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モブの植木鉢小説館

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5話 学校 2

「どこで食べる?」
「屋上?」
「ここって屋上あるか? 木造だったけど」

購買で昼食を買った僕らは、どこで御飯を食べるか話し合っていた。
天気がいいので屋上で食べようとしたが、屋上がなさそうなので中庭に行くことにした。

地元の子じゃない僕らが物珍しいのか、すれ違う生徒にじろじろ見られる。
ここまで見られると少し居心地が悪い。
学年違いでも向こうにはすぐわかるのか、そういうところが都会と違う。田舎ってこういう意味では怖い。聞いたことあるが田舎だとすぐ噂が村中に広まるらしい。これはあながち嘘でもなさそうだ。

僕らは居心地の悪さを感じながら、人気のない校舎の外に出ると、
そこでようやく緊張をほぐすように大きく息を吐いた。

「なんだよ、この学校! すごい視線を感じたんだけど」
「そんなこと言っちゃ駄目よ。こっちで生活するんだし……」

達也が吐き捨てるようにいうと、結衣が窘めるように穏やかに言った。
だが結衣も居心地の悪さを感じていたようだ。珍しく表情がさえない。
確かにあれは僕でも経験したことのない視線だった。なんというか絡みつくような粘着性が混じっていたのだ。

「ま、そのうち慣れるでしょ。転校生の立ち位置なんてこんなもんだし」

楽観的に風香が首の後ろに手を回して呑気に言う。

「そんなもんかねぇ。俺はあの視線にだけは慣れそうにないよ」

達也が首を振ると、僕は話題を変えるように少し大きめの声を出した。

「じゃあ、あそこの木の下で食べない?」
「うん、ベンチもあるしあそこがいいね」

僕が歩き出すと、結衣もついてきて残りの二人も歩みを遅くしてついてくる。

「よっこらせと」
「浩太なんだかおじさんくさいよ」

一つしかないベンチに僕は座る。
順番は、結衣、僕、風香の順だ。

「……おい。俺が座れねぇぞ。もっと詰めろ」
「ごめ~ん。ここ3人しか座れないベンチなの。達也は芝生の上で食べてくれる?」

わざとらしく風香が、達也に意地悪する。
それを聞いた達也はムッと顔を顰めると、風香の隣に強引に座ろうとした。

「きゃあ、ちょっとくっつかないでよ」
「うるせぇ、おまえは浩太にくっついてるくせに!」

達也が割り込んできたせいで、肩が触れ合うだけだった僕と風香の距離がさらに近くなる。
僕の左腕に風香が抱き着くような形になり、弾力のある胸の谷間に僕の腕が挟まれるような形になった。

「………」
「……なによ」

無言で僕が風香の顔を見た瞬間、風香は赤い顔で僕を軽くにらむ。

「いや、その腕が……」
「しょうがないでしょ、達也が隣に座ったんだから!」

そう言って風香は僕の腕を抱きしめる力を強くする。
達也との間には少し距離があるし、もうちょっと向こうに行ってもよさそうだが。
というか、そこまで達也を拒絶しなくてもいいんじゃないか。達也の背中が透けて見えるぞ。

「それに結衣だって、浩太にくっついてるじゃない」
「えっ……」

言われてみて反対側に視線を移す。
いつの間にか結衣も僕にべったりするようにくっついていた。

「……私は落ちないようにするから仕方ないの」
「もう、そんなこと言ったって、結衣の考えなんてお見通しなんだから!」

バチバチと風香と、笑顔の結衣の間で火花が飛び散り、挟まれた僕は居たたまれない気持ちになる。
いったいなんだって言うんだ。
助けを求めるように達也を見ると、達也は面白くなさそうな顔をしておにぎりを食べていた。確かに風香の態度は冗談にしてはやりすぎだったと思うけど、そこまで拗ねることないだろ。

「はいはい、喧嘩しない。早くお昼を食べないと授業始まっちゃうよ」

僕は二人の間に割り込むように強引に手を入れると、サンドイッチの包みを開け始める。

「そうね。結衣とは後で話があるけど、今はお昼ね」
「浩太くんが言うなら仕方ないわね」

バチッと火の粉が飛んだ気がしたが、とりあえずお昼は無事終わった。


放課後──。
短いようで長かった初日が無事終わった。
クラスメイトたちが次々と別れの挨拶を済ませ教室を出て行く中、僕の机を中心にいつものメンバーが集まる。

「風香は部活に行くの?」
「うん」

喧騒混じる教室。風香は嬉しそうに肩に担いだ竹刀袋を担ぎなおす。
相当楽しみにしてたらしく風香の頬は緩みっぱなしだ。
この為に留学に来たようなものだし、当然だろう。態度によく出て微笑ましくなる。

「じゃあ、僕たちは帰ろうか」
「そうね。荷物の整理もあるし」

坂城さんの家に送った引っ越し荷物がある。
部屋に積まれてるので片付けなければならない。

「お、おれは、どうしようかなぁ~」

だが真っ先に家に帰ろうとするはずの達也が、挙動不審に目を泳がせた。
どうやら入部を持ち掛けられたことを気にしているらしい。
無理もない。断言するが、あんな美少女に部活に誘われたことなんて、生まれて初めてだろう。
とはいえ、風香のいる前で剣道部に入りたいです!なんて言えないようだ。
下心をあっというまに見破られそうだしな。

