放課後旧校舎の一角の畳8畳分の和室で、一人の男が部員たちを前に熱弁を振るっていた。
その男こそ、西扇夏雄。この物語の主人公である。彼は、この超能力研究会の創設者であり、部長でもあるややイケメンの男子だ。
彼は放課後、この部室に部員である男女4人を集め、超能力発現方法について語り続けていた。
「そうだな、説明するとこう言ったら分かるかな」
そう言って僕は和室に備え付けてあった黒板に文字を書いていく。
「たとえば君たちは手足を動かすことが簡単にできるよね。だけど今すぐ涙を流せと言われてもできないと思う」
「そうだね」と部員たちは頷く。
「手足が動くのは大して意識せずとも動く。それは脳から瞬間的に電気信号が筋肉に送られているからだ。
だけど、涙は痛い目にあったとき、悲しいとき、嬉しいときなど、刺激や感情負荷がないと出ない」
「さらに言うと、射精。それは性的快楽、主にペニスを刺激しないと出ないものだ。
それは、さらに出る方法は限られるだろう」
ペニスという言葉が出た途端「きゃあ!」という複数の女の子の悲鳴があがり、それに続いて非難と近くにあったざぶとんが僕に向けて飛んできた。
僕はそれを冷静によけると、何事もなかったように片手を広げる。
「つまり超能力もそれと一緒で、普段使われていないなんらかの場所に刺激を与えることによって、出せると僕は考えるわけだ。わかったかな?」
◇
まずは、僕がこの研究会を作った経緯について話を始めよう。
それはある日の夕方、学校を終え帰宅している途中の出来事のことだった。
住宅街を歩く僕の前に、突然一匹の赤いスカーフをした三毛猫が立ちふさがったのだ。
「何か用かな? 名も知らぬ三毛猫よ」
ちょっと中2病が入ってる僕が、気取って問いかけると、信じられないことに三毛猫が首を傾けて喋ったのだ。
「ふふ、実は君にお願いがあるんだ。僕と契約して超能力者になってよ」
「………………はっ?」
猫が突然、喋り出したことに驚きポカーンとする。
だが、これが現実なわけはない、白昼夢だと気を取り直すと、口元を吊り上げた。
「よかろう、この西扇夏雄、貴様と契約して超能力者になってやろう」
「ほんとかい? それは助かる。じゃあ、君と僕はこれから魂の契約を果たそう。では君を超能力者として覚醒させるね。いくよ」
ぱあーと三毛猫が白く輝き、周囲を巻き込んで何もかもが虹色に染まって、目を開けていられなくなる。
「ぐうっ……」
身体が熱くなる。自分の全てが作り変えられていくのを感じる。
僕は、それにじっと耐えながら光が収まるのを待つと、暫くして徐々に瞼の向こうの光が薄くなっていくのを知って目を開けた。
「おつかれさま夏雄、君は今日から超能力者だ。僕のパートナーとしてこの世界に巣食う悪党共を倒そう」
いつの間にか自分の部屋で立っていた僕に向かって、三毛猫は前足を舐めながらそう言った。
「ええと、ひょっとして夢ではない?」
「当たり前さ。僕はちゃんと君を超能力者にしたよ」
身体から湧き出る異質な力を感じ取り、僕の夢は一気に覚める。
「僕はホントに超能力者になったんだ……」
両手を自分の胸まで持ち上げ、ぎゅっと握りしめる。
「君もしつこいね。さっき超能力者にしたって言ったのに」
三毛猫は僕のベッドに飛び上がり、そのまま掛布団の上に座る。
僕はそれを見つめながら、
なぜか、今起こってる現実を当たり前のように受け止め、喋る猫を見つめた。
「ところでおまえは誰なんだ? 名前くらいあるんだろう?」
「あるよ。僕の名はJB。これからは僕のことをJBって呼んでね。マスター夏雄」
「JB……」
僕はその言葉を噛みしめ、ためしに机の上に置いてあったシャーペンに手を伸ばし、動かそうと試みた。
だけど、動かそうとしてから一分も経つのに、まったくシャーペンが動く気配がない。
これはいったいどういうことだ。僕は超能力者になったんじゃないのか?
