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2──士官試験──

──尾張、立花家、

それは清洲に本城を構える大名のことである。
現当主、立花道華は女性であり、つい半年ほど前に尾張を一国を統一した、なかなかやり手の大名であるらしかった。
どうして、立花の名が九州じゃなく尾張にあるのか気になり、僕は色々立花の内情を聞いてみると、
槍之助は「よくわからんべ」の一言で片づけてしまった。
どうやらこの男、田舎暮らしが長い為か、頭の方はあまりよろしくないらしい。

そこで僕は仕方なしに、織田家はどうしたのかと聞いてみると、槍之助は「織田なら遠い北国の大名だべ」と教えてくれた。

この事実に僕は途方に暮れた。
なぜなら、この世界は僕の知る過去の戦国時代だと考えており、僕は過去にタイムスリップしてきたものとばかり思っていたからだ。
もし、槍之助の話すことが嘘偽りでないとしたら、僕の持つ戦国時代の情報がほとんどなんの役にも立たなくなってしまう。
要するに上手く立ち回ることが出来なくなってしまうのだ。

過去に飛ばされただけでも頭が痛いのに、この世界はパラレル戦国時代というオマケ付きである。
僕はつくづく自分の運のなさを呪った。

「まぁまぁ兄ちゃん、いや直樹だったべか、そんなに落ち込むことないべさ。頭が悪くてもきっと生きていけるべ」

「………」

加えて、槍之助のこの暖かい励ましの言葉である。特に変に思われるより、こういう態度の方がありがたいのだが、どうにも納得出来ないものがある。
どうやら、自分もまだまだ子供だということだろう。いや、実際子供ではあるのだが。

「槍之助さん、清洲の街はまだ遠いんですか? 結構歩いたような気がするんですが」
「そうだべな。あと半刻(1時間)といったところだべが、今日はこの辺りで休むべ」
「いや、あと1時間なら歩きましょうよ。野宿なんて嫌ですし」

確かに日は傾き、辺りを薄暗いカーテンで覆い始めているのだが、まだ歩けないほど暗いわけではない。
僕としては、こんなところで野宿なんかしたら怖くて一睡もできないかもしれない。なにせ、なんの野宿の準備もしてないし、なにより槍之助をそこまで信用した訳ではないからだ。

「何、いってるだよ。おらが宿に泊まれるような金を持ってると思っただべか?」
「あ、いや、確かにお金を持ってるようには見えないですけど、ここらへんで野宿なんて怖すぎませんか? もっと街の近くで野宿しましょうよ」

そう言うと、槍之助はつくづく可哀想な目で僕に視線をやった。

「直樹は本当にオツムが弱いんだべな。街の近くで野宿なんかしたら夜盗どもに襲ってくださいと言ってるようなものだべ、そんなとこで寝れるわけねえべさ」


ほんとムカツク。







次の日、結局一睡も出来なかった僕は、もたれていた木から腰をあげ、よろよろと立ち上がった。
そして槍之助と言えば、よく眠れていたようで大あくびをしながら、僕に挨拶をした。
まったく最悪の気分である。

「さぁ、いよいよ清洲の街だべ、直樹、今日も張り切っていくべよ」
「はいはい、分かってますよ。槍之助さん」

僕は、田んぼの側に流れていた綺麗な小川の水で、腹を満たしながら投げやりに返事した。

「なに機嫌が悪いべさ。これでも食べるべか?」
「いえ、結構です」

肩を並べて歩く僕に、槍之助は不思議な顔をしながら、食べていた得体のしれない肉を差し出したが、僕はきっぱり断った。
一睡も出来なかったせいと、昨日、馬鹿にされたような態度が気に入らなかったからだ。
それにこの男と関わると、どうも貧乏くじを引かされるような気がして躊躇ってしまう。

