2ntブログ

モブの植木鉢小説館

NTR小説置き場

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

9話 次の日

次の日の授業。僕はまた木刀を握ってた。
やはり時代が時代だということで、こういう鍛錬の時間は毎日あるらしい。
時間割を見ても必ず1時間は体育の時間がある。
普段使わない筋肉を使ったせいで筋肉痛になっていた僕には、ちょっと辛い。

「素振り100回!」

かなりハードと思える内容で、榊先生の命令だとしても数を誤魔化してさぼりたいくらいだ。
いつもこんなことみんなはやってるのだろうか。

機械的に木刀を振るクラスメイトを見ると、僕だけが愚痴を零してるみたいだ。
たぶん、みんなはこれが当たり前だと思ってるのだろう。愚痴を零す段階を通り過ぎて、無心で振ることに特化してる。
あの力のなさそうな深優ちゃんですら、一生懸命木刀を振ってるところを見ると、なんだかこんなこと思ってるのが悪い気がしてくる。
なんとか100回こなすと、次にランニング10週を命じられる。

もう軍隊だね、これは。
さっき思ってた事を忘れて、もう愚痴を零すが、皆が走り出すと僕も一緒になって走り出す。
遅れてる子は容赦なく怒られ、追加で回数を増やされる。
まさかこんな学校に来ることになろうとは。


魚群みたいに走って膝に手を付いて息をしてると、今度はペアになって打ち合いだ。
防具つけてないのに大丈夫なのか、しかも木刀だぞ?
早くもペアになって木刀で相手を攻撃してるのを見ると、顔や急所には寸止めみたいな形をしてるのがすぐに分かる。多分こういうことには慣れっこなのだろう。恐らくだが小学校や中学校からやってる流れ作業に違いない。

僕もペアを探して早くやらないと怒られると、首を左右に振って誰かいないか探してると、また榊先生がやってきた。

「新川さんは私の相手をしなさい」
「……はい」

またかと思ったが、どうせ強制だろう。
逃げることを諦め、木刀を構える。
先生も無言で木刀を構えた。

「………」

妙な空気にプレッシャー。
なんか対戦するたびに真剣になっていく気がする。
本気でやって怪我をさせられてはたまらんと思いながら、僕の方から動いた。
刀先を軽く合わせると、次の瞬間、榊先生の木刀を強く横に弾き、一歩踏み込んで榊先生の頭を面内ちにいったのだ。

「甘いっ!!」

僕の面内ちが決まりかけたとき、僕の木刀が強く弾かれ体勢を崩させられる。
そうだった。先生は風の能力者だった。
生半可な攻撃ならすぐに防御される。

慌てて体勢を立てなおしながら、距離をとるように横なぎに払うと、元々先生は追撃する意思はなかったらしく、軽く後ろに下がって躱された。

僕はダラリと木刀をおろすと、油断なく先生を見つめながら、これからどういう攻撃をするか考える。

まず正攻法は厳しい。
となると、奇襲か奇策めいた攻撃をしないと駄目なわけだが、簡単に思いつかない。

こちらの出方を見るようにジリジリとにじり寄ってくる先生に合せて、こちらも少しずつ後ろに下がっていく。
その間に頭でどう戦うか考え、消去法で一つずつ切り捨てていく。
だが、どう考えても先生に一撃を与える方法が見当たらない。
あのスピードを上回るにはこの状況下では厳しい。

僕は正面はまずいと先生のまわりを円を描くように移動して隙を窺う。

だけど先生は僕が移動した分だけ身体を傾け、常に正面に立とうとする。
足の運び方といい、さすがは先生。どうにも隙がない。
僕はやけくそになって先生のまわりを走りながら、突如方向を変えて、ジグザグにステップしながら榊先生と懐に飛び込み、横っ腹目掛けて木刀を振るう。

バキッ!!

