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1 入学

人類救済計画


時は西暦2285年。
人類は環境汚染によって男女の比率が著しく偏っていた。
女性99%男性1%といった具合にである。
極端に男性が少ないこの世界では、人口受精により子を産む女性がほとんどであり、
男性経験がないままに母親になるのは珍しくない。
だが、このままではいずれ人類は滅びの一途を辿るだろう。なぜなら生まれる男の数が年々減っているからだ。
そこで政府は、どうすれば男の数を増やせるのか長い間研究を進めてきた。
そしてその研究結果は男同士を競わせ戦わせて強い男を作り、その精子で妊娠すれば男が生まれる確率が高くなると分かった。

その結果を受け、すぐさま政府は決断を下す。
丁度100年前、海底火山の噴火によって出来た苺山島と呼ばれる無人島に総額3兆円もの資金を投じ、強い男を作るためのプロジェクト「男性強化Z計画」を開始するための準備に入ったのだ。

人類の明日の為に。


そしてこれはそんな世界となった、ある学園の話。





西暦2287年 4月初旬 苺山学園高等学校 校長室。


「あなたが芝山勇太くんね。そこに並んでくれる。」

桜舞い散る4月初旬、一人の男が真新しい制服に身を包み、今年から開校した苺山学園高等学校の校長室に足を踏み入れた。
その男の名は芝山勇太、15歳。平凡と呼んでも差し支えのないような、なんの特徴もない男である。

彼がこの無人島に作られた学園に入学したのは、国の命令だからだ。
数少ない男は、生まれると同時に国から手厚い保護を受け人生のレールまで敷かれてしまう。
よって彼がこの学園に入学したのは自分の意思ではなく国の意思である。

不満がないわけでもないが、男が少ないことと、何不自由ない生活をさせてもらってるため仕方がないといった感じだった。

そしてここ、校長室には、彼の他にその貴重な男子が4人も集められていた。全員が今年からこの学園に入学する1年生である。
これほどの数の男子がひとつの学園に集められることなど全国的にも珍しいだろう。ほとんどの学校は多くて1人か2人なのだから。




重厚な机、観葉植物が置かれた校長室で、50代後半のもじゃもじゃ頭をしたおばさん校長が、
横一列に並んだ俺たち5人をメガネ越しにニコニコと見つめている。

表情は笑顔のままだが、どうにも視線の奥はこちらを見定めているといった感じである。

なんの為に呼んだのか知らんがとっとと終わらせてくれよ、と内心で溜息をつきつつ立っていると、校長はようやくといった風に口を開いた。

「まずは皆さん、苺山学園入学おめでとう。私は校長の三島です。心より歓迎しますね」

そう言って校長は軽く頭を下げる。それを見て俺たちも同じように軽く頭を下げた。


「それでさっそくなんですが、」

そこで一端言葉を止め、グルリと俺たち男子生徒を見渡す。

「あなた達には進級をかけた、あるゲームをしてもらいます」





………はっ?

思わず声に出そうになり俺は慌てて口を閉じた。
あまりに意表な言葉などで当然だ。
他の4人も同じことを思っていたらしくポカンとした表情を浮かべている。
せっかく入学したと思ったのに、いきなり進級をかけたゲームとか訳がわからない。
第一、さっきに入学式が終わったばかりだぞ、何を言ってるんだ、このおばさん校長は?と思うのも無理はないだろう。

だが、おばさん校長は至極真面目に言葉を続ける。

「ふふっ、皆さんが驚くのも無理はありません、これは普通の学校では前例がありませんからね。ですが皆さんも知っての通り、ここは無人島に作られた政府直属の学園です。
そこに選ばれ入学した皆さんは政府の指示に従って学園生活を送る義務があります。おわかりですね?」

言葉を区切り俺たちの顔を見据えるおばさん校長の眼差しは先ほどと違って激しく強い。
その迫力に誰も言葉を発することが出来ず黙っていると、それを肯定と捉えたのか、おばさん校長は机の上で肘をつき手を重ねた。