と、眉を顰めると、JBがその疑問を解決するように口を開いた。
「夏雄、君の能力は念動力じゃないんだから、それは動かせないよ」
「なに、じゃあ、俺の力はなんなんだ?」
「君の力は、千里眼と人間の性欲増大さ。戦闘向きじゃないね」
「そうなのか……」
少し残念と思いつつ、僕はすぐにあることを思いつく。
「千里眼なら遠くを見れるよな」
僕は、すぐに近くの商店街にある銭湯の方に向くと、そちらの方を睨んだ。
「おっ……」
睨むこと数秒、最初は室内がぼんやりとしか見えなかったが、みるみるうちに銭湯内部が鮮明となる。
おおおおおーー!!
若い女性の裸体があらわになり、思わず目を見開く。
が、すぐに見たくないおばちゃんの裸も目に入り、僕は目を逸らし千里眼を中止した。
「なるほど、確かに千里眼だ。それにしてもさっき悪党退治とか言ってたけど、それはどういう意味だ? 犯罪者なら警察に任せておけばいいんじゃないのか?」
「そうだね。普通の犯罪者なら警察に任せておけばいいだろう。だけど僕たちが相手にするのは普通の犯罪者じゃない、魔法少女っていう悪いやつらさ。彼女たちはとっても強くてね。超能力者じゃないと手におえないってわけだよ」
「魔法少女が敵って……マジか」
自分の中では正義の味方である、魔法少女が敵とは、まったく想像がつかない。しかも名前からして強そうだ。
「それってやっぱ複数いるってことだよな」
「そうだね、沢山いるね。このあたりにはまだいないみたいだけど、彼女たちは移動しながら悪いことをしてるから、いつかはここにもやってくるだろうね」
そこで前足をなめるJB。
「なぁ、ぶっちゃけ僕の能力で勝てるのか?」
聞くのが怖い。結果は想像できるが、これを聞かなきゃ始まらない。
「無理だろうね。君にはまず勝ち目がないよ。彼女たちは超能力者を憎んでるから、君も見つかったらすぐ殺されるだろうね」
「最悪じゃねぇか!!」
僕は頭を抱えて床にうずくまる。
勝てないことは分かってたが、彼女たちが超能力者を憎んでるとは夢にも思わなかった。いや、JBの口ぶりからすると、魔法少女と超能力者は敵対してるのだから狙われるのは考えてみたら当然か。
きっと戦いの中で犠牲者がいっぱい出てるから憎んでるのだろうとそう見当を付ける。
「じゃあ、どうすればいい? どうすれば勝てる?」
「超能力者を増やすしかないね。増やした超能力者の中に戦闘向きの能力者がいれば、魔法少女相手にも戦えるだろう」
猫故なのか、まったく変わらない表情で淡々と言うJB。表情を見てるだけだと完全に他人事だな。
僕はため息をついて立ち上がると、JBに尋ねる。
「どうすれば超能力者を増やせる? さっき僕と契約したみたいに他の奴も契約させりゃいいのか?」
「残念だけど、それは無理だよ。僕は君と契約しちゃったからね。超能力者を増やすためには脳のリミッターを解除してやればいいよ。普段抑制されている性の衝動とかをね」
「性の衝動?」
「そう、理性の壁とも言うね。人間は普段から我慢して生きている。あれが欲しいけどお金がないから我慢する。あいつを殴りたいけど捕まるから我慢するとかね。
そういう理性の壁のうち、もっとも原始的な人間に与えられた欲望、性への欲求を解放してやればいい。それでリミッターは外れ、新たな超能力者が誕生する。幸いにも君の性欲増大能力は超能力覚醒を促す鍵にもなってるから簡単な話だよ。よかったね」
あくまでも他人事のように言うよなと思いつつ僕は頷く。
「……そうだな、簡単だな。じゃあ、明日僕と一緒に戦えそうな奴を集めて、超能力者にしてみるよう努力してみるよ」