「そうだべか、これ美味いのに」

槍之助は、僕があっさり断ったというのに特に気にした風でもなく、手をひっこめ肉をガジガジ齧りながら再び前を向いた。
細かいことを気にしないというか空気を読めないというか、なんとも不思議な男である。
内心で苦笑しながら、僕は街に近づくにつれ、変わりゆく風景に目を奪われていた。

今まで歩いていた道は、大きな街道へと通じ、僕らはその大動脈に乗って歩みを進めている。
周りの景色は、田んぼだけに留まらず、街道沿いの団子屋や伐採所など変化に富み始めている。

すれ違う人も、鍬を持った百姓であったり腰に刀を差した侍だったりと、まったく飽きさせない。まさに戦国時代といった感じで思わず感動してしまった。

そして歩くこと20分。
ついに僕らは清洲の街に到着するのだった。

「ここが、清洲の街……」

キョロキョロと周りを見渡してみると、それほど自分が驚いていないことに気付く。
どうしてなのかと首を捻って考えると、

「そうか、テレビで見た時代劇と一緒なんだ」
と、納得した。

「何を一人でぶつぶつ言ってるんだべ」

槍之助が気味悪そうに僕を見ているのに気づいて、僕は慌ててごまかすように話を逸らした。

「そういや、槍之助さんは今から士官に行くの?」
「そうだべ、金もないしすぐに突撃だべ」

「そうなんだ。槍之助さん頑張ってくださいね」

気合いを入れるように力強く着物の乱れを直した槍之助に、僕は内心で「士官試験、落ちてしまえ!」と、よこしまなことを思ってしまう。どうやら僕は思っていた以上に心が狭いらしい。

「そういう、直樹はこれからどうすんべぇか。特に目的もないんだべぇ?」

「ああ、僕は……」

と、言葉に詰まってしまう。ここで自分が誰にも頼ることが出来ない一人ぼっちだということを改めて思い知ったからだ。
これから生活するにしても仕事をしなきゃならない。しかし、この時代、自分のような得体のしれない男を雇ってくれるようなところがあるのだろうか。

槍之助は、いつまでたっても言葉を濁す僕を見兼ねてか、
「どうだ。一緒に士官してみねぇべ?」
と提案してくれた。

思わず、有り難いと思ってしまった僕は、慌てて内心で首を振った。
士官などしてしまったら人殺しをしなきゃいけなくなる。
それはさすがに勘弁したい。

とはいえ、これを断ったら僕はどうなる。という不安が心の中で鎌首をあげる。
街を見渡す。
街の人たちは、どれもこれも自分と服装から違う。僕を見る目もどこか畏怖しているような感じで、まるで異国のようだ。
こんなところでやっていけるのだろうか。ここで生きていけるのか。
不安が恐怖にかわり全身に震えを呼び起こす。

だから、耐えきれずに僕は言ってしまった。

「うん。特に目的もなかったし、士官してみるよ」
と、震える声で。




──清洲城城門、

僕と槍之助は、今ここにいる。
頭が弱いと決めつけられている僕は、交渉事は駄目だと決めつけられ、槍之助が城門に立つ兵士と何やら話しているのを少し離れた場所から見ていた。

「直樹、どうやら向こうの訓練所で、兵士の採用試験をしてるみたいだべ」
「そうですか」

話し終わった槍之助が僕と合流すると、僕たちは揃って訓練所へ向かう。
これから僕は採用試験を受ける訳だが、はっきり言って受かる自信などない。
刀や槍など触ったことも持ったこともないから当然だ。
採用されれば儲けものみたいな感覚である。

「なぁに、しけた顔してるべぇ、直樹なら大丈夫に決まってるべぇ、2人で受かって一緒に出世するべ」

僕の背中をバンバン叩きながら、槍之助は大股に歩く。
もう採用されたのは決まったような顔である。
この憎らしげな顔を見て僕は改めて思った。
「落ちてしまえ」と。

そうこうしているうちに何やら小屋みたいな訓練所に着いた僕と槍之助は、木の柵で作った門を潜り、そこで年配の髭を生やした兵士に士官志望だということを伝えると、
ちょっとした広さの運動場みたいな場所に連れて行かれた。

