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24話 長距離走2

一周目の後半は僕が何度も抜く素振りをして隼人にプレッシャーをかけた。
案の定、隼人はだいぶ神経質になって僕が抜こうとすると、無駄な動きをして体力を消耗している。
これはかなり効果的だと思いながら2周目に入った。

僕は2周目になっても抜く素振りを見せて隼人を消耗させにかかる。
だけど隼人は2周目の半ばくらいからそれを阻止しようとしなくなった。
これは僕の意図に気付いたのか、そんな余裕がなくなったのかのどちらかだ。

僕はそれならそれでと今度は本気で抜きにかかる。
そしてあっさりと隼人を抜きトップに立った。


湧き上がる歓声。
美奈の大きな声援が一際耳にはいる。


僕は気を引き締めると、ペースをあげる。
今まで隼人に合せて遅いペースで走ってきた。これからは自分のペースで走る。
消耗した隼人についてこれるか見ものだ。
そして長距離走がどれだけ走れるか分かる。

スピードを早めると、隼人もついてくる。
ピタリとはいえないが、それでも僅かな差だ。
僕を抜き返そうとしないところから、様子見といったところなのだろうか。
さらにスピードをあげると、ついてくるものの抜き返されることなく2周目を終えた。


3周目──。
距離にして700ほど走り終えた時点で初めて隼人が仕掛けてくる。
直線で僕の横に並び、そのまま抜こうとしたのだ。

(速い。でも……)

僕は隼人が抜こうとするタイミングに合せてスピードをあげる。
隼人は抜けると思ってただろう。だけど抜こうとした瞬間に僕のスピードが上がったので、抜けずに横並びのまま走ることになり、カーブに差し掛かったので隼人は失速し再び僕の後ろにつく。
苛立ちを覚えたのか、チッ!と舌打ちが聞こえた。


抜こうと思って一気に抜けないのはストレスを感じるものだ。
これで隼人はまた消耗した。
この調子で行こう。
息を整え、なんでもないように装う。
これは前を走る僕にも結構な負担がかかる。
仕掛けてくるのは隼人の方だから自分の好きなタイミングで来られる。

前を走るメリットといえば、相手を抜かないでいいことと、自分でレースを作れることくらいか。
後ろからのプレッシャーをひしひしと感じながら走る。

そして3周目を終え、4周目に入った。


4周目──。
残りは2周。
先頭に立った僕は後ろを気にしながら走る。
相変わらず、隼人は僕の後だ。
だが、僕のペースで走ってるのにも関わらず引き離せない。
どのくらい余力を残しているのか知らないが、決して油断は出来ない。

僕は疲れている素振りをしないように気を付けながら走り続ける。
呼吸音から以外に疲れているかわかる。
自分のペースで走っているとはいえ、僕の足にもかなり疲労が蓄積している。
ふたりだけで競って長距離走をするのは実は初めてだ。


僕はさらにペースを上げて隼人を引き離しにかかる。
少し早めの仕掛けだが、これでまだ余力があるか分かる。

僕のスライドがグンと伸びると、隼人の息遣いが少し遠のいた気がした。
ついてこれてない。
スピードを上げると皆の歓声が高まった。

(よし行けるっ!)

僕は声援に後押しされて、このペースを維持する。
プレッシャーが薄くなり、引き離していると確信する。

残り450メートル。
このままいけば僕の……。
そこで初めて勝利を意識し、別の意味でプレッシャーを感じ始める。

隼人からのプレッシャーではなく、陸上部や千夏先輩についてのプレッシャー。
余計なことを考えてはいけないのに、余裕が少し出たことで、もしこれで負けたらと一瞬考えてしまう。

だがそれはこの勝負の重要性を改めて認識したからであり、勝負前のあるいみアドレナリン状態が出てた興奮が、勝負に集中した為に解放されたからだ。
ようするに隼人を倒すと勝負前に意識が集中していたのが、この勝負中に冷静になって隼人から出された条件で負けてしまったらと考えてしまったのだ。

ペースが僅かずつ狂いはじめる僕。
考えてしまったことで、自分がどのくらいのペースで走っていいか分からなくなる。

自分との闘い──。
心に落ち着けと、冷静さを呼びかける。

だが、みんなからの声援。
本来なら勇気になる声援が、さらなるプレッシャーとして圧し掛かり始め、落ち着きを失わせる。

僕はさらにペースを上げることを決意する。

先にゴールすれば勝ちだ。
今でもかなり苦しいが、残りは1周と少しなのだ。
我慢すればいける。

決して無理するところではないのに、冷静を失った僕はペースをさらにあげる。


歓声はより高まった。






5週目──。
ついに最後の一周がやってきた。
僕は自分で無理していると思いながらも、ペースを下げずに走り呼吸を荒らげはじめる。
足が鉛のように重くなりながら、前だけを向いて走る。
もう少し、あと少しと感じながら心臓をバクバクさせ、手足を動かし続ける。

隼人からの気配はまだ後ろに感じない。
残りはあと150ほど。
このままいけば僕が勝つだろう。


(あとちょっと)

足の感覚が鈍くなりはじめ、ペース配分の無理をしたことでまるで10キロ走ったような感覚になる。

残り50。
あとは直線だけ。
皆が待つゴールまであと少しだ。


だけどついにそこで僕に限界が来始める。
明らかに膝が上がらなくなり、スピードが落ちたのだ。

(もうちょっとなのに!)