「それがいいね。じゃあ、僕はそろそろ寝るよ。君を超能力者にして疲れたからね」
そう言ってゴロリと横になったJB。
どうやらこのまま僕と一緒にいるつもりらしい。
僕は、JBを布団の脇に押しやると布団に入って目を閉じる。
明日、誰を誘うか考えながら。
次の日、僕はJBと一緒に学校に行くために家を出た。
なんでもJBは、自由に姿を現したり消したりできるので、登校中はもちろん授業中でも傍にいられるらしい。
しかも自分の声は、超能力者の僕にしか聞こえないと言うのだから驚きだ。
「夏雄、君はいったいこれからどうするつもりだい?」
「ん、そうだな。とりあえず仲のいい友達を誘ってみることにするよ」
「そうなのかい。まぁそれが正解だろうね。知らない人を超能力者にしたらいきなり襲ってくるかもしれないからね」
JBは頷きながら機嫌よく尻尾をふりふり隣を歩く。
「それでなんだが、いきなり超能力者になってくれと言っても、きっと僕は可哀想な目で見られると思う。どうしたらいい?」
「それを僕に聞くのかい? 君に超能力者になってくれと頼んだ僕に」
「いや、あれは、おまえが猫だったからだよ。非現実的すぎて思わず「はい」って言ったわけだし」
「そうだろうね。あれほど簡単に契約がいったのは君が初めてだしね。大抵の人は僕から逃げるか、捕まえようとするよ」
「だろうな……」
どうみても化け猫だし。
納得して、そのまま商店街を歩く。
と、そこでパン屋の前で、一枚のチラシを手渡された。
「これは……」
「どうしたんだい? 夏雄」
「いや、いい案を思いついた。これならいけるかも……」
そこには新装開店オープニングセール全品30%引き、と書かれたパン屋の文字が躍っていた。
「えっ、部を立ち上げるから手伝え? いったいなんの部を作るつもりだよ」
昼休み、僕はクラスで仲のいい友人のひとり、三色誠斗に声をかけた。
彼は、高校に入ってからの友人で、最初にできた友達でもある。性格は非常に軽いが、僕とは不思議と気が合い普段から一緒に行動している。
軽音部に入ってないのに、たまにギター片手に校内をふらついているところを除けば、友人としては悪くないだろう。
それにこいつは面白いことも大好きなので、超能力者になれば、きっと僕と一緒に戦ってくれるにちがいない。
「超能力研究会だよ。面白そうだろ?」
「そうだな。俺も超能力使いたいぜ。こうやってビューンって感じで!」
右手を振って、誠斗は掃除用ロッカーに手を向ける。
こいつも中2入ってる。
「じゃあ、決まりだな。他に信頼出来て、入ってくれそうな奴知らないか?」
「一人いるな。隣のクラスの逢坂渉って奴だ。知ってるか?」
「いや知らないな。誠斗の友人なのか?」
「そうだ。あいつは中学時代からの友人でさ。いい奴だよ。お前もきっと気が合うと思うぜ」
「そっか。ならそいつを誘ってくれ。僕はあと一人、入れたい奴がいるからそっちに声かけてくる」
「わかった。渉には俺が声をかけとく。じゃあな」
さっそくとばかり、軽いノリで隣のクラスに向かった誠斗。
本当は女の子だけのメンバーで固めたかったのだが
魔法少女と戦うという話なのだから、女の子だけだと不安がある。それに、男相手でどこまで性欲増大の力が効くのか確かめておきたい。
そういう判断だ。
それにしても、誠斗があんまり深く考えてくれなくて助かる。
そして僕は、教室の前の方でお喋りをしている二人組の女の子たちに近づいた。
彼女たちのうち一人が、僕に入ってほしい女の子だ。
やっぱり性欲増大ならエロイことになるんだろうし、是非、僕相手にえっちなことをしてもらいたい。
