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8──籠城──

──永禄4年10月11日。

ついに立花道華は、5000の兵をもって清州を発った。
目指すは三河、岡崎城。山名家の本城である。
僕もまた出陣かと危惧したのだったが、幸いにして僕には命が下らなかった。
恐らく、美濃に近い犬山城にいるからだろう。運がいいことだ。
もっとも、手薄になった尾張に島津が攻めてこないとも限らないのだが……。


僕は日課の槍での訓練を終え、農家の囲炉裏で雑煮を作っていた。
槍之助が雑煮ばっかりで飽きたとか生意気なことを言ってるが無視している。僕だってたまには美味しい鹿やら鶏の肉とか食べたいんだけど高いんだもん。

食事が終わり、ゴロンと横になった槍之助を呆れた目で見ながら、僕は彩月と近頃の情勢について話し合う。
勿論内容は三河に出陣した立花軍や美濃の島津の動きについてである。

「ねぇ直樹、島津が不穏な動きをしてるってほんと?」
「うん、そうみたいだね。街で噂になってるし。」

囲炉裏に手をかざしながら、僕は彩月に答えた。
すでに外は暗く、囲炉裏の火だけが唯一明るく周囲を照らしている。

「ということはやっぱり、島津はこっちに攻めてくるのかな?」
「う~ん。断言はできないけどその可能性は高いかもね。うちと島津は仲が悪いらしいから」

立花家と島津家は過去に何度もぶつかりあった因縁の相手であり、その戦いの歴史は山名家との戦いより激しく長い。
島津家当主、島津星姫と道華は過去に何度も刃を交え、その戦いの回数はすでに10にも及んでるとのことだ。
もっとも、島津星姫はまだ10代の姫大名らしく、一日の長という点で道華が勝っているらしい。

「じゃあ、また戦になるよね。今度も武将を討ち取って手柄をあげようよ。ねっ直樹っ」

彩月が土間から槍を持って来て、ニコニコ笑う。
気持ちは分かるけど、まだ合戦が始まってないのだから槍を持ってこないでほしい。怖いから。

僕は囲炉裏の中に火箸を突っ込みながら、島津が攻めてくることを考えて心を曇らせていた。
立花の主力がいない今、島津が押し寄せて来たら困ったことになる。いくら立花家の精鋭が犬山城にいるといっても島津が本腰で攻めて来たらかなり苦しい。猛将、由布惟信が城主を務めてるといっても数の上でも不利だし、島津星姫の『10メートル先の敵の鼓膜を大声で破った』とか恐ろしい噂を聞いているからだ。
城主がどういう判断をするか知らないが、個人的には籠城するということになるだろうと見ている。

「直樹?」
「ああ、ごめん。ちょっと考えごと」

囲炉裏の灰から視線をあげ、彩月に向かって微笑む。
この頃、困ったときはいつもこれで誤魔化している。

「直樹は、ひょっとして戦いたくないとか?」
「いや、そういうわけじゃないけど……」

そこまで言って口を噤む。
籠城戦になって苦戦するかも、などと縁起の悪いことを言うつもりはない。

「ねぇ直樹、なんか無理してない? 何か悩んでることがあるならあたしに言って。あたしがなんでもしてあげるから」
「ありがとう。でもほんとに何もないんだ」

そう言って僕は寝転ぶ。
彩月が無言で何か言いたそうに僕を見つめているのを感じたが、あえてそれを無視して目を瞑った。
じたばたしても仕方がない、その流れに従うのが筋だろう。
犬山城に配属された以上、逃げ出すわけにもいかないのだから。


──10月16日。

立花軍が三河に出陣してから5日過ぎた。
どういう状況なのかはこちらには情報が伝わってこない。もうちょっと偉ければ詳細な事が分かるのだろうが、進んでこの城の与力武将、毛受荘介に訊く気にはなれなかった。
藪を突いて三河に援軍に行けとか言われるのを恐れたからだ。

「直樹、もうちょっとなんとかならないべか…おら疲れたべ……」
兵糧を肩に乗せ城内の蔵に運ぶ槍之助は、足取りも酔ったように怪しく、見るからに危なっかしい。
「もうちょっとの辛抱だ、あと少しで終わるから」
汗だくになりながら槍之助を励ます。

僕らは来るべき戦に備えて、城内に物資を運びこんでいる最中だ。平山城とはいえ、山の上にあるので運ぶのもかなり重労働である。
いくら足軽小頭とはいえ、しょせんは足軽。僕も他の足軽と一緒に肉体労働に励んでヒーヒーいっている。
早く他の足軽を顎で使う立場になりたいものだ。
周囲の足軽がせわしく荷を運んでいるのを横目に見ながら、僕は蔵の前に俵をドンと置いた。

