2ntブログ

モブの植木鉢小説館

NTR小説置き場

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

7──犬山城──

「あやつは前回の奇襲の成功で、気が大きくなっておったみたいでな。それで、今回あのように相手を一気に一飲みにせんと突撃したのだろう。
まったく、馬鹿な真似を……」

「はぁ、なるほど、そうなんですか」

数日後、いつもの訓練所で、僕は髭面正則と会話を交わしていた。
内容は言わずと知れた前田利歌のことである。色々話を聞いてみると、利歌は先日の奇襲を成功させてかなり調子に乗っていたらしく、
右翼突撃の件も先走りとのことであった。命令違反は、勝利によって覆されるって感じだったらしい。

「それにしてもおまえがあの戦場にいたとはな……。いったい、どういう風の吹き回しだ?」
「いや、どうもこうも、僕も立花家に仕えてる身ですよ。敵が攻めて来たら戦わないと……」
「ほぅ、それは殊勝な心がけよ。正直見直したぞ」

ホントは出たくなかったんだけどね、と内心で頭の後ろをポリポリ掻いた僕に、正則は豪快にガハハハ!と笑いながら肩を叩いた。

「ああ、それから彩月のことなんですが、僕の隊にいたいって本人も希望してますので、このままいてもいいですか?」
「ふむ、本人が望むならそれは別によいが……、あの娘は、中村政重を討ち取った武功第一なのだぞ。理由は聞いておらんのか?」
「ああ、えっと……それは」

一緒にいたいって理由だけで、正則は納得するだろうか。

「まさか貴様、あの娘と恋仲ではあるまいな……?」
「い、いえ、そういうわけでは……」

ズイッと僕に顔を近づけた正則は、実はいい歳なのに結婚しておらず、この手の話題は禁句になっている。
早く結婚したらいいのにと思うのだが、本人は恋愛結婚を望んでるらしく、どうもうまくいかないらしい。
正則の実家は、正則自身が養子だった為、好きにやらせてやればいいというスタンスみたいなんだけど、
どこが悪いのかな。顔はともかく、地位とお金は僕よりいっぱい持ってると思うんだけど。

冷や汗たらたら、話題を変えようと口を開く。

「あの、それでですね。僕の隊が、犬山城に配属されるって話、本決まりなんですか?」
「そうだな。もう少しワシの元で訓練してからの話だがな」
「……そうなんですか」

突然、話題を変えたことに正則は不審そうな顔をしたが、仕事の話だということで、僕の問いに快く答えてくれた。

だけど僕はこの答えに顔を曇らせる。

犬山城とは、尾張の北に存在する美濃に近い最前線の城である。
僕もこの数か月でそれなりの情報を仕入れており、美濃を支配する鬼神の生まれ変わり、島津星姫の噂は聞き及んでいる。
なんでも薙刀ひとつで、足軽の3人の首を同時に撥ねたとか、10メートル先の敵の鼓膜を大声でぶち破ったとか、とても人間離れした噂ばかりだけど、どれもこれもそれが真実だと信じられてるのが怖い。
そういう噂を取り除いたとしても、美濃をよく治め、列強の一角として名を連ねてるのだから、名将であることには違いないだろう。

まさに君主は切れ者、一騎当千、
もっとも戦いたくない相手というやつである。


僕の曇った顔に気づいたのだろうか、正則がしたり顔で僕の肩をポンと叩いた。

「一皮むけてこい。
まだ貴様は、剥けてないだろうしな」

何の話だよ。




僕が正則との話を終え、槍之助たちの元に戻ってくると、槍之助一人がつまらなさそうにポツンと訓練所の片隅の大きな石に座っていた。

「彩月はどうした?」
「また、あれだべ。ほら」

顎で指し示した先、その向こうでは彩月が他の足軽たちに囲まれていた。

そう、彩月は人気者になっていた。山名家の重臣、中村政重を討ち取ったのだから当然だ。
出世コースにのった彩月は、もはやエリート。そんな彼女にお近づきになりたいと思う輩は、後を絶たない。今日もまた、練習の合間や終わった後に、ああやって囲まれているというわけだ。男足軽の間では彼女を嫁にしようと、積極的にアプローチしているものも少なからずいるらしい。
彩月は可愛いのは確かだから、それも分かるんだけど、先ごろ手に入れた財産目的はやめてほしいものだよな。と内心で思いながら、その集団を見つめていると、
僕の視線に気づいたのか、彩月が僕に大きく手を振って、その人の塊からうんざりしたように、手で掻き分けて出てきた。

