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9──校舎裏──

12時45分 昼休み 校舎裏


僕と部長が薄暗い茂みの中で撮影してるなか、春山先輩は校舎の裏手で必死に遥先輩に迫っている。

遥先輩はいつものセミロングと違い後ろに髪を纏めたポニーテール。
制服が夏服に変わったせいなのか肌が露出している部分が多く、僕の視線は釘づけになった。
遥先輩は、少し汚れが目立つ白い校舎を背に、春山先輩と向かいあって話をしている。

少し距離が離れているせいか2人の声がよく聞こえず何を言ってるのか分からないが、
春山先輩が遥先輩に拝み倒すようにして焦って話しかけ、それを遥先輩が困った様子で手を振って拒んでるといった感じだ。

(声が入ってないけどいいのかな?)

この距離からだとビデオに声が入らないことに気付き隣の部長の顔をチラリと見るが、なんの反応も示さず一心不乱に2人を見つめているので、これでいいのだろうと撮影を続ける。


そしてカメラを回すこと5分ほど。
話し合いという演技が終わったのか、遥先輩は逃げるように校舎裏から足早に去り、それを春山先輩が諦めきれないように何度も手を伸ばして、やがて、全てが終わったと言わんばかりの空気を纏って項垂れた。

やけに上手い演技だな迫真の演技じゃないか!と僕は思いながらも、これからどうしていいのかわからず隣の部長を見上げると、
部長は僕が目に入らぬようにホホホと扇子で口元を隠して笑った。

「やはり失敗しましたか。そう簡単にうまくいくとは思ってもいませんでしたが、あっさりと逃がしすぎですわね。根性が足りませんわ」


あの演技で失敗なの!? レベルたかっ!! あそこまでの演技、見たことないよ!と、
内心驚く僕をよそに、お芝居が失敗したというのに、ちっとも残念そうにしていない桐沢部長。


いったいどういうことなの?

詳しい事情を聞かされていない僕には訳がわからず、部長からの次の指示を貰うべく恐る恐る口を開いた。


「あ、あのー、部長、これから僕はどうしたら・・・」

ギロリ!と部長が気分を害したようにして僕は睨まれた。その視線を思いっきり浴び僕は縮み上がる。

「モブA、いや、Bだったかしら。
あなたは少し黙っていなさい。ワタクシは今、次なる計画の算段をしているのよ。よけいなことを言って邪魔すれば承知しませんわよ」

「は、はい」

まさに植木鉢の陰に隠れるダンゴムシのような気分で叱責を受ける僕。
ああ、やっぱりよけいなことを言うんじゃなかった。所詮僕ら部員に人権などないのだ。幸い部長は機嫌がいいみたいだからこの程度で済んだけど、普通なら扇子で頭を叩かれるくらいの罰は与えられていただろう。

「さぁ、ここを引き上げますわよ。このまま突っ立ってても仕方ありませんしね」

そう言ってあっさりと踵を返す部長。

撮影のやり直しはいいの?遥先輩どこ行ったの?
とか思うが、部長と二人っきりのこの状況を抜け出せるなら大歓迎である。先ほどの件もあるので当然逆らわずに素直に従う。

それにしても未だ演技の失敗に落ち込み、俯いている春山先輩はほっといていいのだろうか。

ああやってほっとくのも部長なりの考え、優しさがあるのかもしれないけど…。


って!んなわけないでしょ!! この人、自分のことしか考えてないからっ!!

その場から立ち去る部長の背を追いながら、僕は後ろ髪を引かれるように春山先輩の落ち込む姿に同情の視線を送るのだった。








昼休み、私は春山くんに人気のない校舎裏に呼び出された。
もしかして告られるのかな?って思ったりしたのは自意識過剰かも。

だけど告白どころか、彼が私を呼び出した理由は想像を絶するものだった…。


「ねっ!ねっ! 頼むよ、藤乃宮さん!俺はおちんちんから白い液が出る病気なんだよ。
この病気は、女の子のおまんこの中でいっぱい白い液を吐き出したら治るんだよ。だから藤乃宮さん、保健委員だしお願い!」

……まるで自分が白昼夢を見てるような信じられないお願い。夢なら覚めてほしいと思うほどの言葉だ。
(わざわざ呼び出しておいてこんなこと言われるなんて…。)
思ってもみなかった言葉に失望を感じると同時に、むくむくと彼に対する警戒感が湧きおこり身体が強張る。

だけど彼は至極真面目で、悪意を感じず、冗談を言ってる風でもおちゃらけてる風でもない。
ただ深刻そうな声で、何かに追い詰められてるように必死に私にお願いするのだ。

さすがにこれには私も戸惑いを覚えるが、こんな病気聞いたこともないし、何よりもこんな恥ずかしいことができるわけないので断ることに決める。
そもそもこんな無茶苦茶な話がとても信じられない。

「そんな病気聞いたことないし、それに私なんかに言うより病院に行った方が…」
「恥ずかしくていけないんだよ。この病気、男はあんまりかからない病気だし」

「そ、そうなんだ…」

すぐ答えた春山くん。まるで前もって答えを用意してたみたいだ。

だけど、本当にそんな病気あるのだろうか?
私だって女友達と少しHな話くらいするくらいには性の知識を持っている。
だから私は疑った。彼が私の身体目的で言ってるんじゃないかと。
でもそれと同時に彼の私に対する誠実な態度も同時に思い出されて迷ってしまう。

部員の為に一人で部活の後かたずけをしていたこと。今までの私に対する紳士的な言動とふるまい。
他の男子と違って私の身体をいやらしい目で見たことなんてなかった。あの幸太くんですらあるのに。

そんな春山くんが一人で悩み、抱え込み、そして勇気を出して保健委員の私にその病気を告白した。

変態と罵倒されてもおかしくないお願い。
嫌われてもおかしくないお願い。

こんなことが他の人に知られたら、彼の学校生活に大きな支障をきたすだろう。

そんなリスクがあるのにも関わらず私にお願いしてきた。

これはもしかして…本当にそんな病気に罹ってるのかもしれない。
だって私は男の子のこと良く知ってるわけではないのだ。
私が知らないだけで本当はあるのかもしれない。

助けないといけないのかもしれない。でもやはり本能が、羞恥心が、そして幸太くんへの想いが、彼を拒絶する。

「う、う~ん。でも…そんなことやったことないので私上手く出来るかわからないし……」
「それなら大丈夫だよ!全部俺に任せてっ!」

私が迷ってるのに気づいたのか、ここぞとばかりに春山くんは力を込めて私の説得にかかる。
その勢いに押されて、思わず「うん」と首を振ってしまいそうになり、私は慌てて逃れようと、その場限りの嘘を言った。

「ご、ごめんね。そう言えばちょっと、友達に頼まれてたことがあったんだ。この話はまた今度」

彼が何か言う前に素早く踵をかいし、この場を去る。このままここにいたら押し切られてしまいそうだから。






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  1. 2012/08/23(木) 22:39:38|
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