「奈々、入るぞ」
「……………ぷいっ」
俺が部屋にお盆を持って入ると、制服姿の奈々はソファーに座ったままプイッと横を向いた。
俺はその態度に若干へこみながら、にこやかな顔で言う。
「奈々、お腹減ってないか? チャーハン作ってきたんだけど」
リビングに入り、奈々の対面に座ると、持っていたお盆の上からチャーハンをテーブルの上に置く。
「あっ、しまった。スプーン持って来てなかったな。借りるぞ」
奈々がそっぽを向いてるので、俺は立ち上がり台所からスプーンを取ってくる。
そしてスプーンを皿の脇にコトンと置くと奈々の反応を待った。
「………………」
勝手に入ってきた俺を非難しようとせず、ひたすらに俺を無視し続ける奈々。
俺はついに最終手段を繰り出した。
「奈々! すまん。俺が悪かった。でも俺にはああするしかなかったんだ。」
ソファーからどき、そのまま床の上で土下座する。
「……………」
「俺は進級したかったんだ。奈々だって分かってるだろ。男だからって優遇されてる世界で、留年や退学したらどうなるかってこと。
奈々は、俺が留年や退学してもいいって思ってるのか? 違うだろ? なら分かってくれ。お願いだ、奈々」
誠心誠意、心を込めて奈々に訴える。
奈々だって馬鹿じゃないんだから分かってくれるはずだ。俺の立場がどれほどキツイものかを。
いや、分かってるからこそ奈々も俺に対して本気で怒ったりしてないのだ。本気で怒ってたらすぐにでも俺をこの部屋から追い出すだろう。
泣いてだっているはずだ。
「チャーハン、まずかったら捨てても構わない。じゃあ……」
俺は立ち上がると、奈々の方を少しだけ見てそのまま部屋を出た。
あんまりしつこく粘ったら、奈々とはかえって拗れる。これは経験からわかってることだ。
明日になったらまた話してみよう。きっと話くらいは出来る。
俺は、奈々の部屋のドアを閉めて、自分の部屋に戻った。
5日目、早朝。
俺は、朝から鳴り響く電話で強制的に起こされた。
「んうっ、今何時だよ……」
顔を顰めながらベッドから身を起こし、目覚まし時計を見ると、朝の6時だった。
俺はそのまま舌打ちしたい気分を抑え、室内の電話を取る。
「はい、もしもし……どちらさんですか?」
「起きたかしら、私だけど。」
なんだ桜かよ。そう呟きながら、寝ぼけ顔のまま用件を問いただす。
「あなた昨日言ったこと忘れたの? 今日は朝からセックスさせるわよ。すぐに教室に来なさい。」
「おい、マジか。まだ飯も食ってないんだけど」
そういや、昨日の放課後に時間を変えて射精させるとか言ってたな。
働かない頭で、ボリボリ頭を掻くいて、欠伸をすると受話器の向こうから桜の呆れた声が聞こえてきた。
「分かってるの? これは貴方の為なのよ? 嫌なら無理して出て来なくてもいいんだけど」
「わっ、待ってくれ。すぐ行くから。教室だな!」
桜に慌てて言い返すと、そのままパジャマを脱ぎだす。
部屋に脱ぎっぱなしになるが、時は一刻も争う。俺は食パンをすぐに焼くと、その間に歯磨きや制服に着替え、すぐさま食パンを食べて寮から飛び出た。
奴がどっから電話してきたのか知らないが、すでに時間は10分は経っている。あまりに遅れたらまた何を言われるかわかったもんじゃない。急がないと。
早歩きから小走りになり、人影がないほど朝なのにダッシュする。
心臓まで走ってる気分だ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
私は男が嫌いだ。
いつから嫌いだと問われれば、物心ついた時から嫌いだと答えるだろう。
私の家族は3人家族だ。父と母と私の3人家族だ。
私の父は、傲慢で粗野で、滅多に家に帰らない男だった。なぜ帰って来ないのかは簡単だ。
それは、私の家族が父の作ったハーレムのひとつだったからだ。
思い出したかのようにしか帰って来ない父とそれを健気に待ち続ける母。
帰ってきたとしても、家族らしい会話なんてほとんどない。
リビングで夕食を済ませた後は、母は決まって、父に手首を掴まれ寝室に連れて行かれ抱かれる。いや、使われる。
見てしまったからだ。
寝室で母が父に使われる姿を。