「直樹、正則さまとの話は終わったの?」
「うん、彩月の件と僕らの隊の話を聞いてきたよ」

そうなんだと、彩月は機嫌良さそうに僕の腕に絡みつく。それを見た男足軽が、嫉妬の視線を僕に浴びせてくるのが困りものだ。

「それでどうなったんだべ?」

今までつまらなさそうにしていた、槍之助もやってくる。

「うん、彩月は僕の隊にいてもいいって言ってたよ。それから犬山城に配属されるのは確かみたい。暫くはここで訓練してからの話らしいんだけどね」
「ふーん、そうなんだ。あたしは、直樹と一緒ならどこでもいいんだけどね」

そう言って彩月は僕の腕をぎゅっと、自分の胸の谷間に挟み込む。

「となると、オラたちは島津と戦うことになるんべか?」
「いや、それはないんじゃない。別に犬山城に配属されたからって島津と戦う理由にはならないし」

「そうだべか、今度こそ手柄をあげようと思ったのに残念だべ」

槍之助が言い彩月が答える。
なんだかんだと言いながら、合戦後のふたりは仲がいい。雨降って地固まるという奴かもしれない。いいことだ。

「あんたが手柄あげれるわけないでしょ。あんたはまず槍の扱いを習うことが先よ。前みたいにあたしたちの足を引っ張ったら許さないからね!」
「なんだべ! やる気だべか!!」

前言撤回。
やっぱり仲悪いです。この二人。

激昂して槍を持ち出した槍之助に、僕はまあまあと言ってなだめに入る。もういつもこんな役回りだよ、隊長の威厳の欠片もありゃしない。
これからも続くんだろうな、こんな役目。

こうして僕はふたりをなんとか落ち着かせたあと、いつものように訓練に向かった。



今日の訓練は騎乗訓練だ。

これは正則が足軽小頭以上に義務付けている訓練で、見込みのあるものを最低限騎乗できるようにしようとのことらしい。
いつもの運動場に馬が何頭も連れてこられ、僕と彩月はそれぞれ、その馬に乗せられる。
ぼっちの槍之助が遠くから僕らを恨めしそうに見ていたが、正則が槍之助の頭をゴツンと殴って引きずっていく。恐らく藁葺人形相手に槍の練習をさせられるのだろう。
もっとも僕も馬に乗せられるより、そっちのほうがいい。だって僕は馬が苦手なんだもん。怖いし。

顔を強張らせ手綱を握って、走れ走れと口に出して言うが、内心では動かないでくれと懇願する僕。
彩月は騎乗経験があるのか慣れたもので、運動場をタッタカタッタカと馬を走らせている。そこから武器を持って戦うんだから騎馬兵は大したものだよ。ホント。

僕の馬がじっとしているのに気付いたのか、正則が大股で歩いてくる。
その表情を見ただけで、僕は思わず馬の腹を蹴り飛ばす。

ヒヒーン!

走り出した馬。しかし何を思ったのか、正則に向かって一直線だ!
勇気あるなこの馬、殺されるぞ。

……っていや、そんなことを思ってる場合じゃない!
落ちるうぅ!!