頭で叱咤するが身体は動かない。
情けないと思うが身体が動かない。

そして恐れたことがやってくる。

「待たせたな!」

まるでヒーローの登場のように隼人の言葉が真後ろから聞こえてきて、心胆を寒からしめる。

「これがおまえの限界か。やっぱり俺の方が速いってことだな」

隼人が僕の横に並びかける。

悲鳴と声援が交差し、ゴール前は騒然となる。

僕にこうして話しかけてくるということは、まだ余力があったのかと歯噛みする。


完全に並んだ。
あとは直線勝負。
だが、まだ余力を残しているらしい隼人と、疲れきっている僕とでは地力が違う。
少し隼人が前に出ると、たちまち弱気になりかけ、諦めの気持ちが強くなる。

ゴール前で千夏先輩が祈りを捧げてるように胸の前で両手を組んでいた。

僕はそれを見て気力を呼び覚ます。

「……けない」

隼人が一瞬だけ視線を僕に向けた。

「僕は負けないっ!!」
「っ!?」

咆哮するように限界を超えた先で全力以上のものを出しつくし、アドレナリンを放出する。
心音だけが僕の耳を打ち、他の何も聞こえなくなる。

ランナーズハイと呼ばれる現象になり、再び隼人に並んでさらに一歩前にでる。

残り20メートル。

もはや互いに無言で、ただ相手より前に出ようと必死に走る。

残り10……。

もう何がなんだかわからない。ただ走り続ける。




そして……。



──ゴール!!


僕と隼人はほぼ同時にゴールし、勝負は見ていた審判役の副部長の判定となる。


ざわざわとどよめく部員のみんな。
美奈が泣きながら僕に抱きつき、僕は審判役だった副部長の顔を見る。

「副部長、結果は?」

荒い息を吐きながら戸惑った表情の副部長の結果を待つ。
僕の方がはやくゴールしたと思うがそこは微妙だ。

「勝者は……」

固唾を呑むみんな。

シーンとなって全員が副部長に視線を集中させる。
副部長は軽く息を吐くと、毅然とした態度で言った。

「勝者、夏川健太!!」

一斉に湧き上がる大歓声。
全員が僕に群がり、バシバシ僕を叩いて、称賛と喜びの声をあげる。
美奈などは大騒ぎで、僕がどれだけすごいか周囲に言っている。
僕も嬉しさを隠すことができずに千夏先輩を自然に探すと、千夏先輩は涙ぐんで僕を遠くから見つめていて、僕は満足する。

(勝ったんだ)

僕は勝利を噛みしめると、
張りつめた糸が切れたように、ゆっくりと意識を失った。















夜の9時──。
シンと静まりかえった宿舎の暗い廊下に、一人隼人が背を壁に預けて立っていた。
健太はあれからすぐに宿舎に運び込まれ、皆のお見舞いを受けながら未だに部屋から出れずに休み続けている。
正直、自分が負けるとは露にも思ってなかったせいで、負けたときは激しい怒りが募ったのだが、少し経ってからは冷静さを取り戻していた。


「どうでしたか。健太の容態は?」

千夏を待ち伏せていた隼人が、健太の部屋から出てきた千夏の姿を認めていう。

「……自分でお見舞いに行ったらどうなの?」
「いや、行ったんですけどね、元気のいい子に追い返されてしまいましてね」

隼人は苦笑しながら軽く手を振る。

恐らくだが美奈が追い返したのだろうと、千夏は察する。

「健太は安静にしておかないと駄目だけど、無事だから安心して」
「それは良かった。心配だったんでね」

隼人がホっとしたように言うと、千夏は不思議そうに首を傾げた。

「負けて悔しくないの? 目論みは全部潰えた訳だし」

これで勝てば隼人は自分の思い通りに記事を書けただろう。
健太が勝った以上、書く内容は健太に決められるし、もう隼人は陸上部について自由に記事を書けない。
ぶっちゃけ今までの態度から考えると、ここにいてもいなくても一緒だろう。

「悔しいと言えば悔しいですけどね。あいつは一応友人でしたから」
「一応友人? 変な言い方ね。そういえば健太とは会話してなかったよね」
「そうですね。自然と疎遠になっていきましたから」

苦笑しながら隼人は答える。

「……喧嘩でもしたの?」
「いや、してないですよ。ただ、向こうから話してこなくなったんでね」

特になんの感情も表さず淡々と喋る隼人からは、健太に対する敵愾心は見えない。
いったい健太のことをどう思っているんだろうか。
千夏はそれを聞こうと思ったが思いとどまる。

隼人は陸上部を窮地に追いやった犯人だ。
ああいうことをした性格から考えても、健太が自然と離れて行ったわけがわかる。
自分も極力関わらないことを決めると、別れを告げてその場を離れようと歩きはじめる。

だが、、


「ちょっと待ってください。まだ話があるんです」




















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  1. 2014/07/15(火) 00:00:00|
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