そこで僕と槍之助は、それぞれ木刀を渡され、一人ずつ目の前の髭を生やした兵士相手に実力を試されることになった。

「じゃあ、まずはおらからいくべ!」
来る途中からやる気まんまんだった槍之助が、木刀片手に僕に告げると、勇んで兵士の前に躍り出る。

そして何を思ったのか、いきなり信じられないくらい大きく木刀を振りかぶったのだ。
「だめだあれじゃあ、」

瞬間、僕が思った通り、ガラ空きになった胸を髭面兵士に木刀で突かれて、大きくもんどりうって倒れる。
(ああ、やっぱり……)
とんでもない隙を作ったのだから当然とはいえ、教科書通りの一撃をくらって
「ぎゃあああああ!!」と大声で泣きわめきながらごろごろと転げまわるものだから、僕の顔も青ざめる。
これから僕も試験を受けなきゃいけないというのに、余計な恐怖心を与えてくれる槍之助にホント感謝したい気分だ。

しかも訓練の休憩中だった兵士が槍之助の泣き声に驚いて、こちらに野次馬としてどんどんやってくるのだから、踏んだり蹴ったりである。
「次は貴様の番だ、前へ」
槍之助を無残に一撃で沈めた髭面兵士が、槍之助に見向きもせず、僕に言い放つ。
このままでは邪魔な槍之助が、野次馬に運ばれて行くのを横目で見ながら、
僕は、内心で恐れおおのきながら前に出た。
周りの野次馬が、「頑張れよ兄ちゃん!」とか声援をくれているが、もはやそれどころではない。
もう頭の大部分に占めるのは、あの木刀で叩かれたくねぇということばかりである。

「構えろ」
髭面兵士が、前に立った僕に低い声で言うと、自らもまた木刀を構えた。
緊張で心臓がバクバクしながら、僕は言われた通り、髭面兵士を正面にして木刀を向ける。
たぶん今の僕は、足がガクガク腰もへっぴりごしで涙目になっていることだろう。
木刀を握りしめる手がぷるぷる震えていることがいい証拠だ。

「さぁ打ちこんでこい」
気合いの入った声で僕にそんなことのたまうが、そんなこと言われても困る。
今の僕の状態を見て、そんなの無理だということが分からないのか。この弱々しい姿を見て何も。
いや分かってて言ってるのかもしれない。この髭面兵士にはどうでもいいことだろうなのだろうから。
とはいえ、野次馬となった兵士たちの視線が僕に集中しているのを感じると、僕は背中を押されたように相手の木刀に自分の木刀をぶつけた。見栄が後押ししたと言い換えてもよい。

カツカツ、カツ、カツン、
木刀と木刀が独特の共鳴音を立てて互いを押し合う。
剣道の試合みたいなもので、
少しでも相手の剣先の軌道を逸らし、隙を作ろうとしているのだ。

髭面兵士の体は、僕が結構力を入れて木刀を横に逸らそうとしているのに、一向にぶれる様子がない。
正直、これで僕にはどうしようもないことを悟った。鍛え方が違う。経験が違う。実力が違う。全てにおいて負けている。

もうお手上げだ。
僕は、降参しようと口を開きかける。
笑われてもいい。馬鹿にされてもいい。だが、槍之助のように無様に地面に転がって泣き叫ぶよりかはマシだ。そう思ったのだ。

だが、、、

バキィン!!

髭面兵士は僕が口を開くより先に、僕の木刀を横に弾き木刀を打ちこんで来た。
うわぁばか!!
降参しようと思ったのにぃ!