風を切って疾走する馬は、必死にしがみつくそんな僕の気持ちなどお構いなしだ。
ただ、直進し、進路上で仁王立ちになった正則を踏みつぶさんと、ついには前足を振り上げる。

「あ、危ない!!」

誰かの声が聴こえた気がしたが、目を瞑ってしまった僕には分からない。
振り落とされないようにするのが精一杯だ。

「喝っ!!」

正則の怒声が響き渡り、
思わずビクンとなる僕の馬。
すかさず正則が僕の馬の手綱を握って、馬の動きを完全に制御する。

「ドウドウドウ……」

転げ落ちるようにようやく僕は馬から降りれる。だが、それを見つめる正則の目は怒りで満ちている。

「直樹よ、ワシになにか恨みでもあるのかな? そのあたりのことをよく、話し合う必要があると思うのだが」

僕の肩に手をまわした正則。

……だから僕は馬に乗りたくなかったんだよ。



それから怒鳴りつけられるようにして説教を受けた僕は、彩月になぐさめながら、その日の訓練を終える。
すでに日は傾き、有難い説教のせいもあって、いつもより終わる時間が掛かった。

「今日は飯食って帰るべ」
「そうだな、そうしよう」

どうにも家に帰って飯を作る気分になれず、一緒に帰る槍之助に素直に同意する。
清州の街を歩きながら、僕らは何を食べようかと相談したのち、一軒の料理屋にはいった。
そこでうどんを食べていると、隣のテーブルで食べていた客たちが奇妙な噂話をしているのが耳に入る。
なんでも、討ち取られたはずの前田利歌が生きているという噂だ。さらに話を盗み聞きすると、利歌が目撃されたのは三河の岡崎だという話。

僕はその噂に眉をひそめる。
確かに利歌の御首級を確認したわけじゃないけど、あの乱戦の中で捕らえるだけの余裕があったのか?
第一僕は、確かに討ち取りの名乗りを聞いたじゃないか、生きてるはずがない
と、ズルズルうどんを口に運びながら考えていると、槍之助が、フン!と鼻で笑った。

「どうでもいいべ、あいつのせいでオラたちがひどい目にあったんだ。生きてようが死んでようが関係ないべ」
「お、おい」

僕は槍之助の軽はずみな言葉に焦る。
今の会話が、然るべき人の耳に入ったら切腹もんだぞ。
だが、幸いなことに隣の客たちは自分たちの噂話に夢中で、槍之助の言ったことを気にも留めていないようだ。
僕は、これ以上槍之助が余計なことを言わないか心配になり、慌てて勘定を払って店を出た。
槍之助には口は災いの元だということわざを教えなきゃいけないな。



それから数週間経った。
季節は、すっかり秋になり、山の紅葉が見頃を迎えている。たまには平凡な一日を過ごして山にピクニックなどしたい気分だが、この時代の山には野盗がいるかもしれないので残念だ。

僕らの訓練は大詰めを迎え、槍はもとより騎乗についてもそれなりの形にはなった。
もういっぱしの武将気取りである。恰好と振る舞いさえなんとかなれば、武将に間違えられてもおかしくない。

「いよいよ、犬山城か……」

ようやく訓練にも余裕をもってついていけるようになった僕が、山の紅葉を遠目に見ながら呟く。
数日前、髭面正則から犬山城行の命がくだった。農家にある数少ない私物を纏め、準備を進める僕の気持ちは既に犬山城へと飛んでいる。
いったいこれからどんなことが待ち受けているのだろう。

「直樹、いつ出発するの?」
「うん、ふたりが良ければ明後日あたりにしようと思うけど」

隣に立った彩月が背伸びをして、僕を見上げる。
ここ数週間、いや数か月で彩月もずいぶん女っぽくなった。ボーイッシュな髪型や幼い顔をしてるのは変わらないが、平地だった体のラインが素晴らしい曲線を描いて山を作り、
小さく未熟だったお尻が、桃のような美尻へと成長している。ようするにすっかり美少女になってしまったってことだ。
たまに僕だって身体を押し付けられるとグラグラ来てしまうのだ。その魅力は相当なものである。

もちろん、彩月はそれ以外にもちゃんと成長している。
僕にはまだぎこちない馬上での攻撃だけど、彩月はちゃんと馬上での攻撃ができるようになった。
馬上攻撃対決ならきっと僕が負けるだろう。