木刀がしっかりと榊先生の木刀に受け止められ、体勢を立て直しての鍔迫り合いが始まる。
男としてのパワーを生かしながら、僕は徐々に先生の木刀をグイグイと押し込んでいく。

「がんばれ~!」
「もう少しです!」

いつのまにか周りから僕に対する声援が飛び交い、それに勇気づけられた僕は一層押しこむ。

だけど先生もそう簡単にやられるほど甘くはない。
押し込む力を外に逃がすような体勢になり、刀でいうところの鍔元に力を込め僕の力に対抗する。

「くぅ……」

このままでは不利。また負けると思った瞬間、昨日の柔道の事を思い出した。

(これだ!!)

咄嗟の判断。そう判断を下したのは頭ではなく本能。
僕はつばぜり合いをしながら先生の足首を払うように蹴りを入れた!

「なっ!?」

ぐらりと揺れ体勢を崩した先生。
すかさず僕は木刀を振り上げ、先生の首に向けて振り下ろす。

(勝った!)

間違いなく感じ取った確信と自信。
だが次の瞬間、先生の姿は僕の視界から消え失せた。

「っ!!」

ブン!と空振りする木刀。
僕は背筋が凍るような予感を感じ、本能が命じるまま身を屈めて一回転するように前方に転がった。

シュッッ!!

空気を切り裂くような震えるような鋭い音。
振り返ってみれば僕の先ほどいた場所で、驚いた顔のまま木刀を横薙ぎに払った状態で、目を丸くして僕を見つめる先生の顔があった。





「今日はここまで、体育委員は木刀を回収して後片付けしておきなさい」
「はい!」

1時間目終了を告げる鐘が響き渡った頃、
結局、万策尽きた僕は能力を自在に使い出した榊先生の前に手も足も出なくなり、またみんなの前で負けてしまった。
これで3連敗。一泡吹かせてやろうと一瞬思っちゃったりしたけど、儚い夢だった。

体育委員に木刀を渡し、タオルで汗をぬぐってると、みさきちゃんと深優ちゃんがやってくる。

「なに落ち込んでのよ」
「別に落ち込んでないけど……」
「嘘おっしゃい、落ち込んでるじゃない」

かっこわるい気がして目を逸らしながらタオルで汗をぬぐう僕は、落ち込んでる風に見えたらしい。
僕は内心で少し溜息をつくと、みさきちゃんに向き直る。

「前にも似たようなこと言ったけど、あれだけ榊先生に能力使わせたんだから、もっと自信持ちなさい。先生があれだけ能力を駆使して闘うなんて生徒でもごく一部なんだからね」
「そ、そうですよ。わたし、秋さんがここまでやるなんて思わなくて、ちょっと感動しちゃいました」
「は、はは……、ありがとう」

彼女たちの精一杯の励ましだと分かって、落ち込んでる事を否定することをやめた。
人の善意は素直に受け止めとかないとね。

彼女たちと教室に戻るとき、みんなから尊敬に似た眼差しを向けられた。
どうやら本当に善戦したんだなと、今度こそしっかりと実感して気分がよくなった。






昼食後。僕らはバスに揺られて三重と和歌山の国境に向かっていた。
なんでも今日は実習で、敵と小競り合いをしている最前線を見学に行くということだった。
危険だと思ったのだが、学生はあくまでも見学であり、小競り合いをしているところから離れた場所で、戦場の空気を知る訓練とのことだった。
まったく恐ろしい世界に来てしまったものだ。まさか戦場に行くことになろうとは。
今まで生きてきて高校で戦場に行くなんて夢にも思わなかったよ。

内心鼓動をドキドキさせながら、後部座席に座るみさきちゃんに話しかける。

「ドキドキするね」
「……そうね」

どうやら今回の実習、みさきちゃんにとっても初体験らしく、僕と一緒で若干緊張しているようだった。
彼女は卒業後、属性能力者ということで軍に入ることが決まっており、エリート街道を進むことから、この実習は案外重要のことのようだ。
きっと入隊後はとんとん拍子で出世していくのだろう。ちょっと羨ましい……。

僕は緊張を隠せないみさきちゃんが無口になってしまったので、窓の外に視線を移し、流れる外の景色を見る。

山道を縫うように走ってるので、まわりは緑だらけだ。鹿や猿がいたって不思議じゃない。
そういや、なんて場所に行くんだったと、パンフレットを見ると、紀北って場所のようだ。
本来なら和歌山との国境線はかなり南の新宮ってとこらしいのだが、和歌山に連敗し紀北が最前線になってしまったとのことだった。

