翌日の金曜日、俺は気分のいいまま学校に行った。
昨日の重苦しい気持ちはどこへやら、足取りも軽く教室に入ると、元気よくみんなに挨拶する。
俺があまりにも元気に挨拶するので、みんなは驚いている。
「いったいどうしたの。今日はすごい元気みたいだけど……。昨日帰り道で色葉ちゃんと何かあった?」
「ちょっとな……」
近づいてきた花梨に俺は照れくさそうに答える。
昨日の帰り道の出来事を言うつもりはない。
こいつに言ったらみんなにキスの事とか言いふらしそうだからな。
「ふーん。なんか顔がニヤケてるし、ひょっとして色葉ちゃんに告って付き合うことになったりして」
花梨がニヤニヤしながら、俺の表情の変化を窺う。
だが、俺は大人ぶった余裕の態度で、花梨の肩に手をポンと置いた。
「花梨は中学生のおこちゃまだから、こういう話はまだ早い。今はちゃんと勉強しような」
「ぶー! 私は子供じゃないってっ!」
俺はハイハイと花梨を適当にあしらいながら、最後に登校してきた色葉を見つけ手をあげる。
「おはよう、色葉」
「……おはよ浩介」
一瞬、挨拶するのを躊躇った色葉だったが、すぐに俺に挨拶を返す。
だけど顔が真っ赤だ。
明らかに照れくさそうにモジモジしている。
そしてそれを見たクラスメイトが一気にざわめきだす。
「ねぇねぇ、色葉ちゃん。お兄さんといったい何があったの。教えてよ」
真っ先に花梨が色葉の傍に行って絡みだす。
「べ、別になんでもないわよ。あんなへん……いや、浩介となんて」
「なんかあやしいな~」
動揺しまくりの色葉に花梨がじっと視線を送る。
その目は獲物を見つけたハンターのようだ。
色葉はその視線に耐えきれないように、俺に丸投げする。
「浩介、なんとかしなさいよ。あんたのせいでしょ」
「いや、俺のせいとかじゃないだろ。ていうか、俺と色葉は別に仲悪くないよな?」
「えっ……、ええそうよね! 私と浩介は別に仲悪くないわよね」
あはははと俺と色葉が顔を見合わせて笑う。
怪しさ満点だ。
誰でも突っ込みたくなる。
そして花梨が何か言おうと口を開きかけたときに、丁度タイミングよくチャイムが鳴ったので俺たちはそれぞれの席に向かった。
ふぅ、なんとか誤魔化せたかな。
昼休み。
久しぶりに机を6つくっつけて昼飯を食べることになった。
気分も軽いため、俺は前みたいに花梨とお喋りしながら弁当を食べる。
時折、千雪さんが口を挟み、まれにだが色葉も話に加わることがあった。
美羽ちゃんと仲山は相変わらず静かだったが、これがふたりの性格なんだろうと気にせずお喋りを続ける。
前より確実に仲良くなりいい雰囲気になっている。
あんなことをしてしまったが、千雪さんの言った通り仲良くなったのは間違いじゃなかったなと思いながら喋っていると、
花梨がみんなを見渡しながら口を開いた。
「今日の部活さ。昨日の続きしない?」
「昨日の続き?」
俺が小芋の煮っころがしを食べながら聞き返す。
「うん、昨日の面白かったから、今度はみんなでやろう」
「……はっ?」
唖然とする。こいつは何を言ってるんだ。
昨日で終わりじゃないのか。
「都会で流行ってたんだからいいよね?」
「………」
痛いところをついてくる。
今更これが嘘だとは言えない。
何を考えてるんだ花梨は……。
俺は、逃れるための理由を考える。が、千雪さんがその前に名案とばかりにポンと手を叩いた。
「それはいい考えね。最低男女2人いればできるんだし」
これは俺が抜けても続けると言ってるのか。
俺は一気に苦しくなる。
もし、そうなったら俺を除け者にしてえっちなゲームをするということ。
そしたら色葉は……。
俺はそこまで考えて急にハッとする。
色葉のことが気になってる。
昨日まではなんとも思わなかったのに、色葉が仲山とえっちなことをすると考えたら胸がムカムカしてくる。
ファーストキスの相手だからだろうか。
それは分からないが、もうゲームを中止に追い込むしか方法はなくなった。
このまま放置して後悔したくない。
俺が慌ててその方法を考えていると、美羽ちゃんが戸惑うような声で千雪さんを見る。
「姉さん、私は……」
困った表情。
そりゃそうだ。美羽ちゃんがこんなゲームに参加したいわけがない。
俺だってもう、こんなゲームはごめんだ。色葉と仲良くなったからいいんじゃないのか?
