一方その頃。何も知らずに帰ってる3人は呑気に学校から家までの帰路についていた。
日はまだ高く、田舎の空気がそう感じさせるのか、まだ昼間のような暖かさを感じていた。
なんていうか現実と乖離した世界みたいで、都会のように建物がごちゃごちゃしてないせいか、とてものんびりした気分に浸れる。
こんなところにいると、受験勉強とかで四苦八苦していた僕らはなんだか滑稽に見えた。
「はぁ……」
「……まだ、諦められないのか?」
車一台通らない田舎の道路を歩きながら何度も溜息をついている達也に、僕はいい加減うんざりと言った風に冷たい目を向けた。
「だ、だってよ」
「はいはい、剣道部に入部できなくて残念だったな」
それ以上言わせずバッサリ切り捨てた僕は、アスファルトに落ちていた小石を軽く蹴飛ばした。
「くそっ、他人事だと思って!」
「実際他人事だからな」
苦笑いしている結衣の隣で、僕は空を見上げる。
天気がいいのに達也の見苦しさったらもう……。
「結衣ならわかってくれるよな?俺の気持ち」
「う~ん、わかるような、わからないよな?」
曖昧に笑みを浮かべて答えを濁す結衣に、僕は笑う。
「はっきり言ってやりなよ。わからないって」
「おまえっ!!」
目を血走らせて僕に食って掛かる達也は、ちょっとマジになっている。
どうやら僕らが思っている以上に、未練を残しているらしい。地縛霊か。
「ちっ!おまえはいいよな。可愛い子がいるし」
「えっ、僕が?」
彼女のいない僕を素通りして、達也は意味深に結衣を見る。
「ちょ、ちょっと!達也くん、なに変なこと言ってるのよ!」
珍しく結衣が慌てふためき、達也に抗議する。
「あースイマセン。俺の勘違いでした」
達也が急に棒読みになりながら、結衣に謝罪する。
「もう、達也くんったら。風香に言っちゃおうかしら」
「あっ!それ卑怯っ!!俺が悪かった! それだけはやめてくれぇ」
「えー、どうしよっかな~♪」
急に立場が逆になり、必死に謝る達也と、可愛らしくそっぽを向く結衣。
真面目な結衣に変なこと言ってからかうのはいいけど、ほどほどにしないとほんとに報告されそうだ。血の雨が降りそうだからしないだろうけど。
しかし本当に結衣が僕の事好きだったならいいのにね。普段からスキンシップで恋人っぽく身体をくっつけて来るときがあるから誤解しそうだけど、それは僕のことを信頼してるからああやって無防備なことをしてくるってこと忘れちゃいけない。
なんだかんだと達也にもああやって親しい姿を見せてるし、僕を仲のいい、親友みたいに思ってるんだろう。
親し気に話してる二人をほっといて、ふと道路わきの森の中を見つめると、そこで驚きの光景を見つけて足が止まった。
「どうした?急に止まって」
「しー!」
道路わきに停まってた軽トラの陰に隠れると、訳の分からないように突っ立てる達也と結衣を手招きで呼ぶ。
「どうしたの?」
「アレ……」
一緒に隠れた達也と結衣に、驚きの対象物を視線で指し示す。
固まったようにふたりの動きが止まった。
視線の先に広がる森の入口。そこで制服を着た男女が蠢いている。
女子が木に手を付き、男子が剥き出しのお尻をこっちに向けて前後に腰を振っている。
セックスしている。
目の前のカップルらしき男女が下校中にセックスしているのだ。
「すげぇ……」
達也が目を見開いて呟くようにして感想を漏らし、真面目な結衣は絶句する。
かく言う僕も、言葉を失ったままだ。
リアルであんな光景を見るの初めてだし、あの生々しさは刺激的過ぎる。
時を忘れたように暫く魅入っていた僕たちだったが、やがて結衣がはっ!としたように夢から覚めると、慌てて僕の目に手のひらを当てた。
「みっ、みちゃだめ!!」
「うわっ」
突然視界が塞がれ、真っ暗になる。
もうちょっと見たかったのに。
「おまえら静かにしろ、気づかれるだろうが」
「ちょっと、達也くんも見ちゃ駄目よ」
結衣が僕から手を離すと、達也を物陰に引っ張り込もうとする。
「わっ、馬鹿やめろ!そんなに引っ張ったら」
達也はバランスを崩すと、軽トラにぶつかりながら盛大に倒れる。
(ばれた?)