「まずはこの学園が出来た訳をお話しない訳にはいきませんね。皆さんも知っての通り、この世界は大変男性の数が減少しています。そこで政府は少しでも男性の数を増やすために、あるプロジェクトを始めました。
それが「男性強化Z計画」です。そのプロジェクトの内容は、この学園に在籍している女子生徒を貴方達男子生徒が好きに抱いて子供を孕ませて欲しいというものなのです。
もちろん力ずくで犯しても構いません。それで罰則が与えられるということもありませんから」

ヒュッーと並んでる誰かの口笛が聞こえた。この学園に入学出来た幸運を喜んでいるのか?それともこれからの未来を想像して口笛を吹いたのだろうか?

どちらか知らないが俺は素直に喜べなかった。

いくらなんでも話がおかしい。女の子を好きに抱いて男が増えるならとっくの昔に増えているだろう。
現にこの世界は男性の数に対して圧倒的に女性が多いハーレム状態だ。一人で何人もの女性を抱いている男なんて少なくないはずだ。
というか、そもそも無人島に学園を作ってまでするような大げさな計画か?絶対にこの話には裏がある。

この怪しい話を聞き、無言で押し黙る俺と同じことを思ったのか、隣に立つ背の低い童顔の男がオロオロと落ち着きがないように辺りをキョロキョロと見渡している。
きっとこいつの頭の中も俺と同じように色々な考えが浮かんでは消えているに違いない。


「それで肝心のゲーム内容についてなんですが……」

そんな考えをよそに、校長は俺達の背後に視線を向け顎をしゃくった。
視線に釣られ後ろを振り返ると、いつのまにか出席簿を持ったスーツ姿の20代前半と思しき女教師がそれぞれ男子の後ろに5人立っており、
その中の1人、背の低い童顔男子の背後に立っていた黒髪ロングの女教師が前に進み出ると、俺達の前で柔らかな声で説明を始めた。

「ではゲーム内容について説明させていただきます。先ほど校長が申した通り、男子生徒の皆さんが進級するには、ある条件が必要となります。
その条件とは3学期が終わるまでに沢山のポイントを稼ぐことです」

「ポイント?」

俺と同じく横列に並ぶ、メガネを掛けたインテリそうな男がクイっとメガネを指で押し上げ低い声で聞き返した。

「ええ、ポイントです。これは女性を抱くことによって得られます。それ以外には得られませんので皆さんは沢山の女性を抱いてポイントを稼いでください」

「それだけでいいのかよ」との呟きと共に口笛が再びヒュッーと鳴る。
どうやらパッと横顔を見ただけで分かる軽薄そうなイケメンが吹いているようだ。先ほどの口笛もあいつが吹いたのだろう。


「ですが!」

そこで口笛を遮るように女教師が語気を強めた。

「これは校長も申した通り進級をかけたゲームです。皆さんも知っての通りゲームには勝者と敗者がいます」

静まりかえる校長室。これから語られる内容を聞き逃すまいとしている。

「よって2年生に進級出来るのは4人だけです。5人ではありません。4人だけです」

衝撃が走る。
進級できるのはここにいる5人の男子のうち4人だけ、あとの1人は留年か退学ということが予想出来たからだ。
先ほどオロオロしていた童顔の男子は可哀想に真っ青な顔で今にも倒れそうだ。

「どうやら理解できたようですね。ゲームのルールについては入学式に皆さんに配られた校則手帳に記載されています。各自確認をしておいてください」
「最後に質問は?」と全員に問いかけ、何もないことを確認すると自分の役目は終わったとばかりに再び背の低い童顔男子の背後に立った。



「さぁ皆さんはそれぞれの担任について教室に向かってください。皆さんには期待していますよ」

俺たちは話を終えた校長に一礼した後、俺に視線を向け頷いた女教師と一緒に廊下に出た。


「教室に行きましょう」と俺に告げ、教室に向け先頭を歩く女教師に続くように俺も真新しい廊下を歩く。
他の男子連中は校舎が違うのか、それぞれの担任に連れられ、いつのまにか姿が見えなくなっていた。