僕はパンフレットに載ってる地図を見ながら、こんなに三重は押し込まれてるのかと内心で溜息をつき、色々と確認をはじめる。
それによると紀北の南にある重要拠点の尾鷲って場所を取られたのがきつかったらしく、紀北が奪われれば、鳥羽や志摩が危うくなるらしい。
結構三重ってやばくない?と思いながらも、すぐにいざとなれば同盟を結んでる岐阜あたりから援軍が来るかぁと楽観視する。
紀北は岐阜から遠いので援軍は期待できそうにないが、鳥羽や志摩は海沿いなことから船で援軍に来てくれるだろう。

なら当分は大丈夫かとパンフレットを仕舞うと、目的地に着くまで目を閉じて休んだ。


数時間後。
夕方になってようやく僕らは紀北についた。
てっきり日帰りだと思ってた僕は泊まりかよと、眉間に皺を寄せるが文句など言えるはずもなく、皆と一緒に引率の榊先生の指示に従って行動する。
言い忘れてたが今回の実習は僕らのクラスのみで他のクラスは来ていない。多分見学場所に敵襲があった時被害を最小限に抑える為なのだろうが、なんだか貧乏クジを引かされた気分だ。
それはバスに山と積まれてあった積んであったテントを見て確信し、僕らはテントを運び出してキャンプ地に張り始める。
午前の授業で疲れてるのに、なんでこんな目に合うんだろう。やっぱ乱世の世だからか?

テントを張り終わり、配られた弁当で食事を済ませると、ミーテングの後早々にテントに潜り込む。
遊びに来てるわけじゃないので花火とか楽しいイベントはナシだ。ふざけようにもあの厳しい榊先生に見つかればどんな罰を下されるか分かったもんじゃない。
となれば、テントで一緒になった前の席のみさきちゃんと話しでもするしかないだろう。

「まさか泊まりだと思わなかったよ、みさきちゃん知ってた?」
「知らなかったわ」
「そっか」

普段の明るいみさきちゃんが影を潜め、若干ツンの部分が出てるのを確認しながら、みさきちゃんの隣に寝袋を敷く。
ランプが支給されてるのでちょっと怪談話をするような雰囲気だ。

「秋ちゃんは戦場が近いのにリラックスしてるみたいね」
「そう見えるかな?」
「うん」

コクンとみさきちゃんは体育座りのまま頷く。

「あんまり考えないようにしてるせいかも」
「そうなんだ……」
「そうだよ、小競り合いしてる場所から離れてるし、深く考えても仕方ないよ。先生も言ってたでしょ、敵と戦わないって」

ランプの淡い光もそうだが、話的に重苦しくなりそうなのは仕方ないといったところなのか。
体育座りの姿勢を崩さないみさきちゃんを見てると、こっちまで暗くなりそう。
実習でここまで雰囲気がわるいことは経験にないぞ。

「だけどそれはあくまでも予定でしょ。今日みたいに泊まりのこと教えてもらえなかったし、予定変更で最前線に連れて行かれるかも」
「それはないって」
「なぜそう言いきれるの?」
「そりゃあ、僕らは学生だし」
「そんなの分からないじゃない、三重の状況を見たらもう!」

そこまで言ってみさきちゃんは急に黙り込む。
楽観視してたけど、ひょっとして僕の認識が間違ってるのか?
確かに押されてるのは間違いないんだけど、今まで普通の日常を送ってたわけだし。

