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6──御首級──

新たな立花勢、現れる。

やってきたのは正則率いる、騎馬隊数百だった。
彼らは、そのスピードを緩めることなく、乱戦の中に突入し、凄まじい突破力で敵を蹂躙する。

「引け!引け!引けっ!!」

たまらず、敵の武将が叫び、僕らの近くの敵兵が逆に動揺する。

──いまだっ!

僕は素早く目の前の敵兵から後退し、彩月の救援に向かう。
彩月は僕の少し後ろで、敵の刀を槍の柄で受け止め、必死に押し返そうとしている。早く行かないと、今にも押し負けそうだ。
僕は、大声をあげながら近づくと、驚きこちらに顔を向けた敵兵を右足で蹴り飛ばし、彩月を救出する。

「大丈夫かっ!」
「ありがとう、直樹っ!」

少しうるんだ瞳を向けられ、思わず照れくさくなって目を逸らす。だけどそんなラブコメみたいなことをしてる場合じゃないと思い返して、僕は彩月を連れて味方陣地まで引き返そうとする。
そこで彩月がハッと気づいたように僕の袖を掴んだ。
「直樹、あれっ!!」
見れば、敵兵の後退を、大きく手を振って促している一人の中年武士、そいつは明らかに他の足軽どもと毛色が違う。
これは、ひょっとするともしかしするとだ。

「よし、行くぞっ、あいつを討ち取って最後だっ!」

まわりの敵兵が続々と後退する中、仲間を逃がそうと必死で手を左から右へと振る武士。
僕と彩月は、奴の視界に入らぬよう一気に疾走する。

「ぬっ!?」

さすがに近くまで来ればこちらに気づいたのか、武士はこちらを振り向いて憤怒の表情を見せる。

「さぞ名のある将とお見受け致した。その御首級頂戴いたす!」
「小賢しい、この、中村政重、そならたのような小童に討ち取られるほど、もうろくしておらぬわっ!」

刀を抜き、僕らに斬りかかってきた政重。
だが、僕らも引くわけにはいかない。必死なのはこちらも一緒だ。

ガキン!!

鈍い金属音を立てて、政重の刀を、僕が槍で左に弾く。身体が僅かに崩れたところを狙って、彩月が猛然と槍で突く!
しかし敵もさる者。
すぐさま、体勢を立て直して、彩月の槍の軌道を力任せに刀で横にずらす。

さすがにやる!!

僕は、油断なく相手を見据えながら、そんな感想を漏らす。
さすが武士、そこらの雑兵とは違う。手に汗握る展開に、正則と戦った時のような高揚感が、身体の奥から湧き上がってくる。

カシャカシャと鎧音を立て、敵足軽たちが逃げるように撤退していくが、僕たちの周りだけが時が止まったようだ。

曇り空が雨空になり、ポツポツと水滴を空から降らせ始めた。
それはやがて大きな雨粒となり、叩きつけるような豪雨となる。

ゴクリと喉が鳴る。僕と彩月がそれぞれ左右に別れるように横にジリジリと移動し、政重を左右から挟み込む。

「………………」

どちらが先に仕掛けるか。
僕か彩月か、それとも政重か……。

あたりが急速に暗くなり、空に亀裂を走らせ、雷鳴を轟かせる。
だが、動かない。迂闊に攻撃を仕掛ければ、こちらが殺される、そんな予感を感じさせたのだ。
「中村様っ!!」

均衡が崩れた。
近くにいた敵足軽のひとりが、この戦いに気づいて、慌ててこちらに駆けてきたのだ。

──その瞬間、僕は動く!
身をかがめ、膝にぐっと力を入れると、政重に向かって低く飛び出し、槍を両手で突きだした。

キンッ!!