ペタンペタンと音を立てどこまでも続く廊下を歩きながら
ふと、窓の外を眺めると
どこからこれほどの数を持ってきたのか?と言いたくなるほどの桜に似たピンクの花が、規則正しく校門まで並び、咲き乱れていた。

「綺麗な花でしょ」
「えっ?」

間抜けな声を出して振り返ると、いつのまにか自分と並んで歩いていた女教師が、こちらの顔を下から見上げるように横から覗き込んでいた。

「あれは、苺山椿という花なのよ。この島で作られた椿と桜の改良種なの」
「そうなんですか」
「ええ。私は、あの花がとっても大好きなの。綺麗でいい匂いがするしね」

うっとりとあの花を見る女教師は、まるで恋する乙女のようだ。
どうリアクションしていいか分からない。
今まで会ったことのないタイプだ。
いくら花が綺麗だといってもあのような視線を送る女など見たことはない。
顔は綺麗でスタイルは抜群なんだが、本当に残念だ。

俺は立ち止まったまま花を見続ける女教師に内心で呆れながら、教室へ行かないのかと促す。

「そろそろ教室に行かないと遅れませんか?」
「ああ、そうね……。そうだわ。早く教室に行きましょう」

ようやく正気に返ったとばかりに女教師は再び歩き出した。

俺はもはや何を言うでもなく、黙ったまま女教師の後に続くのだった。







「芝山勇太です。よろしくお願いします」

教室に着くと早々に男子がクラスに一人しかいないせいなのか、担任の指名を受けて教壇の前でわざわざ挨拶をさせられた。
まさかこんな学園生活を送ることになるとは思いもよらなかった為、自己紹介の挨拶など考えていなかったが、
とりあえず当たり障りのない簡単な挨拶を済ませ頭を下げると、クラスのあちこちから拍手が起きた。

どうやら第一印象は悪くないらしい。
正直、こんなめちゃくちゃな学園に入学する女の子がどんな考えをしているのか測りかねた為、内心ビクビクしていたのだが、
教室の雰囲気も悪くなく、よくいる女子高生のようでホっとする。

助かったと内心で思いながら下げていた頭を上げ、クラス中を見渡してみると、
校長の話から半ば予想していたとはいえ、クラスメイトの女子たちはどの子も美少女と言っていいほどレベルが高かった。
小中とクラスで男子1人を経験していた自分にとってもこれほどの美少女たちに囲まれるのは初体験だ。
進級ゲームのことさえなければ狂喜乱舞していたかもしれない。


(ゲームがなければなぁ…。)

クラスを見渡した美少女たちを見て一瞬、試験のことが記憶から飛びかけた俺は、すぐにゲームのことを思い出しうんざりする。
そうである。これから俺は進級をかけたゲームに挑まなければいけない。
その為には自分に好奇心の視線を向けるこの女子たちに頼みこむか、無理やり犯さなければならないのだ。


(クラスの女子はルールを知ってるのかな?)

自己紹介を終えた俺は担任に言われた通り、校庭が見える窓際の一番後ろの席に着席してこれからのことについてぼんやりと考える。

校長の話から知っているだろうと思うのだが、もしゲームのことを知らなかった場合、俺は変態あつかいされるか村八分状態になってしまうかもしれない。
それは非常に困る。

しかし男だというだけで優遇されるこの世界で留年か退学したとなれば、なんらかの問題ありとの烙印を社会から押されるだろう。
そうでなくても留年や退学は誰だって嫌だ。ちゃんと進級したいに決まっている。変なゲームに巻き込まれてしまったが、拒否するという選択肢がない以上、やるしかない。
自分の為にも、

そう、やるしかないのだ。





だが、どうする?
机の上で指をトントンと音を立てないようにゆっくり叩きながら、顎を引いて前の席に座る名も知らない女子生徒の背中から机に視線を下げる。

進級をてっとり早く目指すなら、片っ端から目についた女子たちを犯していくべきだろう。
校長室の話では女子を沢山抱けばポイントが稼げるのは分かってるし、罪に問われないので何の問題はないはずだ。

だけどそんなことがお前に出来るのか?と言われれば自信がない。
自慢じゃないが、俺は女の子とセックスした経験なんかない。そんな俺が女の子を犯すなんてとても……。

それに、っと視線を上げ、自己紹介を続けているクラスメイトとなった女子たちを首を傾け見つめる。


どの子も容姿が優れているという点を除けば普通の女の子に見える。
せっかく一緒のクラスになったのにそんなことをすれば友達が1人も出来ないんじゃないだろうか?