訳が分からない。
いったいふたりは何を考えているんだ。ひょっとしてグルなのか?
俺が怪しんでふたりに視線を送るが、彼女たちは勝手に話を進めていく。
「千雪ちゃん、どうせなら男女対抗戦みたいにしたらどう?」
「そうね。男女いないと駄目なんだし。2人とも参加するわよね?」
美羽ちゃんの言う事を無視して、千雪さんはニコニコしながら俺と仲山に迫る。
仲山はその得体のしれない迫力に呑まれてしまい、すぐにコクコク頷き、俺は内心で顔を顰める。
だが、このまま参加しない訳にも行かなく俺も渋々はいと答えた。
いったいどうしてこうなったのか。
まったく、とんでもなくやっかいなことになってしまった。
放課後。
再びこの時間がやってきた。
俺の心には、昨日の重苦しい気持ちが再び圧し掛かってくる。
美羽ちゃんや色葉が巻き込まれることになったらと思うと苦しいのだ。
また罪悪感が湧き上がってきている。
机を6つ並べながら、俺は苦々しい気持ちでいっぱいになる。
しかし何も言い出せないまま、俺たちは全員椅子に座った。
「さぁ、始めよっか。男女対抗だからお兄さんと仲山くんが同じチームね」
花梨が仕切り出す。
「じゃあ、女子のチームはどうするの?」
色葉が聞く。
何も知らないので、常識だと思って当たり前のようにこのゲームに参加しようとしている。
昨日の俺と同じように罰ゲームに対してふっきれたということなのか。
「女子は、ううんと……私と美羽ちゃんペア、色葉ちゃん千雪ちゃんペアで。それでいいよね、千雪ちゃん?」
「ええ、いいわよ」
テキパキと決めていく。
激しい流れの川のようで、逆流することを阻まれる。
「じゃあ、罰ゲームは男子と女子が1位と3位になった場合ってことで、代表を出してババ抜きをしようか」
俺はまたしても流れに飲み込まれた。
「あ、あのー芝山先輩、どっちがゲームに出ましょうか?」
「………」
ルールが決められ、俺と仲山は隣の席になる。
俺は、この期に及んでは仕方がないと割り切り、なんとか美羽ちゃんと色葉をゲームに参加させない方法を考えていた。
もっとも、ふたりは別々のチームになってしまっている。かなり厳しい。
(ちくしょーどうにかならないのか)
場合によっては美羽ちゃんと色葉が仲山と絡み合うことになる。
そうなったら悪夢だ。
全てを承知で参加している千雪さんや花梨とはわけが違う。
「あの芝山先輩?」
さっきから耳元で仲山がうるさい。
少し静かにしてほしい。今考えてるから。
そもそもお前がいなければ、俺がこんなに苦しんで考えることなかったんだぞ。
俺が無視して腕を組んで唸っていると、仲山の方から提案してくる。
「芝山先輩。調子が悪いなら僕がでますけど……」
「………」
どうしようか迷う。
勝っても負けても基本的にやることは一緒だ。
ならここは仲山に任せて、考えることを優先するべきか。
「……わかった。仲山、おまえが出てくれ。俺は少し考え事がある」
「は、はい」
仲山は頷き、話は終わる。
女の子の代表も決まったようだ。
花梨と千雪さんが出るみたいだ。
例によって花梨がカードを配りだし、千雪さんと仲山が受け取る。
3人だけでやるから結構の時間が稼げそうだ。
それにしても仲山は本当に流されるだけの奴なんだな。
なんか嬉々としているみたいだし……。
と、そこで俺はこんな簡単なことにも気づかなかったのかと、自分を殴りたくなる。
そうだ。こいつは喜んでいる。このゲームに。
そりゃそうだろう。
