会うこともなく順調に探索は進んだことくらいか。
結果はどうあれ、やはり錬が予測していた通り、城門近くの区画には金目の物はないことを確信し、このあたりで探しても無駄だと諦める。

(今日は、この民家の中で休んで、明日奥へ行くしかないか……)

茜色に染まり始めた道を眺めて汚れた手をズボンで拭うと、ティアと2人、夜を明かすためキシキシ軋む木造りの階段を2階へと上がる。
すでに体はくたくたで一刻も早く休みたい。
喉も乾いた。

「錬さん、ここで夜を明かすんですか?」
「ああ、そうしようと思うけど」

錬は疲労の混じった声でそう言うと、階段を上った先の部屋に入り、そのまま壁にもたれかかるように座ると胡坐を組んだ。

そして視線を落とすと、腰に結んだ支給された水の入った皮袋を取り出し、一口飲む。

「うっ、まずい」

飲みなれた水道水よりまずい味で、錬は顔を曇らせる。
疲れた時は水が美味いって聞くが、それを差し引いてもまずい。
というか、臭いのだ。
どうも皮袋の匂いだけでは説明がつかない。これは数日前の水の可能性がある。
考えてみれば奴隷にそこまで配慮する理由が見当たらない。

「錬さん?」

錬の真正面にある古いベットの上に女の子座りをしていたティアが、錬の呟きに反応し顔を上げた。

「ああ、いや、なんでもない。それより飯にしないか? 支給品の中に食料もあるみたいだしな」
「そうですね。私、おなか減っちゃいました!」

誤魔化すように錬がそう言うと。
一日中捜しまわったというのに疲れた顔を見せず、ティアは笑顔で支給品の皮袋の中から干し肉を一切れ取り出し頬張った。

(元気いいな、ティアは)

美味しそうに干し肉を食べるティアに苦笑しながら、錬も同じように干し肉を一切れ取り出し口に運ぶ。
思った以上に硬い肉に苦戦しながら黙々と噛みしめていると

「錬さん、明日はどうします?」
と、ティアが沈黙を破るように口を開いた。

「そうだな、ここまで何もないと奥へ行くしかないだろうな。だけど、その前に城門へ戻ってみないか?」
「……城門に、ですか?」

「ああ。ティアも支給された食料を見たから分かると思うけど、食料も水も1日分しか入ってない。このままだと俺たちは飢えて死んじまう。さすがに帝国の奴らも飢えで俺たちを殺すつもりはないだろうから、城門へ行けばまた貰えるんじゃないか?」

「なるほどっ、さすがは錬さんですね! 私も食料が一日分しかないのは不安だったんです。きっと城門へ行けばまた貰えますよ!」

錬の提案にティアは感心したように何度も頷いた。

「じゃあそうと決まれば、ちょっと早いけど寝る準備だけするか」
「はいっ!」

錬は手に持っていた干し肉を半分だけ食べ水を飲むと、立ちあがって部屋にあった古ぼけた大きな本棚を階段前に引っ張っていく。
木で出来た本棚には何も置かれていない為、一人でもたやすく動かすことが出来る。階段前にこれを置くことが出来れば、魔物がいきなり一階から現れても不意打ちだけは避けれるだろう。
階段の出入り口を塞ぐようにして本棚を置いた錬は、ふぅと一息をついてティアに視線を走らせる。
ティアは、ベッドの上や床に散らばったゴミや埃と格闘しながら部屋の隅へと追いやっていた。


(最低限の安全は確保できた。あとは寝る場所だが、、、)

2階にある他の部屋にベッドがないか捜しに行く。
この部屋にあるベッドはティアが使うとして、自分も出来れば床ではなくベッドで寝たい。

そう思って捜しに行ったのだが、意に反してベッドはなく代わりといってはなんだが、ボロボロになった布を見つけた。
こんなものでも床に敷けば直接寝るより、背中の痛みを軽減することが出来るだろう。

「どこに敷こうかな」

さすがにティアと一緒の部屋に寝るのはまずい。
自分も男だし、ティアは美少女と言っていい容姿をしている。いくら疲れているとはいえ自分の理性が持ちそうにないし、
ティアだって今日会ったばかりの男と一緒の部屋で寝るのは嫌だろう。

