ザザー、ザザー、ザザー……
ひどい耳鳴りがする……。
ザザー、ザザー、ザザー……
なんなんだ、この耳鳴りは……。
暗い意識のなか、僕の眠りを妨げるような変な雑音が聞こえる。
それはテレビの電波、いや、まるで海の波の音のように一定のリズムで頭に響き、安眠を妨害する。
深夜遅くまで勉強していたせいで、まだ眠りに入ってそんなに経ってない。
ここで起きると、ただでさえ短い睡眠時間が削られるので嫌だ。
早く終われと薄らと残る意識でそう囁いてると、やがて音だけではなく身体を撫でる風まで感じ始める。
僕はゆっくりと起き上がると、その目の前の光景に驚いた。
なぜなら僕は海辺の砂浜にいたからだ。
それも見たこともないようなゴミひとつ落ちてない美しい白い砂浜で。
「夢を見ているのか僕は……」
呆然と呟きながら透き通った青い海を眺める。
砂浜もそうだが、こんな綺麗な海を見たことがない。
澄みきった青空のせいもあるのだろうが、幻想的で、まるで写真かテレビでも見ているみたいだ。
僕はぼんやりと海を見つめていたが、やがてすぐに自分の状況を思い出して慌てて立ち上がった。
どうして僕はここにいる、なぜこんなとこにいるんだ!?とパニックになっていくのを自覚しながら、周囲を見渡して情報になるようなものを探す。
だけど周囲には白い砂浜と、青い海の他には背後の森しかなく、僕は途方に暮れ額に手の平を当てた。
ここが夢の中でないことは分かってる。
裸足のまわりをまとわりつく白い砂はしっかりとその砂粒の感触を僕に伝え、海の水も触ってみればそのままの零れ落ちる冷たい水の感触だ。
僕はこれが夢であることを信じ、一縷の望みを託して再び元の場所に寝転ぶが、5分くらい経っても何も起きなかった為、仕方なく森の方へ歩き出した。
これが夢か現実か、それとも頭がおかしくなったのか分からないが、この熱い日差しの中じっとしていたら喉が渇いて干上がってしまう。
誰かいないか探すことにしよう。
「今何時なんだろうな……」
森の中に入ってどのくらいの時間が流れたのだろう。
僕はいい加減、人気のない森を歩くのが嫌になり愚痴を零していた。
裸足で森を歩いてるせいで足の裏はかなり痛みを感じており、時折足の裏を確かめながら歩くせいであまり進んでない気がする。
こんなわけのわからない事態になったせいで、森の中に入るのが内心怖かったのだが、植物自体は日本の見たことのある植物で安心する。多分、神隠しか何かで日本のどこかに飛ばされたのだろう。
そう自分を納得させながら、途中で見つけた綺麗な湧水で喉の渇きを癒して人を探す。
そしてさらに歩くこと数時間。
日が西に傾き始めてお腹が減ってきた頃、ついに僕は人を見つけた。
「す、すいません」
少し開けた広場のような場所で、大木を斧で切り倒そうとしているおじさんに声をかける。
「………」
「あの~~?」
返事をしないおじさんの傍に行くと、おじさんはまるで僕が目に入らないように斧を振り上げた。
「うわっ!!」
ガツッ──!!