「壬生谷さん、ちょっといいかな。話があるんだ」
「ん、なに?」
ふわりと栗色の髪をなびかせ、振り向いたのは壬生谷森花。
このクラスで1、2位を争う美少女だ。
彼女と僕の関係は中学時代からの友人で、この学園で言えば一番仲のいい女の子。
栗色の流れるようなふわふわした長い髪、その髪につけたピンクの髪留めがとても目立って可愛らしい。身体のほうも男たちから毎日邪な視線が送られるほどのグラマーであり、性格も非常に明るく誰に対しても優しい、まさに完璧少女。
ぶっちゃけ言うと、恋してます。彼女に。
「実はさ、これから部活を立ち上げるんだけど、壬生谷さんにもぜひ、その部に入ってもらいたいんだ。どうだろう?」
「ん、どんな部?」
「超能力研究会って部活。超能力を覚醒させるための研究会って言った方がいいかな」
「へー面白そうだね」
興味津々で僕の話に乗ってくれた壬生谷さん。これはすんなり入ってくれそうだ。
「なら壬生谷さんを頭数に入れていいかな? 他も1年だし、気楽でいいよ」
「うん、掛け持ちOKならいいわよ、わたし、チア部に入部してるから」
「ああ、それなら問題ないよ。そんなに厳しくない部にするつもりだし」
「そう、ならよろしくね」
にっこり笑う壬生谷さんはやっぱり可愛い、惚れ直す。
「じゃあ、放課後、職員室に部活立ち上げの書類を提出するから、明日部室に来てくれるかな」
「うん、いいわよ。じゃあ明日、部室に行くね」
そう言って彼女は友人のところに戻っていった。
これで部員は僕を入れて4人。超能力者にするには性欲増大させなきゃいけないんだから、女の子が壬生谷さん一人だと襲われちゃうな。他に女の子を入れないと。
僕はキョロキョロ辺りを見回し、そして誠斗と渉という男の相手に相応しいという女を思い出す。
あいつなら、きっと問題ないだろうと、彼女、渡部早季の姿を探し求めた。
「なによ、あんた。私になんか用なわけ」
廊下で見つけて声をかけた相手、こいつが渡部早季、僕の天敵だ。
なにせ僕が壬生谷さんと仲良くしてると必ず邪魔してくるのだから、忌々しいにもほどがある。最近では、他の女の子と喋ってても邪魔しにくるのだからどうにかしてほしい。
とはいえ、容姿に限っては学年でもトップクラスで、隠れファンも多いという噂の持ち主だ。
茶髪のショートカットに、ほどよい胸の大きさ。確かに可愛さだけなら問題ないだろう。
「実は渡部さんにお願いがあるんだ」
「……なによ」
「えっと僕は今、超能力研究会って部を作ろうと思ってるんだけど、その部に渡部さんも入ってほしいんだ」
「超能力研究会……? なにそれ、へんな部じゃないでしょうね!」
あまりの大声に、廊下にいた他の生徒がこちらに振り返る。
「ちょっと、声が大きいよ。それに変な部じゃないし、壬生谷さんも入るんだよ」
「……なんですって」
ピクンと早季の眉が跳ね上がり、
みるみるうちに不機嫌になる。
「わかったわ。私も入る。それでいいでしょ?」
「うん、ありがとう。助かるよ」
こうして部活メンバーは揃った。
ホントは人数合わせの意味でも、あと一人女の子を入れたほうがいいんだけど、能力を使用した場合、どんなカオスな場ができるか分からないのであまり部員を増やすのは得策ではない。この場合、部の設立が認められる5人だけで十分だろう。
壬生谷さんは僕が独占することにして、早季には誠斗たちの相手をしてもらうとしよう。いつも僕に突っかかってくる罰だ。
>>
- 2012/10/22(月) 23:21:12|
- 小説
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