(隣の部屋で寝るか)

ティアのいる部屋を出て隣の部屋の床に布を敷くと、
よっこらせ、とそこに座り込む。
まだ夕方だというのに、なんだかんだといってもう眠い。鎖から解放されてそう感じるのだろうか、気を抜いたせいなのか、体中がふわふわする。

「10分だけ横になるか……」

錬はゴロリと本能のまま寝ころぶと、そのまま目を閉じた。





「……さん」

「……?」

「錬さん!」

はっきりしない意識の中、錬は肩をユサユサと揺さぶられ強制的に意識を覚醒させられる。
いい気持ちで寝ていたというのになんだというのだ。

「んっ、…なんだティアか」
「なんだティアじゃありません!」

目を覚ますと、すでに夜の帳が降り部屋の中は暗くなっている。
10分だけ寝るつもりが、数時間も眠りこけていたらしい。

「すまんすまん、それで何かあったのか?」

欠伸を噛み殺し、伸びをするように背を伸ばしながら
少し怒った顔でこちらを見るティアの怒りを鎮めるように、謝りながら用件を聞いた。

「そ、そうだった! 錬さん、さっきから1階で変な音がするんです!」


「……変な音?」
「はい、カシャカシャって音がします」

緊張感のないのんきな声で答えた錬に対し、切羽詰まった様子でティアは訴える。
その真剣な顔に、錬はとりあえずその音を聞こうと思い、口元に人差し指を当て静かにするように合図をした。

カシャカシャ…カシャカシャ。

耳を澄ませてみると、確かに下の階からカシャカシャと、今までに聞いたこともないような音が微かに聞こえてくる。
金属音でもなく生き物の鳴き声でもなく物を叩いている音でもない、何かを擦り合わせてるような音。

そのまま錬は起き上がると、傍にあった剣を掴み、ティアと共に音を立てずに忍び足で本棚で塞いでいる階段へと向かう。



カシャカシャ…カシャカシャ。

合いも変わらず階下から奇妙な音が聞こえてくる。
階段を塞いだ本棚の隙間から、そっと階段下を覗くが暗くて何も見えない。
月明かりや星の光は部屋の中を照らしても階段まではその光が届かないのだ。

(いったい何をしているんだ……)

音からいって複数ではなく単独のようだ。
だが、1階を荒らしてる様子はない。カシャカシャと音がするだけ。
今のところ、階段の方に来る様子はないが気になる。

(せめて人間かどうか分かればいいんだが…)

本棚をどけてまで下に降りる気はない。というかそんな勇気は出ない。
人間ならいいが魔物だった場合、襲われる危険性が大きい。
命の危険を晒してまで、そんなリスクを犯す必要はないからだ。


どうするべきか。
階段下に目を凝らしながら必死に考える。
このまま1階に居座られるのも困る。いつ上に来るか分からないため、緊張感を緩めることも寝ることも出来ない。
どうにかしてこの建物から出て行ってもらうしかない。そこでふと視線を感じ隣を見ると、ティアが銅剣を抱えて不安そうな眼差しを錬に向けていた。



(ふぅ、荒っぽいがこれで相手を確認することにしよう)

一計を案じた錬は、ティアを手招きして2階の窓際に連れてくる。

「どうしました?」

と、小さな声で話しかけてくるティアに、静かにするように指で合図を送ると、
錬は部屋の隅にあった木の板を手に取る。
それをどうするんです?とばかりにティアが視線を送ってくるが、それを無視し、木の板を頭上に持ち上げ
そして道の真ん中目掛けて放り投げた。

ガラン!!ガラン!!カラン!

鈍い音が響き渡り、木の板が石畳の道で跳ねると、すぐにシーンと静寂さが戻る。
先ほどから聞こえていたカシャカシャという音はもう聞こえない。道に落ちた木の板と同時にその音が止んだ為だ。

どうでるか…。

固唾を飲んで2階の窓からティアと一緒に下を見る。
これでなんの反応も見せなきゃまた新たな手を考えなくてはならない。
予想では確認の為、1階の奴が道に姿を現すはずだが。