幹にめり込むように入った斧と後ろに飛びのいた僕。
尋常ではない行動に息を呑んで様子を窺うと、おじさんはやはりこちらを振り向きもせず木こりの作業を続ける。
僕は再び声をかけようか迷ったが、あの様子が怖くなりじりじりと距離を取って立ち去る。
この広場には細い道が続いており、この道を通れば人里に出られるだろう。
ちょっとおかしい人に声をかけてトラブルに巻き込まれるよりいい選択のはずだ。
僕は一度だけおじさんの方へ振り返ると、小走りにそこを駆け抜けた。おかしな所にいることといい、おじさんの様子といい、ホッとした心が再び不安なものになっていくのを感じながら。
数十分後。
ついに僕は人里に辿り着いた。
だが、僕はそこでおかしなことに気付く。
人がいるにはいるのだが、髪の色といい、服といい、明らかに僕の知っているモノではなかったからだ。
いや、僕も青いパジャマのままなのだからおかしいといえばそうなのだが、このまるで開拓されたばかりのような村を歩く人は、まるで古い時代の人のような布服で歩いている。
パジャマ姿なので大勢の人に変な目で見られることを避けたかった僕は、村らしき場所に飛び込むことを避けてある意味助かったともいえるのだが、服はともかく赤や金髪や茶髪などカラフルな髪型を見てしまうと踏み込んで声をかけることに戸惑ってしまう。
いったいここはどこの国なのだろうか。こうなると日本じゃないことも視野に入れなければならない。いや、あんな色の髪の人がいるなんて聞いた事もないのだから地球がどうかも怪しくなってきた。
僕は村人から視線を一時も外さずにどうしようかと悩んだが、お腹も減ってるしこのままではどうにもならないと知って、思いきって村の入り口で歩いている金髪の少女に声をかけた。
「あのー、すいません」
「こんにちは、旅のお方。ここはウールの村ですよ。ゆっくりしていってくださいね」
「えっ……」
裸足でパジャマという僕の格好を見ても驚きもしないで、笑顔で挨拶をしてくる少女。
僕はどう返していいか分からず一瞬黙り込むが、すぐに救いを求めるように話しかけた。
「すいません、ちょっと電話貸してもらえないでしょうか。この格好なのでスマホもお金も持ってなくて……」
「こんにちは、旅のお方。ここはウールの村ですよ。ゆっくりしていってくださいね」
「は?」
またしても同じ言葉を吐いた彼女に戸惑う。
流暢な日本語もそうだが、僕の言ったことを理解できなかったのだろうか。
真意を確かめるように彼女の目を見つめるが、彼女は黙ったままの僕をみると、ゆっくりとその場を立ち去ってまた村の入り口を行ったり来たりしはじめた。
(こんな格好だから馬鹿にされたのかな……)
金髪少女に文句を言う事も出来ず、僕は諦めて仕方なく村の中に入って行く。
僕を見て怪しんだりしてなかったから大丈夫だろうとの判断だ。
家に連絡もそうだが、ずっと歩きづめでかなり疲れているしお腹も減っている。
髪の色や村名からいったいここはどこなんだと怖かったが、日本語が通じたのでまだマシだと頭を振る。
まずは交番を探そうと建物を見てみるが、どうも交番がある雰囲気ではない。というのも建物が中世時代を思わせるような建物ばっかりだからだ。
どうしようかと思ったが、とりあえずレストラン風のお店に入ってみた。
「すいません。近くに交番ありませんか?」
客が数人しか座れないような狭い店で男性店員に声をかける。
「いらっしゃい何にしましょう?」
「いや、ごめんなさい。交番……あっ、警察を探してるんですがどこにあるか知りませんか?」
「いらっしゃい何にしましょう?」
「………」
さっきも聞いた言葉が返ってくる。
僕はこの店員の顔も凝視するが、僕が何も言わないのを感じ取ると、店の奥に行ってしまった。
(どうなってるんだろ、ここは……)
頭が痛くなりそうな会話の連続で、僕はもうこの際誰でもいいかと道行くお姉さんを呼び止めた。
「ここから東に行くとサファイアの街よ」
「………」
聞いてないのにいきなり喋り出したお姉さん。
警察のある場所を聞いてみると、
「ここから東に行くとサファイアの街よ」
やっぱりそんな言葉が返ってきた。
僕はさらに同じことを繰り返して聞くが、やはり返ってくる言葉は同じ言葉だけだ。
僕は首を振ると、黙ってその場を立ち去る。
まるで人間じゃなくゲームのNPCと喋ってる気分だ。
僕は自分で言ってて信じられなかったが、村の警察を探すついでに片っ端から村人に声をかけて確かめ始める。
そしてその結果あり得ないことだが自分の仮説が正しく、まさに中世そのままの世界であることが分かった。
「警察も電話もないなんて嘘だろ、というかこの世界ってゲームの世界なのか……」
店にレジやら電気を使うモノが一切なく電信柱すらないのだから信じるほかはない。
冗談交じりに僕はゲームの勇者か何かなのかと思いながら、思わず脳内でステータスって呟くとこれまた信じられないことにステータスが情報として脳内に流れ込んできた。
名前:佐山 亮
性別:男
年齢:16
性格:中立
レベル:1
HP:15/18
力:11
知力:8
早さ:10
体力:9
運:6
スキル
なし
どうやらほんとにゲームの世界らしい……。
こんなゲーム知らないけど。
>>
- 2014/09/23(火) 22:56:30|
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