こんな美少女たちのおまんこを舐めたり、フェラチオされるチャンスなんだ。喜ばない方がおかしい。
昨日の俺と色葉の絡みを見て、こいつもいけると思ったのかもしれない。
先程、自分からゲームに出たいと言った積極性も理解できる。
俺が仲山をよく観察してみると、鼻息が荒く、手が震えているのに気づく。
明らかに興奮している。早くゲームを終わらせたいと願っている。
カードが順調に減っているのを見ながら、俺は苦々しい思いでいっぱいになる。
こいつは遠慮をしない。
きっと喜んで罰ゲームをするはずだ。
もう俺の味方をする可能性も低くなった。
なんとか色葉と美羽ちゃんは守らないと。
最悪、色葉と美羽ちゃんは俺の相手をしてもらうしかないかと思いながらゲームを妨害するため、とりあえず口を出す。
「なぁ、ここまでやってみて悪いんだけど、今日は他の事をしないか?」
「他の事って?」
花梨が聞き返す。
「例えば外で遊ぶとかさ。トランプばっかりだと飽きるだろ」
「飽きてないよ。それに新しいルールが追加されていいところじゃん。お兄さんや仲山くんもやりたいでしょ?」
ねっ!と仲山に視線を送る。
仲山は即座に頷いた。
だめだ、こいつは……。完全に昨日の俺になってる。
「だけど……おっ、そうだ。色葉や美羽ちゃんはどうだ。他の遊びをしたくないか?」
「わ、私は賛成です!」
すかさず美羽ちゃんが賛成する。
「色葉はどうだ?」
「わたし? 私は別にどっちでもいいかな。でもゲームやりはじめたんだし、このゲームが終わってからでもいいんじゃない?」
なんでもないように答える。
やっぱりだめだ。一回やってしまったので、抵抗はないのだろう。
どっちでもよさそうだ。
それとも、こういう罰ゲームのえっちは好きな人とのえっちとは別だと考えているのだろうか。
確かにえっちなことが入ってなければ色葉の言う事がもっともなんだが……。
俺は最後に駄目元で千雪さんに言う。
「千雪さん、どうです。美羽ちゃんは他の遊びをしたいって言ってますけど」
情に訴えた作戦。
美羽ちゃんを巻き込んでいいのかというメッセージを送る。
だけど先ほど美羽ちゃんの言う事を無視したように千雪さんは、ニコニコしながら否定する。
「美羽も都会の罰ゲームに慣れておいたほうがいいと思うわ。だから一回やってみたほうがいいわね」
話が通じない。
千雪さんはこのゲームをやめる気がない。
まさか全員同じ経験させる気なのか。
一昨日に俺に言ったことはなんだったんだと、俺は視線を送る。
しかしカードの枚数はあっというまに消え、ついに千雪さんがあがった。
「私が1番ね」
千雪さんが勝利宣言し、勝負の行方を見守る。
もし仲山が次にあがれなかったら罰ゲームだ。
俺は仲山に発破をかける。
「仲山、負けるなよ。罰ゲームは嫌だからな」
「そ、そんなこと言われたって……」
仲山は挙動不審になりながら答える。
多分負ける気満々だったな。
すでにババは仲山の手にある。
もし花梨がババを取らなければ終わる。
俺は無言の睨みを効かせ、背後から仲山にプレッシャーをかける。
しかしそれが災いしたのか動揺してしまい、花梨に表情の変化を見破られて上がられてしまった。
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- 2013/11/21(木) 00:00:03|
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