おまえは、俺の作った5番目の肉便器だと、罵られながら、暗い寝室のベッドで後背位で犯されている姿を。
幼い私は見てしまったからだ……。
私は小学生になった。
学校に男はいたが、乱暴で我儘な子だった。
中学生になった。
そいつは初対面の私を見るなり、やらせろと言ってきた。最低な男だった。
もちろんやらせず、私はそいつの股間を蹴った。
結果、私は停学になり、クラスどころか学校からも浮くようになった。
私は男を軽蔑した。
数が少ないというだけで、好き勝手に出来る彼らを。
そしてそんな世の中にした社会を。
私は高校に進学することになった。
その頃の私は、母と一緒に家を出ることばかり考えていた。
お金が欲しい。
男に頼らなくてもやっていけるだけの地位とお金が欲しい。
男が優遇されているこの世界では、男と家庭を持つだけで生活は安泰だ。
それが仮に重婚だろうと関係ない。全てが男を中心に世界がまわっている。そんな現状を憂いて人工授精派が頑張っているらしいが、恐らく何も変わらないだろう。だって男がいなくなったらこの世界は終わるのだから。
とにかく私は進学先を決めなくてはならなかった。
そして見つけた。
お金が入って、無事卒業できた暁には、政府から多大な見返りが期待できる学校を……。
教室にいる私のもとにドタドタと廊下を走ってくる音が聞こえてくる。
きっとあの男だろう。
私に男の印象を変えさせた、あの男が。
案の定、息を切らせて教室に入ってきたのは、私の友人である瀬戸宮奈々の幼馴染『芝山勇太』だった。
この学園に来て最初に出来た友人、奈々が私に助けを求めてきたのが彼と知り合うきっかけだった。
基本的にこの学園のクラス分けは、入学する女子生徒に事前に希望を聞く。その男子の人気が高ければ、そのクラスになるかは抽選になり、逆に定員内におさまれば、そのまま希望通りのクラスに入れる。
私がこのクラスに入ることを決めたのは、与えられた情報のなかで顔だけで選んだものだ。
どうせ性格などはいいようにしか書いてないだろうし、どの男も本質では傲慢で粗野だと分かっていたからだ。
5人の男の顔写真の中で、一番平凡で特徴のない顔立ち。
これなら他の童顔や優しそうな顔立ちの男を選んで微かな期待が芽生えるよりかはマシだろう。そう思ったからだ。
奈々は、そんな彼の幼馴染で、このゲームに何も知らないで参加する彼の事をとても心配していた。
よくよく彼の事を聞くと、奈々は嬉しそうに私の知る男とはまるで違う男の像を語ってくれた。
私には俄かに信じられないことだが、彼女と勇太という男には確かに信頼があった。
少し興味が出てくる。
彼の化けの皮を剥がして見たくなる。
男の本質はケダモノなのだと奈々に教えてみたくなる。
だから私は奈々に協力することにした。
きっとこのゲームを進めるうちに彼の醜い本性が出るだろうと思って。
そして彼と会った。話してみると馬鹿だった。だけど口は悪いけど、その言葉には悪意がなくどこか温かかった。
他の男から感じる傲慢さや、粗野な部分が感じられなかった。だけど私はそれを素直に信じることが出来なかった。
入学して4日目に乱暴そうで力が強そうな男が、寮の前で私と勇太の前に現れた。
彼は勇太を脅し、私を無遠慮にジロジロと品定めするような視線を向けてきた。
私は今まで辛辣な言葉を使い続けて勇太を怒らせてきた。きっと彼はこの場を逃れる為に私を引き渡すだろう。そう覚悟した。
私はいざとなれば、ポケットに入れたスタンガンを使うつもりでポケットの中に手をいれた。でもそれは杞憂に終わった。
なぜなら勇太が私を庇うように前に出て、男を宥め始めたからだ。
信じられないといった風に彼の背中をみる。
彼は私を見捨てると思ってた。男なんて自分さえよければいい。女なんて変わりはいくらでもいる。そう考えていると思っていた。
だけど彼は違った。明らかに彼は私の姿を隠すように前に出て、この場を切り抜けようとしている。
あんなにひどいことを言い続けてきたのに。あれだけ彼を侮辱して来たのに……。
気が付けば私の鼓動は高鳴っていた。
ドキドキしていた。
この感情はなに?