「早ければ早い方がいいべ、いつ手柄をあげれるかわかんねぇべしな」

そしてもう一人、僕の前に現れたのはご存じ槍之助。
彼もまた、この数週間の厳しい訓練で、顔だけは精悍になった。いや、槍の訓練しかしてないのだから多少は槍も上達したんだけど、やっぱりお世辞にも槍の扱いは上手くない。
しかし、あの山名勢との合戦が彼の意識を大きく変えたらしく、練習にもまじめに取り組むようになった。まったく人間とは変わるものである。

僕らは相談の上、明後日、犬山城に赴くことが決まった。

どうか犬山城ではいいことがありますようにと願って。



──犬山城。

あの古ぼけた農家に別れを告げ、僕らは一日かけて清州からこの犬山城にやってきた。
この城は清州城から数十キロ離れており、木曽川の近くの小高い山の頂上に建てられた山城だ。
周辺には犬山城の城下町が広がっており、なかなか賑やかなようである。

僕らが着いたのは荷物を持っての移動だった為、かなり夜遅くなっており、その日は城下町の旅籠で一泊し、次の日に城に挨拶に向かった。


「よくぞ参った、直樹とやら」

例のごとく城近くの訓練所に通され、僕らに会ってくれたのは、この城の与力武将、毛受荘介、僕らより少し上の20代前半の武将であった。
色々話してみると、これまたクソ真面目な兄ちゃんで、正則と違った意味でとっつきにくそうだ。
ちなみにこの城の城主を務めるのは、由布惟信(ゆふこれのぶ)という立花家きっての猛将であり、いかにこの犬山城が重要視されているかが窺い知ることができる。
僕らは毛受荘介に挨拶を済ませると、今晩から我が家となる無人の農家に向かう。実は彩月が僕らと一緒にいることを望んだ為、今日からは3人で一つ屋根の下、暮らすことになる。

頼むから飯食ってる時は喧嘩しないでくれよ。どったんばったんやったら飯に埃が入るからな。



こうして僕ら3人の犬山での生活が始まった。

基本、食事を作るのは僕で家の掃除は槍之助、そして洗濯は彩月ということになった。
当然のことながら女の子なので、自分の服を男に洗ってほしくなかったのだろう。彩月からの提案だ。
まぁ僕も飯を作るのは結構得意だし、槍之助も毎日掃除をしなくていいと聞いて、特に反対意見もなくすんまり決まった。
そして今は、こうして訓練をこなしながらそれぞれの仕事に励んでいる。




そうして月日も流れ、日々の生活にも余裕ができ、家庭菜園でも始めてみるかと思った頃、清州から犬山に摩訶不思議な怪情報が流れた。


──山名重蔵(齢72)岡崎城にて腹上死。

実は忍びの知らせで判明したことなのだが、前田利歌は討ち取られておらず捕らわれており、
重蔵はそんな利歌相手にハッスルしたのち息を引き取ったらしい。
本人には可哀想だが、この件で利歌は「尾張のマムシ」と呼ばれているらしい。

「でかした!利歌、大手柄ぞ!」

その報を聞いた道華は膝に手を打って喜んだのは言うまでもない。
後継者を定めず、急死したせいで三河では後継を巡って争いを始めてる。
この機を逃す道華ではない。
すぐさま清州から命が発せられた。

三河、山名を討つ、と。



料理屋で聞いた噂はガセじゃなかったのね。







                                           <<  >>
  1. 2012/10/19(金) 15:27:33|
  2. 小説
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:0
<<6──御首級── | ホーム | 超能力少年なつお☆サイキッカー登場人物>>

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

トラックバック URL
http://garagara20.blog.2nt.com/tb.php/53-7a682b6d
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

プロフィール

モブGR

Author:モブGR
ntr属性なのに超純愛ゲーをやって自己嫌悪になった男。リハビリのために小説を書いてます。
ほぼ賢者モードで書いてるので期待しないでください。

カテゴリ

はじめに (1)
小説 (249)
雑記 (1)

リンク

このブログをリンクに追加する

最新記事

カウンター