───カシャ、カシャ、カシャ

来た!
暫く鳴り止んでいた音が再び響き渡り、予想通り1階にいた者がゆっくりと道に姿を現した。
暗くてはっきりは分からないが、白い頭と体、手には剣らしきものを持ちながらカシャカシャと音を立てて歩いてる。
先ほどからの音はこいつで間違いなさそうだ。こんな時間なんだから寝てろよな、と思いつつ錬は人間であったことに安堵の息をついた。

だが、錬はそこでふと違和感を感じ眉を顰める。

人間にしては痩せてるような……。
よく見れば肉がついていない、というか体が真っ白で全身が骨のように見える。

……いや、ほんとに骨だ。肉がついてない真っ白な骨だけ……。


ティアちゃん見て! 骨が……、人骨が歩いてる! 白骨死体がお外を歩いてる!

思わずそう叫びそうになり、錬は慌てて口を閉じティアを横目で見た。




「ス、スケルトン……」

息を飲んでティアがうめいた。

「……スケルトン?」
「はい。見るのは初めてですけど、間違いありません。あの姿、魔物図鑑で見た姿にそっくりです」

青ざめた表情のティアが説明を終えると、息を殺して身を沈める。

やはりあれは魔物らしい。
しかもティアの怯えようからあの骨は強いのだろう。
いや、単に骨が歩いてるから怯えているだけかもしれないが。

同じように身を屈めながら錬はスケルトンの様子を見続ける。

スケルトンは道の真ん中の木の板の前までゆっくり来ると、そこで足をとめた。
そして確かめ終えたのか、暫くするとスケルトンはゆっくり踵を返し、再び錬たちの建物に戻ってこようと歩きだす。

うわっ、まずい!

他に行けばいいのに、このまま中に入ってこられたらたまらない。
だからだろう、焦った錬は咄嗟に床に落ちていた木片をスケルトン目掛けて投げつけてしまった。

──コンッ!

木片がスケルトンの肩辺りに見事命中し、その動きが止まる。

「な、なにしてるんですか!?」
「す、すまん、つい!」


やってしまった。
気を引くためだったとはいえ、自分の軽率な行動を悔やんで頭を抱える。
少し考えてみれば、それがどのような結果を生むか分かったからだ。

案の定、スケルトンは周りを見回すように頭蓋骨を左右に動かしている。




目が離せない。
不気味な静寂の中、魅入られたようにスケルトンを見続ける。
たぶん、初めて自分が魔物と呼ばれるものと遭遇し攻撃してしまったせいだろう。
瞬きすることすら忘れている。

そしてついに、スケルトンは不意に上を向いた。

目が合う。
いや、白骨死体のスケルトンには目がないのでそう言わないのだが、本来眼球のある場所の真っ黒な空洞部分の奥が、確かに錬と視線を合わせたのだ。




見つかった! 殺される!
本能的にそう悟った錬は、咄嗟に立ちあがり銅剣の柄を握り締めると、スケルトンからの攻撃に備えるように剣を構える。
2階と1階という離れた場所でスケルトンと対峙した錬だったが、錬にはスケルトンがそんな距離などお構いなしに攻撃してくると、そう思ったのだ。

──瞬間、その予感は当たった。

スケルトンは持っていた剣を勢いよく振りかぶると、一気にこちらに向かって剣を放り投げてきたのだ。
唯一の武器であろう剣を惜しげもなく投げてくるスケルトン。
筋肉のついてない骨だけの腕だと言うのに、そのスピードは信じられないくらいに速い。

「くっ!!」

自分の顔を目掛けて投げられた剣。身を動かす暇もないとばかりに首を傾け、辛うじてかわす。
剣は本来あった顔の位置を勢いよく素通りし、そのまま天井にドスッ!と突き刺さった。

「あ、あぶねぇ……」

内心で冷や汗を垂らす。もし、剣を構えて心をしっかり持っていなかったら、自分はスケルトンを呆けたように見つめながら死んでいただろう。
普段は当たらない自分の勘だが、今回ばかりはその勘に助けられたようだ。
「ふぅ、」と軽く息つきながら油断なくスケルトンに視線をやると、武器を失ったスケルトンは真下の道を歩きながらグルグルとまわっている。
普通なら1階から2階へあがって錬たちを襲おうとするのだろうが、そのような素振りを見せずに、時折こちらに顔を向けながら
狂ったようにグルグルと円を描くようにその場をまわっているのだ。


ひょっとして…こいつは思った以上に頭が悪いのか?