政重は半歩片足を下げ、僕の槍を軽く刀で弾いて、その一撃をかわす。

「終わりだ、小僧っ!!」

返す刀で、勢いよく刀を振りかぶった政重。バランスを崩し、槍が手につかない状況で、それをかわすことは不可能。
だけど、そうはさせじと彩月が反対側から槍を突き出して気を逸らす。政重は振り向いて、またしても彩月の槍を、上から跳ね叩きつけるようにして地面に押し弾く。

「おおおおおおおおおお!!」

なんという敵。
正則とまではいかなくとも、政重から感じるプレッシャーは、相当なもの。
もし、正則から厳しい訓練を受けていなければ、戦う前から身体が縮こまって、あっさり殺されていたに違いない。

いったん仕切り直すように離れた僕は、まともに戦っては勝ち目が薄いということを思い知る。

ならば!!

僕は、豪雨でぬかるんだ地面に槍をザシュと突き刺す。そして、彩月に顔を向けていた政重の名を叫んだ。

「まさしげぇーー!!」
「むっ!?」

振り向いた敵。その顔に向かって槍と一緒に泥を撥ね上げる。
さすがにこの攻撃は、簡単には捌けない。政重は、顔を背けるように傾けたあと、背後に後ずさるようにして下がる。
槍は相手の頬をかすって上に舞う。

「はあああああああああ!!」

一歩前に出る。一秒にも満たない瞬きの間に、僕は歯を食いしばって槍を振り下ろす。
ガキン!!
じーんと痺れる腕、またしても通用しなかった攻撃。
だけど今度の攻撃は今までと違った結果をもたらしている。そう、政重はこの振り下ろしを、捌くのではなく、刀でしっかり受け止めたのだ。

「彩月っ!!いまだっ!!!」

僕の絶叫に似た叫びに反応して、彩月が渾身の槍の一撃を政重に向けて鋭く突き出した。
動けない敵将。驚愕にも似た顔を彩月の方に向けて、ついにはその一撃が、政重の身体を……その無防備な身体を捉えた。

……ドスッ。

政重の身体が一瞬、微かに揺れ、口元から一筋の赤い川を流した。

「まさか、こんな若造どもにしてやられるとはな……」

雨に打たれながら、僕をギロリと睨みつけた政重。だが、その顔からは徐々に生気が失われている。

「……………」
「……名を聞かせてくれぬか、小僧」


「南扇直樹……、足軽小頭だ」

「……そうか直樹というのか、誇れよ直樹。山名家に二〇余年も仕えた、この政重を討ち取ったことをな……」

皮肉気に笑った政重。
そしてすぐに、そのまま膝を曲げて、崩れるように地面に倒れた。

僕は無言で、それを見つめた。
勝利の余韻なんてない。あるのは胸に去来した言いようのない空しさだけだ。
なぜだろうか。相手が自分の父親と同じくらいの年齢だったからだろうか。

分からない。
……いや、本当は分かってる。

それはきっと、この武士の生き様に、憧れを抱いてしまったからだ。
ゲームの世界でしか知らなかった武士たちの世界、でもこの世界に迷い込んで知ってしまった。武士たちの生き様を。

彼らは生きている。必死で生きている。
己の野望のため、はたまたは主君への忠節、家のため。

彼は、どうだったのであろうか。家の為に生きたのだろうか、それとも……。

僕は腰を下ろすと、倒れた政重のまぶたをそっと閉じてやる。

この男は戦国の世に生き、戦場で死んだ。
僕に分かるのは、ただそれだけだ。

「直樹……」

僕の表情を見た彩月が手柄をあげたというのに、切ない顔で僕を見た。

「……彩月、御首級をあげるんだ。早くしないと、敵がどんどんやってくるぞ」

中村政重の死体を取り返さんと、ひとりの足軽がやってきたのを見て、僕は立ち上がり、槍を構えた。
彩月は頷くと、覚悟を決め、政重の持っていた刀で一気に政重の首を撥ねた。