軽トラに接触したときにかなりの音を立てた。気づかれてもまったく不思議じゃないので焦る。
僕らは顔を見合わせると、ゆっくりとしゃがみこみながらその場を離れる。
相手と顔を合わせたら気まずい。ここが狭い村で僕らが余所者だと忘れてた。
何かされるとは思いたくないが、こういうのはお互い知らない方がいいだろう。
なんとか距離をとって何食わぬ顔で僕らは歩き出すと、後ろから見られてる気配がした。
気のせいだと思いたい……。
◇
(はぁ、今日は大変だったなぁ)
剣道部の練習後。風香は部室で着替えをしながら反省していた。
冷静に考えると裸を気にしているのは自分だけ。素振りの時に見られていたのは、自分の挙動がおかしかったので返って注目を浴びていたのではないかと気づいたからだ。
『そう、気にしていたのは自分だけ』
今も部室では女子部員がおっぱい丸出しで堂々と着替えており、気にしている者はひとりもいない。
遠山に練習後に紹介された同じクラスの『島坂美沙』が隣で着替えているのだが、この子もまったく自分の乳房が見えているのに気にした様子はなかった。
「どうしたの?」
小さく溜息をついたのがバレたのだろう。隣で身体を拭いていた島坂美沙が風香の顔を覗き込む。
「ちょっとカルチャーショックを受けたというか、その男女が一緒に着替えるから」
ああ、と美沙が納得顔で苦笑いする。
「ウチは一心同体が合言葉だからね。部が出来たときから一緒だって聞いたことあるけど、珍しいかもね」
珍しいどころの話ではない。こんな部ほかにないのではないだろうか。
大きな声で突っ込みたかったが、他の部員もいるので自重せざるを得ない。
「気にしてるんだ?」
「うん」
ショートカットの美沙が自分のタオルを首からかけると上半身裸のまま堂々と部室の真ん中に歩き出す。
「別に見られて減るもんじゃないから平気でしょ。モデルとかも着替えの時そうだって話だし」
美沙は何事かと注目を浴びる中、自分のタオルをとっておっぱいを堂々と晒す。
B86くらいあって風香が見惚れるくらい綺麗なおっぱいだ。
「何言ってるんだ、美沙?」
「若宮さんが男女一緒に着替えするのが珍しいみたい」
へーと、一気に視線が風香に集中して、風香は思わず自分の下着を隠したくなった。
「都会だと珍しいのかもな」
男子部員のひとりが腕を組んで唸りながら言うと、風香は首を振って呟く。
「珍しいというか、そんな部ないと思いますけど……」
「えー!うそー!」
女子部員は驚きを露わにして顔を見合わせる。
「都会ってシャイなんだね」
別の意味で部員たちは驚いていて、もう何がなんやらわからなくなりそうだ。
「都会には都会の、ウチにはウチのやり方があるということだ」
「渚部長」
今まで黙ってやり取りを見ていた渚が、これまた立派なB90くらいありそうなおっぱいを堂々と晒しながら胸を張って言った。
「胸を見られたくらいで剣先が乱れるようでは、剣士としてはまだまだだ。丁度いい、男子全員ズボンとパンツを下ろせっ!検査を行う」
「うわ、せっかく着替えたのに」
制服に着替えた男子の数名がうんざりしたような表情を見せながらも他の男子部員と一緒にズボンごとパンツをおろす。
風香はもう大混乱だ。
目を背けるのも忘れて、他の女子部員と同じように男子のアソコに視線が向いてしまう。
「よし、女子部員。男子が勃起してないかチェックしろ」
「はいっ!」
なぜか嬉々としたように風香を除く女子部員が男子に近づき、丹念におちんちんをチェックしていく。
「んー今日は誰も勃起してる人いないねぇ」
「いや、練習の時はしてないぞ。おまえらのなんて見飽きてるからな」
「なんか失礼なんだけど」
ガヤガヤ軽口を叩きながら、チェックしていた女子部員たちが顔をあげ渚をみる。
「大丈夫みたいです」
うんと渚が黙って頷く。
「見慣れているのは事実だからな。だが……」
そこまで言うと、なぜか渚は風香に視線を向けた。
「風香、おっぱいを出せ」
「えっ」
弾かれたように風香は意識を取り戻して、目を見開いて渚を見た。
そして冗談ではないと知った風香は慌てだす。
「どうしておっぱい出さないと駄目なんでしょうか」
「男子が勃起しないか見るためだ」
そんなことの為に!一瞬声が出かかるが、口を真一文字に閉めて言葉が出るのを防ぐ。
「無理か?」
試すような渚の問い。
風香は俯いたまま答えない。素振りは勢いだったが、今は話は別だ。いくらみんな気にしてないと理解することはできても実際行動するのは勇気がいる。増してや皆が注目しているのだ。人一倍勇気が必要なのは言うまでもないだろう。
いつの間にか空気が明るいモノから微妙なモノになり、部員の中に緊張が走る。
その空気に耐え兼ねたのか、隣の美沙が場を明るくするようにして言った。
「風香は初めての部活で疲れてるみたいです。また今度でいいんじゃないですか?」
「そうだな……」
渚が空気を読んだのか、柔らかな声で答えた。
・・・・・・・
・・・・
・・
「大丈夫?」
「うん……」
陽が西に傾いた頃。風香はクラスが一緒の、遠山雫と島坂美沙と帰路についていた。
さすがにいつも元気な風香も、渚とあのようなやりとりの後は沈んでいる。
明かな異常性があったのだが、風香には渚が悪いとそんなことを考える余裕はなかった。
「部長厳しかったな。わたしたちは小学校から見られてたから慣れてるけど、経験のない風香にあんな厳しいこと言うなんて」
風香と肩を並べて歩いていた美沙が、少し声を落として風香を気遣うように言った。
「ぶっちゃけわたしたちは、おちんちんも見慣れてるけど、風香は見慣れてないんでしょ?」
「うん」
風香は肩を落として、俯き加減になった。
「わたしたちは小学校低学年から裸で川で泳いでたから意識もしたことないんだよね。小さいころからみんな知ってるし家族みたいなもんだから」
「そう、なんだ」
元気の出ない風香に二人は顔を見合わせる。
「期待の表れ……」
「えっ?」
ポツリと呟いた雫に風香が反応した。
「渚部長、風香が入部する前に、私に嬉しそうに風香のことを教えてくれた……」
「あっ……」
風香はこっちにきて初めて渚に会ったことを思い出す。
ジャージを着てランニングしてた渚先輩はとても綺麗だった。
あの時は少ししか喋らなかったけど、嬉しそうに自分のことを話すくらい覚えてくれたなんて。
「ごめん、どうかしてた。こんなわたし、自分らしくないよね」
「そうだね」
まだ風香のことをあまり知らない美沙が、空気を読んで風香に合わせる。
「明日から頑張る」
風香は笑顔を見せて、ふたりに頷いた。
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- 2018/06/10(日) 23:52:56|
- 小説
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