先ほどこちらに向けて剣を躊躇なく投擲してきたことといい、1階から階段を使って2階に来ないことといい、スケルトンの行動はとても頭のいい行動とは思えない。


だが、考えてみれば当然のことなのかもしれない。
白骨のスケルトンには脳みそらしきものが見えないし、脳みそがないということは考える力がないということだ。
つまり眼下のスケルトンは、とてつもなく頭が悪い。悪いのだ。
緊張の限界を超えて逆に冷静になったのか、
自分でも怖いほど冷静になった頭でそう分析すると、スケルトンを打倒する為に頭を回転させ始める。

「ティア!」

先ほどの攻防を見た為なのか、真っ青になったティアがペタンとへたり込んだまま言葉を失っている。

「しっかりしろティア!」

怒鳴るようにしてもう一度声をかけ、両肩に手を当て体を揺さぶる。

「あっ……れ、錬さん」

ハッ!と気を取り直したように目の焦点を戻したティアに、錬は「スケルトンを退治するから手伝ってくれ!」と、そう告げた。





退治するといっても、スケルトンの前に出て戦うわけではない。
やり方は至って簡単、小さなタンスを2階の窓からスケルトン目掛けて落とすだけ。
頭が悪いと思われるスケルトンになら通用しそうな手の一つだ。

作戦の内容をティアに話した錬は、ティアと一緒に部屋の隅にあった小さな木のタンスを2人で持ち上げ「んしょ、んしょ」と窓に運んで行く。

「上手くいくでしょうか?」と小さな声で聞いてくるティアに錬は笑顔を見せながら「上手くいく」と確信めいたように答える。
錬としては別にスケルトンがこの一撃で始末出来なくても構わない。スケルトンの体の一部分が、落下するタンスに巻き込まれて破壊出来ればそれでいいのだ。
破壊さえできれば戦闘力は低下しさらなる手が広がるし、他の手を打たなくても別に上から重い物を落とし続けても奴を倒せる。
なにせ2階には3つの部屋があり、他の部屋にもタンスや本棚など重いものがあるため道具に困ることもない。
あとはスケルトンが思いもよらない行動をとらず、真下でグルグル円を描くようにまわっていてくれることを祈るばかりである。


あとは落とすだけか。

窓際にタンスを落とす段階まで持ってきた2人はそこで一旦動きを止め、真下へと視線を走らせる。
スケルトンは変わらず狂ったようにその場をまわっている。自分たちを攻撃したいのに出来ない、かゆいところに手が届かない、そんな感じだ。

(悪く思うなよ。成仏してくれよ……)

念仏を心の中で唱えながら反対側にいるティアに声をかける。

「いいか、俺の合図で落とすぞ」
「は、はい。分かりました」

下を覗きこんでいたティアが緊張した様子で振りかえり頷いた。

「いくぞ!せーのーでー!」

スケルトンのいる丁度真上になるようタンスを持ってくると、掛け声と共にタイミングを合わせてタンスを窓から落とす。

重力に引かれるまま落下していくタンス。
あの重さのタンスに巻き込まれたらただではすまないだろう。

ドガッ!!ガシャン!

大きな音を立てタンスが大通りの道に落ちた。錬が身を乗り出すようにして下を覗きこむ。


やったか!?

道には横倒しになったタンスと白い骨のようなものが道に散乱している。
暫く様子を窺ってもなんの変化もないことから、どうやらスケルトンを始末出来たようだ。


「やりましたね!」

「……ああ、そうみたいだな」

同じように下を覗きこんでいたティアが、顔を綻ばせ興奮したように自分の腕に飛びつくように抱きついてきた。よほど嬉しかったらしい。
かくいう自分もこれほど上手くいくとは思っていなかった為か、体中から高揚感が湧き上がっている。

そう、魔物は決して打倒出来ない相手ではない。
他の魔物はどうか知らないが、知恵を巡らせれば自分たちのような戦闘の素人でも奴らを倒せるのだ。

腕にひっついたティアが、盛んに自分を褒めるのを耳に入れながら、
錬はこれからの城探索に微かな希望を感じるのだった。









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  1. 2016/05/01(日) 00:00:01|
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