「敵将、中村政重、討ち取ったりっ!!」

戦場に、まだ幼い顔をした少女の叫びが響き渡った。






山名家との合戦は終わった。
右翼での戦いは、互いに痛み分けという形になったのだが、どうやら主力部隊が敵を散々に打ち破り、山名重蔵は、ほうほうのていで三河に逃げ帰ったらしい。
また、正則が右翼の援軍に来たのはたまたまではないようで、道華は右翼での戦いが不利になったと知るや否や、正則に命じて右翼を支援するように命じたとのことだった。
後に判明したのだが、この戦いでは両軍合わせて死傷者が1200人にものぼったらしい。

あれから陣を敷き払い、守山城に入城した僕らは、今、合戦後の論功行賞に臨もうとしている。
次々と名を呼ばれ、論功行賞の場に向かう足軽たち。どの顔も、一喜一憂している。

「直樹、おら全然、手柄をあげてねぇだ。途中で怪我しちまったし……」

不安そうな顔で槍之助は僕に言う。

「大丈夫だ、僕が適当に足軽の首も持ってきたから、それを手柄にすればいい」

安心させるように、僕は槍之助の肩に手を置く。
今度ばかりはこいつも頑張った。それは認めなければならない。きっとそれなりの報酬が出るだろう。

そうこうしているうちに、ついに僕らは呼び出しを受け、城の庭先で三人そろって平伏した。

「面をあげぃ」

恐る恐る顔をあげる僕たち三人。そこには数人の男女が、縁側で僕らを見下ろしていた。
一番左にいるのは、かつて正則と立ち会ったときに現れた美しいポニーテールの女武者、そして右に控えるは、憮然とした顔で目を瞑り、腕を組んだ髭面正則。
そして真ん中にいるのは黒い髪を背中まで伸ばした40代の熟女。たぶんこの人が、我が立花家当主、立花道華であろう。まるで戦場が似合わない優しげな顔立ちをしているが、身体から発せられる威圧は、まさに王者の風格。上に立つ者の威厳を十分備えている。
最後に庭先で立つ年老いた武士だ。恐らくこの老人も死化粧を施した首の検分に立ち会うのだろう。紙切れを持って木の台に置かれた首と紙切れを見比べている。

「これより首実検を始める。
そなたの持ってきたのは、山名家重臣、中村政重で相違ないな?」

最初に口を開いたのは正則。憮然としたまま瞼を開いて、彩月に視線を向ける。

「はい。相違ありません」

答えたのは彩月。少し声が震えている。

「どうだ、爺。中村政重のものか?」

今度は女武者が、庭先に立つ袴を着た老人に尋ねる。

「はい、間違いございませぬ。この首は政重のものかと」

机に置かれた首をもう一度確かめ、大きく頷いて、老人は座の中心で首実検を見守る道華に視線を送る。
道華は、それを微笑んで受け取ると、僕らに顔を向ける。

「此度の戦働き誠に大義。彩月と申しましたね。あなたには足軽小頭への昇進と100貫文(1000万円)与えましょう。これからも立花家のため、貴方の働きを期待しておりますよ」

「はっ!ありがたき幸せ」

僕の斜め後ろで、彩月が頭を下げた気配を感じた。
おめでとう。

「あとは、其の方らの手柄だが、、、」

と、老人が地面に一纏めに置かれた雑兵の首を五つ見る。
いよいよ次は僕らの番だ。

「これは雑兵じゃな」
「はい」

今度は僕が答える。
緊張でドキドキする。

「初陣にしては上々、だがこれだけでは大した手柄にならん。よってそなたらに与えられるのは……」

そこまで言って、今度はその言葉を続けるように道華が言った。

「二人合わせて1貫文与えましょう。以後の働きに期待します」
「……はっ! 有難き幸せ」

内心、失望を隠せず、頭を下げる僕と槍の助。
本当はもっと討ち取ったのにと、歯を食いしばるが、
これでも過ぎたる報酬だったのだろうか、老人が「よろしいのですか?」と言った風に道華を見つめている。
僕らは、その後、もう一度平伏して、そのまま庭先から出た。