そう、思いにふけっていると、ふと、説明にあったことを思い出した。

「そう言えば、このゲームにはルールがあるとか言ってたな。確か、校則手帳に書いてあると言ってたような……」

どこに入れたかなと思考し、制服のポケットに入れていたことを思い出すと、
制服の上着のポケットに入れていた手の平に収まるぐらいの大きさの黒色の手帳を取り出し、丁寧に最初のページをめくった。

最初のページには校歌と校長の顔写真が載っており、小難しいことが書いてあったが、
次のページをめくると目的の校則(ルール)と書かれた表題が目に入り、思わず手帳を持つ手に力が入った。

そこには男子共通の校則と書かれており、以下の文章が掲載されていた。

校則(ルール)

・1クラスの女性は教師を含めて40名。入学してから1週間はそのクラスの男子の仮の所有物である。
・恋愛や交渉で女性を抱こうと力づくで女性を犯そうと手段は自由である。
・女性を自分の所有物にする条件は、対象女性と性交し、膣内に自分の精液を注ぐことで満たされる。
・自分所有の女性を他の男子の所有する女性とトレードすることができる。
・他人の所有物となった女性と性交すると、ペナルティとして自分の所有物の女性を2名、被害者に提供しなければならない。
 (なお、その2名は、被害者の指名によるものとする)
・進級は所有するポイントが多い順から4名とする。同ポイントの場合、女子生徒を所有する数から多い順とする。
・学園の敷地以外で女性を襲うことは出来ない。襲った場合、ペナルティとして所有物の女子生徒を2名、学園に没収される。
・学園の敷地外で性交しても女性を所有物にすることは出来ない。
・女性を孕ませることに成功すれば、その女性の所有権が動くことはなくなる。
・自分の所有する女子生徒が15名以下になると留年または退学となる。
・進級したあかつきには男子1名あたり2億の賞金が支払われる。



「これがルール、……か」

知らずに喉から声が漏れ、右手で頭の後ろを軽く掻いた。
ハッキリ言って女子を抱けばいいだけと、どこか気楽に思っていたのだが、以外にルールの数が多くて驚く。
そして一番の驚き。
進級すれば2億もの賞金が出ることだ。
生徒のやる気を上げるためなのか知らないが、ずいぶんと気前がいい。

(2億…2億かぁ……)

自分が2億を手に入れたことを想像して心が浮つく。
2億手に入れたらどうしよう、何を買うかな。いや、ここはまず手堅く1億5000万ほど貯金して、あとは……。

んっ、待てよ。1年から2年に進級するだけで2億ってことは2年から3年、無事卒業すれば、もっと貰えるんじゃないか?
そうだ。これは進級をかけたゲームだ!卒業したらはどうかしらないが、少なくとも2年から3年は貰えるに違いない。
1年で2億ってことは2年で4億か。いや、以外に2年から3年は3億ってこともあるな。

目を閉じ次々と浮かぶ都合のいいバラ色の未来に、自然と顔がにやついていく。
これは負けられない。絶対に!


「よし!目指せ2億っ!」

「何が2億なの?」

「いや、進級したら2億貰えるか……ら。」

そこで初めて自分以外の第3者の声が混じってることに気付き、俺は顔を横に向けた。


そこにいたのは、

よく俺の知っている幼馴染、瀬戸宮奈々の姿だった。





                                              >>
  1. 2012/08/21(火) 14:21:56|
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ntr属性なのに超純愛ゲーをやって自己嫌悪になった男。リハビリのために小説を書いてます。
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