わたしはいったいどうしてしまったの?
彼の背中を見ているだけで胸が苦しい。
目が離せない。自分の体温が急上昇しているのが分かる。
場を切り抜けた時、彼はおどけるように私に笑った。
その笑顔がいつもと違って眩しい。
憎まれ口で彼に返事をしてしまって、自室に帰って落ち込む。
どうしてあんなことを言ったのだろうと、どうして自分はこんなにも落ち込んでいるのだろうと。
誰か教えてほしい。この気持ちの正体を。
◇
「わ、悪い。遅れた。どのくらい待った?」
「……別にそれほど待ってないわ。ちゃんとご飯食べて歯を磨いてきた?」
「ちゃんと磨いてきたぞ。子供じゃないんだからそこまで言わなくていい!」
早朝叩き起こされて、教室にやってきた俺は、桜しかいない教室に不審を抱く。
「おい、桜、今日は誰を抱いたらいいんだ。おまえ以外いないんだけど、どこかでもう待ってるのか?」
「いえ、そんなことないけど」
「なんだ、まだ来てないのか……」
ダッシュで来て損したと思いながら、俺は自分の机に鞄を置いて席に座る。ほぼ全力で走ってきたから汗だくだ。
でも冷静に考えてみれば、こんな汗だくの俺が来たら女の子は嫌がるよな…。自分の馬鹿さ加減にへこむ。
俺はポケットからハンカチを取り出すと、首筋の汗をぬぐった。
「それでいつ来るんだ? そいつ」
「……もう来てるけど」
「はっ?」
俺は教室は見渡すと、再び桜に視線を戻す。
「冗談はよせ。一瞬本気にしただろ」
「冗談は言ってないんだけど。」
少し怒った声で桜がこちらに近づいてきた。
「な、なんだ?」
思わず身構えて桜を待ち受けると、桜は突然、俺の頬を撫でた。
「今日の相手は私よ。早くズボンを脱ぎなさい。ここでするんだから」
◇
「はっ……?」
彼は意表を突かれたといった感じでポカーンとした表情を浮かべた。
私は顔が赤くなるのを自覚しながら、ゆっくりと彼にお尻を向けてスカートをめくる。
「お、おい!おまえパンツはどうした!?」
動揺を隠せないように、彼は椅子から立ち上がって焦った声を出す。
それは当然だろう。私はどうせするのだからとパンツを事前に脱いだノーパンの状態だったからだ。
普段の私ならこんな事でも感情を乱すことなく、冷静に喋りつづけれるのだが、なぜか今日は彼を意識しまくって言葉を続けるのが苦しい。
でもここで私が引いてしまったら気まずい雰囲気になるので、私はそのまま言葉を告げずにお尻を左右に卑猥に振る。
「さ、さくら……」
ゴクリと彼の喉が鳴った。私を女として意識していると知って嬉しくなる。
「い、いれて……」
自然と私の口から言葉が紡がれる。
もう一度紡がれる。
「おちんちん入れて……中出しして……」
彼のズボンにお尻を押し付けてグリグリとおちんちんを刺激する。
大きくなっていく。固くなっていく。ズボン越しにもそれが分かる。私はいったいどうしてしまったんだろう。汚らわしい男のはずの勇太にこのような真似をするなんて。
嘘みたいな自分に衝撃を受けながらも、彼の腰に生尻を押し当てるのをやめられない。
鼓動が大きく速くなっていく。自分の嬉しさがどんどん膨れ上がっていく。
呼吸が少しずつ乱れ、私はおねだりするようにお尻をさらに高くあげた。
「……早く…早く、私を犯して。犯してくれないと誰か来ちゃう…」
ついに彼が動き出した。自分のズボンを引きずり下ろすように足元まで落とし、私のお尻を掴んで必死に挿入しようとする。
誰かが部活で教室に来るかもしれない。
気まぐれで誰かが予習をしに教室に来るかもしれない。
誰かに教室でセックスしているところを見られるかもしれないという興奮が、私たちの関係を平等なものへと変えていく。
「さくら、入れるぞ! おまえを犯すぞっ!」
「犯して!犯して!種付けして、孕ませてっ!!」
誰もいない教室で私は大声で叫ぶと、その瞬間、彼は私のおまんこに男性器を捩じりこんだ。
「入ったあああっ!」
「あぁ───っ!!」
自分の膣に待ち焦がれた異物が入ってきた悦びで、私は軽く絶頂に達する。
これだ。これを私は待っていたんだ。
これを入れてほしかったんだ。
フラッシュバックのように母が父に後背位で犯されていたのを思い出す。
同じだ。私も同じ格好で男に犯されている!肉便器って気持ちいいっ!