「……何か知ってるの?」

黙り込んだままのみさきちゃん。

「黙ってないで何か知ってるなら教えて。訳の分からないうちに死にたくないから」

嫌な予感を感じ、もう一度訊いてみる。

「……榊先生と他の先生が昨日廊下で話をしてるのを盗み聞いたの。もう紀北の戦いは小競り合いじゃないって」
「えっ……」

思いもよらなかった答えに一瞬言葉に詰まる。

「そんなこと報道では一言も……」
「三重は和歌山に負け続けだから報道しなかったんだと思う。また負けちゃうかもしれないから」

つまり苦戦を強いられてるのを隠したいってことか、責任や士気に関わるし。
まさかの可能性を感じて、一瞬で僕の背筋に冷や汗が流れる。

「私が死んだらお姉ちゃんを支えてあげてね……」
「………」

気の利いた言葉を返すことも出来ずに、僕は淡い光を放つランプを見つめることしか出来なかった。


話しが終わったあと、寝袋に入った僕はなかなか寝付けなかった。
あんな話を聞いたらすやすや眠れってほうが無理なわけだし、目を瞑ればさっきの話を思い出して眠れなくなる。

(ああ、くそっ)

実のところこの世界の人間でない自分は、この三重国には愛着というものがないので国を捨てて逃げることには抵抗なかった。
最初の頃はここでやっていくしかないと思っていた僕だったが、亡命の手続きは簡単そうだし、この世界の事情もある程度わかったからだ。だけど、短い日々ながらもみさきちゃんや結衣お姉さん、そして深優ちゃんという世話になった人がいるので、その人たちを見捨てるということには抵抗がある。もし戦わずして逃げたらきっと後悔するだろう。
まだ決まった訳じゃないと頭が理解しながらも、モヤモヤを消すことが出来ずに寝袋から半身を起こす。

「眠れないの?」
「うん」

恐らく僕と一緒で寝てないだろうと思っていたみさきちゃんに声をかけられて、驚きもせず返事を返す。

「ちょっと外の空気吸ってくる」
「わたしも行くよ」

僕と一緒にジャージ姿のみさきちゃんもテントの外に出た。

「静かだね」
「うん」

外はすっかり暗くなっていた。
綺麗な星空が頭上に輝き、壮大さと美しさを芸術品のように地に住む者に見せつけている。
ずっと見てたい気分だったが、寝ている人に迷惑なので
テント群を離れて近くの森の傍に行った。

「まだ最前線に行くと決まった訳じゃないし大丈夫だよ」
「そうだよね」

木にもたれたみさきちゃんは俯き加減で頷いた。
当たり前だがみさきちゃんの気分は晴れない。もしかしたらこれが最後の夜になるかもしれないのだ。
明るくしろってなんか軽く言えないだろう。僕の慰めも希望的観測に過ぎない。

「そういえば憶えてる? 僕とみさきちゃんが出会ったのは森の中だったんだよ」

俯き加減のみさきちゃんを、少しでも元気づけようと話しかけていく。

「僕が道に迷ってて、それをみさきちゃんが助けてくれて駅まで送ってくれて、それでお金がないのに気づいて
みさきちゃんの家に犬みたいに転がり込んだんだよね」

言い方がおかしかったのかみさきちゃんはクスッと笑った。

「だから今度は僕がみさきちゃんを助けるよ。最前線に送られても深優ちゃんと一緒にきっと無事に帰らせてあげる。だから僕を信じて」
「……うん、ありがとう」

みさきちゃんは初めて顔を上げ笑った。

「なんだか秋ちゃんって頼もしくなったよね」
「えっ、僕って頼りなかった?」
「そうだよ。出なきゃ東京からここまできて帰り賃なくしたりしないよ」
「そりゃあ、そうか」

いつしか僕らはいつもの調子になり、笑顔を浮かべて話し合う。

きっと僕らは明日無事に帰れるだろう。

例え最前線に送られたとしても。
そう信じて寝ることが出来た。
















                                           <<  >>
  1. 2016/02/21(日) 00:53:04|
  2. 小説
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<8話 柔道部の彼女 | ホーム | 10話 紀北での戦い>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://garagara20.blog.2nt.com/tb.php/276-150c3fa2
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

モブGR

Author:モブGR
ntr属性なのに超純愛ゲーをやって自己嫌悪になった男。リハビリのために小説を書いてます。
ほぼ賢者モードで書いてるので期待しないでください。

カテゴリ

はじめに (1)
小説 (249)
雑記 (1)

リンク

このブログをリンクに追加する

最新記事

カウンター