僕が冷たい目で見ていることに気づくと、達也はなぜか大慌てで言い訳を始める。

「俺は別にそういう意味で言ったんじゃないからな!」
「なに? どういうこと?」

事情を知らないふたりが首を傾げる。

「あっ、い、いや!こっちのこと!」

自分の失言に気づいて、達也が慌てて両手を胸の前で振る。

「なによ、言いなさいよ。私たちに隠し事して後でどうなるかわかってるんでしょうね!」

風香が理不尽にも、僕と達也を睨む。

「いやだから何でもないって!」
「嘘おっしゃい! ならなんでそんなに慌ててるのよ!」

声が大きくなり始める風香。
残っていたクラスメイトの注目を浴び始める。

「風香、ちょっと声が大きいよ」

結衣が周りを気にしながら、風香になだめるように言う。

「だって、達也が」
「わかってる。場所を変えましょ。ふたりともいいわね?」

結衣が僕らに有無を言わせない態度で言ったので、仕方なく僕らは頷く。

「じゃあ教室から出ましょ」
「うん」

僕と達也は怒られた子犬のような気分になりながら、ふたりについていった。


「いいかげん白状しなさいよ。何企んでるの?」
「別に企んでなんかねぇよ。ただ部活見学に行こうかと思ってただけだ」

人が減った廊下。僕ら4人はそこで顔を突き合わせていた。

「ならなんで挙動不審だったの?」
「誘われたからだよ。クラスの女の子に」

結衣に問われて達也は観念したように全てをばらす。

「ははーん、通りで。期待しちゃったわけか」

風香はふふーんと鼻で笑う。

「な、なんだよ。別にいいだろ。期待しても」

少しひるんだように達也が反論する。

「こっちの子って可愛い子しかいないもんね。夢見ちゃうのも仕方ないかぁ」
「そうだね。でも達也くんにはいいことじゃないかな」

風香と結衣が顔を見合わせて頷きあう。

「くっ!」

達也が悔しそうに、苦悶の声を漏らす。

「じゃあ、わたし部活に行くから!」
「うん、頑張ってね」

風香が竹刀袋を背負って去っていき、僕ら3人は取り残される形になった。

「で、いったいどこから誘われたの?」
「……剣道部」
「えっ、強豪って聞いてたけど普通に誘ったりするのね」

結衣が驚いたように達也を見る。

「うん、だから達也も風香に言いたくなかったんだよ。そんな理由で剣道部に入ったら怒るって知ってるから」
「ああ、なるほどね」

結衣が全て合点がいったと頷いた。

「ちくしょう、絶対に剣道部に入ってやる!」
「それはやめといたほうがいいと思うけど」

僕の意見に、結衣は苦笑する。

「うるせぇ!俺は入るって決めたんだ!」
「わかった、わかった」

いきり立つ達也をあやすように、手の平を上下にひらひらさせる。

「とりあえず、今日は大人しく帰りましょう。今行ったら喧嘩になっちゃうでしょ」
「そうだね」

僕は結衣に同意する。

「俺は……」
「はいはい、わかったから」

なおもいきり立つ達也を抑えながら、僕らは大人しく帰路につくのだった。












中木島高校剣道部──。
それは全国団体戦優勝8回を誇る強豪校である。
特に近年はその活躍ぶりが目覚ましく、女子部門では個人戦も何度も優勝を遂げていた。

「よしっ!」

休日に来た剣道部と学校を繋ぐ山門の前で風香は気合を入れると、ゆっくりと山門を通り上へと続く石段をのぼっていく。
この剣道部に入部するためにこの学校に来た。
実は風香自身も全国で有名な美少女剣道小町で、全国大会に出場経験のある強豪のひとりだった。
そんな風香がここへやってきたのは、憧れの美少女剣士の名切渚の存在があったからである。
全国大会で見た華麗な技の数々。立ち振る舞いといい、実績と言い、まさに非の打ちどころのない人物である。

風香は、胸をワクワクさせながら石段を一歩一歩踏みしめながらのぼる。
上までは意外に遠く、50段ほどあった。
階段を上りきるとそこには大きな道場があった。

風香はいったん入口で立ち止まると、大きく深呼吸して道場の中に入った。

「失礼しまーす!」

誰かに聞こえるように言ったつもりだったが、入口付近には誰もおらず拍子抜けする。
それでも靴を脱いで通路の奥に行くと、どっかで見たことのある剣道着姿の小柄なツインテールの女子部員とバッタリ出会った。

「……入部?」
「うん!」

ボソリと呟いた子に風香は元気よく返事する。

「……こっちにきて」

クルリと背中を見せたツインテールの子に連れられて、風香は道場に入っていく。

「部長、入部希望者です……」
「ん?」

竹刀を振っていた道着姿の剣道部部長、名切渚が振り返る。

「よく来たね。待ってたよ、若宮さん」
「はい!」

憧れの渚の前で少し気合を入れて、返事をする。

「知り合いです……?」
「ああ。全国大会に出場した実力者だ。遠山、みんなにも紹介したいから更衣室に連れて行って道着に着替えさせてくれるか?」
「わかりました……」

ツインテールの遠山という子が驚いたように風香の顔を見ると、すぐに気を取り直したように風香を連れて道場の端にある更衣室に向かった。
















                                <<  >>
  1. 2017/10/13(金) 13:01:44|
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  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:1
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コメント

更新待ってた!!!
これも好きだけど苺山学園も頼むよ!!
これからの更新も待ってるよ!!!
  1. 2017/10/20(金) 00:53:24 |
  2. URL |
  3. オーイェー #-
  4. [ 編集 ]

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ntr属性なのに超純愛ゲーをやって自己嫌悪になった男。リハビリのために小説を書いてます。
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