背中半ばまで伸びた黒髪を振り乱し、私は机の端に掴まって彼の肉便器になる。
早朝、誰もいない教室での激しいおトイレ。
お尻にビンタするように腰をガムシャラに打ちつけられ、彼は用を足すために私のおまんこを凌辱する。
「さくら!さくらぁっ!」
「あぁあああ───!」
自分の感情を叩きつけられるように、一振りごとに力を込められて振られる腰。
あまりの激しさにお尻が少し痛い。
やっぱり男って自分勝手、と思いながらも、上背を後ろに逸らし、お尻をさらに後ろに突き出してしまう。
もう自分が分からない。ただ感じるのは気持ちいいということだけ。それをずっと味わいたいと思う事だけ。
「ぁっ、あっ、あっ、あっ」
彼に抱かれることはゲーム上仕方がなかった。ただ、義務的に淡々と彼とはセックスを済ませるはずだった。
だから、何度もセックスを観察し、なるべく早く終わらせる方法を探していたのに、それが今やどうだ。
セックスをする前から訳の分からない感情に突き動かされて男に媚び、セックスを機械的に済ませるはずだったのに、尻を振って男を悦ばせるメスになっている。
脳裏からは父の肉便器となり子供まで産まされた母の姿が離れない。
あの幼い日に、寝室のベッドの上で後背位で犯されていた母。こんな気持ち良かったんだ。あの日の母は。
「くあっ、出るっ! 出すぞさくらっ!!」
「出してっ!便器の中にいっぱぃザーメンだしてぇえええ───!!」
あられもない声で、あの日の母のセリフを思わず叫ぶ。
こうやって母は父に精液をおねだりしたのだ。奇しくも私もこんなセリフを言う事になるなんて……。
どぴゅうううううううぅぅぅぅ───!!
「イクゥううううううううううううううううっ…………!」
初めてなのに完全にイかされた。
肉便器のピンクの壁にザーメンがべっちゃりかかり、子宮が震える。
膣肉は射精を感じ取り、いそぎんちゃくのように蠢いて便器を使用している男からザーメンを搾り取る。
静寂の教室で、絶頂に達した二人。
校門では、ちらほらと登校してくる人影が見えていた。
「………………」
行為が終わり、私は後始末を終えパンツを履いていた。
足首にパンツを通し、それをお尻まで引き上げるとき、彼の微かな欲の籠った視線を感じたが、私はそしらぬふりをする。
「あのさ……。おまえって…」
「調子に乗らないで。あれはあなたをさっさと射精させるために言ったことなの。私の心まであなたのモノになったと思わないでね」
「…あ、ああ……」
おずおずと話しかけてきた彼に、私は釘を刺す。
この男は馬鹿だからすぐに調子に乗りそうだ。一時的な快楽に流されてしまったが、馴れ馴れしく話しかけられでもしたら不愉快な気持ちになるだろう。
少し俯いた彼に自分で言っておいて、なぜか胸がチクリと痛くなる。
男なんて嫌いなのに。男なんて汚らわしい存在のはずなのに。
忌まわしい父親の顔が思い浮かび、
私はこの場にいることが苦しくなって、教室を1人で出た。
勇太のことを考えるだけで、胸が痛くなるんて私はいったいどうなってしまったんだろう。
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- 2013/04/12(金) 00:01:43|
- 小説
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