確かに大した報酬はなかったけど、生きて帰れたし、それでよかったじゃないかと内心で自分を納得させながら。



そして暫く歩くこと数分、城から少し出たところで、今まで神妙な面持ちをしていた彩月が喜びを爆発させた。

「やったよ直樹!! あたし足軽小頭になったんだ!」

僕に抱きついて、顔を見上げる彩月。
距離が近すぎて唇が触れてしまいそうだ。
内心ドキドキしながら、うんうんと頷くと、槍之助が案の定、不満をたらたら述べる。

「調子に乗るんじゃないべ! その首を取れたのも直樹のおかげだべ!!」
「わかってるよ。だからこうして直樹にお礼を言ってるんだし」

彩月は槍之助にアッカンベーしながら、僕の首に手をまわす。

「ねぇ、直樹。何かあたしに出来ることない? 直樹のお願いなら何でもきいちゃうよ。戦場で何度もあたしを助けてくれたし」

そう言って彩月は、頬を赤く染める。はっきりいって反則だ。普段の勝気な姿と見ているだけに、ギャップがありすぎて可愛すぎる。

だが、そんな僕らを見て、さらに槍之助は顔を怒りで赤くする。

「いいかげんにするべ! ここをどこだと思ってるべっ!!」

確かに、人の往来が多く、道行く人が僕らをチラチラ見てる。
結構注目の的だ。

だけど彩月は気にした様子もなく、僕の胸に顔を埋めた。

「かっこよかったよ直樹。ちょっとキュンってしちゃったもん」

一瞬聞き間違いか?と思うほどの小さな声。みるみるうちに、僕の顔が真っ赤になる。
戦国時代の女の子はこんなに積極的なの?

「と、とりあえずさ、どっかで飯でも食べよう。初陣祝いにさ」

僕は、動揺しながら、険悪になりつつある槍之助と、頬を染め、潤んだ瞳で僕を見つめる彩月を連れて、小料理屋に向かった。
うーん我ながらへたれだ。


そして食事を済ませ清州に帰った夜。
僕は、酒を飲んで眠ってしまった槍之助を背負って家路につく。だけど今日は、なぜか彩月も一緒だ。

「ねぇ帰らなくていいの? 女の子なんだから夜は危ないよ」
「いいの。今日は、直樹の家に泊まるから」

じゃりじゃりと音をたて歩く彩月は、終始ご機嫌。
聴こえようによっては大胆な発言だが、背中にいる槍之助の存在もあって、それはないかと苦笑いする。

「あたしさ。足軽小頭になったんだけど、これからも直樹の隊に置いてくれないかな? いいでしょ?」

自分でも部下が持てるようになったのに、僕らと一緒にいたいということだろうか。
彩月の顔を見れば一目瞭然だが、念のために僕は彼女に聞いた。

「いいの? 彩月も自分の部下をもてるようになったんだよ。僕と一緒だと部下がもてないよ?」
「いいの。あたしが一緒にいたいって言ってるんだから」
「……そっか」

現代文明に染まってない美しい星空をふたりで見上げながら、僕は微笑んだ。
今夜は月が綺麗だ。

「ねぇ直樹、嬉しい? あたしが残るって言って」
「んっ、」

そこで僕は足を止めて、彩月を見た。
笑ってる。
彩月はいたずらっぽく笑っていた。

ふっ……。

僕は口元を緩めて再び歩き出した。

後ろから追いかけてくる彩月が「どうなのよー!」と言ったが、僕は答えなかった。なんだか答えたら負けのような気がしたからだ。


やっぱり僕ってへたれだ。






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  1. 2012/10/14(日) 20:06:01|
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ntr属性なのに超純愛ゲーをやって自己嫌悪になった男。リハビリのために小説を書いてます。
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