鋭い突きが肩を狙っているのを咄嗟に感じ取ると、僕は弾かれた力そのままに地面に転がって、その一撃を避ける。
そして本能からか、体勢を低くしたまま木刀を思いっきり横なぎに払い、相手の足を狩りにいく。
「ぬぅ!」
寸でのところで足を後ろに引き、僕の攻撃をかわす髭面。
おお!!
と、周囲からどよめきが上がったが、もうそちらに傾ける意識の余裕はない。意識は既に目の前の男にしっかりと向けられていた。
どうやら、幸か不幸か、つまらないことは考えられなくなったらしい。



僕は、そのままゆっくりと立ち上がると、木刀片手に相手の周囲をグルリと円を描くように歩き回る。
先ほどとは一転、僕は、まるで獲物を追いつめた狩人になった気分だ。

いつのまにか周囲が固唾を飲んでこの戦いを見つめ、いやがおうにも場の緊張感はどんどん高まる。
そしてその緊張感がピークになった時、僕は動いた。
僕は、いきなりしゃがみこんで地面の砂を掴むと、相手の顔目掛けて投げつけたのだ。
「なっ!?」
髭面兵士には予想外の行動だったのか、慌てて左手で顔を覆うが、僕はその隙に相手の脇腹に横なぎで一撃入れる。

ドスッ!

「ぐうぅっ!!卑怯な!」
鈍い音と共に一撃が入ると、ガックリと膝を落とす髭面兵士。
下から僕を睨みつけているが、蹲ったまま立ち上がる様子はない。先ほどの一撃が効いているためだろう。
シーンと場が静まりかえり、誰も何も言わない。
かくいう僕も、肩ではぁはぁと荒い息をついて、相手を見据えるだけだ。

そうして息を吐くこと大きく2回。

「それまでっ!」
と、突如、静寂を破るようにして、凛とした女の声が場に響き、勝負は終わりを告げる。

野次馬をかき分け出てきたのは、一人の美しい女武者。
艶やかな黒髪を綺麗に後ろで纏めたポニーテール。眉は涼やかで、目鼻立ちはクールさを漂わせる。100人いれば少なくとも90人は美人だというだろう。
周囲の野次馬たち兵士は、その姿を確認すると、一斉にその場で平伏する。

なんだなんだと戸惑うが、僕はどうしていいか分からず立ちすくむ。

彼女は、そんな僕の姿を気にした風もなく、そのまま場の中心に立つと、鈴のなるような声で口を開いた。
「正則よ。油断したな」
「はっ……」
口惜しげに絞り出すように答えた髭面兵士。
平伏したまま面をあげようとしないことから、どうやら相当のお偉いさんらしい。

僕も今さらながらに平伏しようかと迷ったが、それに気付いた女武者が手でそれを制止し、僕に向き直った。

「見事であった。奇策を用いてまさか正則を倒すとはな。驚いたぞ」

称賛する言葉。
砂を使って目つぶしを狙ったことには怒ってないらしい。
「ありがとうございます」
そこで初めて僕は声をあげ、頭を下げた。
もう体の熱は引いている。
あの神経を煮えたぎらせた戦いは終わったのだ。

「うむ。そなたの名を聞いて良いか」
「はい。僕の名は南扇直樹と言います」

「ふむ。そうか、南扇直樹と言うのか。では直樹、お主をこれより足軽小頭に任じる。より修練に励むがよい」

「ははっ!」

今度は平伏。
入ったばかりの僕をただの足軽ではなく、足軽小頭に任せてくれるなんて、なんていい人なんだ。いくら試験官の髭面を倒したとはいえ、手柄も立ててないのに感謝感激である。
僕は、心がジーンとすると同時に、これで食いっぱぐれはなくなったとの安堵感でいっぱいになった。

そして、それを満足そうに見て頷いた女武者は「ではな」と、踵をかえして広場から去って行った。


そしてその直後、槍之助が鼻水を垂らしながら「おら!一生直樹についていくだぁ!!」と飛びついて来たので、今までの清々しい気持ちが全てぶち壊しになったのは言うまでもない。








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  1. 2012/10/02(火) 20:10:30|
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