「ご苦労様、あとはやっとくから休憩していいわ」

蔵の前で俵の数を計算していた、中年の女侍が僕にいう。
てきぱき指示を飛ばしていることから、やり手のキャリアウーマンみたいだ。

僕は名前も知らない女侍に軽く頭を下げると、槍之助と連れ立って彩月が働いている場所を目指す。
彼女は女なのか知らないが、日持ちする川魚の干物をつくってるらしかった。
犬山城のすぐ傍には大きな木曽川が流れてるので材料に困らないらしい。

「いい匂いがするべな」

先ほどまでへとへとだった槍之助が厨房に近づくにつれ元気になっていく。
まったく現金な奴だと思うが、僕の腹の虫も鳴りだしたのだから苦笑してしまう。
もうお昼なんだから仕方ないんだけどね。

僕らは、天日干しをしている女たちに近づいて、その中にいた彩月を見つけると大きく手を振った。

「おーい!さつき~」
「あっ!直樹っ!」
丁度、魚の口にヒモを通していた彩月が、僕の声に反応して魚を他の女に預けると、笑顔で駆け寄ってくる。
「どうしたの? 休憩?」
「うん、もうお昼だしね」

少し肌寒くなってきたとはいえ、日差しのきつい太陽を見上げながら、僕は彩月を昼食に誘う。
今日のお昼は竹の皮で包んだ握り飯だ。城内での仕事のためか、女中たちが握ってくれたものである。

「早く食うべ」
槍之助が待ちきれないようにその場に座り込み竹皮をめくるが、その場にいては邪魔だと無理やり城壁まで引っ張り
そこで初めて3人で食事を始める。

「やっぱり戦が近いんだべな。みんなピリピリしてるべ」

おにぎりをむしゃむしゃ食べながら何気になく言った槍之助に、僕と彩月は目を丸くして驚く。まさかこの男が空気を読めるとは、というリアクションである。

「槍之助でも空気読めるなんて、明日は雨じゃないかしら」
彩月が空を見上げ雲を見つめるが、真っ白な雲からは雨が降り出す様子はない。
むしろ僕としては槍之助の名前らしく槍が振ってくることのほうがありえそうで怖い。

「おらを馬鹿にするでねぇべ、おらだってそれぐらい分かる。今度の戦いが厳しいものになるってことくらい」

城下町を歩いていれば日増しに島津が攻めてくるという噂が増えてきている。
立花の主力が尾張にいない以上、攻めて来たら大変なことになるだろうというのは槍之助にも分かるらしい。
「ねぇ直樹。この城ってどのくらい兵がいるの?」
「それはちょっとわかんないな……訊いたことないし」
「そう。でもここは最前線だし兵はいっぱいいるよね」
彩月がおにぎりを食べ終え、腰にあった竹筒の栓を開けて水を飲む。
白い喉がゴクリゴクリと動いてなんだかとってもエロく見えた。

「ふん、怖気づいたべか。彩月は城の奥で震えているといいべ。おらと直樹で手柄をあげるべしな」

槍之助は立ち上がると、反論しようと彩月が口を開く前に素早くどこかへ立ち去る。
たぶんトイレでも行ったのだろう。僕は黙ってそれを見送る。

彩月といえば不機嫌そうに槍之助の背中を見つめていたが、やがて視線を逸らし僕と雑談を楽しむのだった。


翌17日。時は昼間。
ついに島津が稲葉山城を発ったとの急報を受け、僕は槍之助と彩月を連れて犬山城に向かっていた。
すでに城下町は荷物を持った町人たちが溢れかえっており、それぞれ街より脱出していっている。町人たちも籠城戦になることを薄々感じており、巻き込まれたくないのだろう。

「やはり、この隙を見逃してくれないか……」

ライバルともいえる島津家と立花家。
もし立花道華が三河を手に入れれば、島津としては非常に困ったことになる。尾張と三河の2国持ち相手に島津は美濃一国の兵で当たらねばならないからだ。
よって島津が犬山城を落とし清州本城を狙うのは、ごく自然な流れである。
逆にこの犬山城で持ちこたえることができれば、一気に立花の力が増大することだろう。

「絶対に命を粗末にするなよ、二人とも」

鼻息荒い槍之助と、気合の入った彩月に言って、僕らは蜂の巣をつついたように出入りの激しい城門を潜った。


「われらは籠城し、敵を迎え撃つ」

城門前に集められた僕ら足軽の前で、与力の毛受荘介が厳しい顔で短く言った。
予想されていたことなのでそれほど僕らに動揺はない。城に籠って主力が帰ってくるのを待つというところだろう。
岡崎からここまで何日かかるか分からないが、犬山が落ちれば尾張が危機に陥るので道華も僕らを見捨てるようなことはしないはずだ。

手に槍を持ち、額当てと胴丸(鎧)で身を固めた足軽たちが下知に従い、あらかじめ決められていた持ち場へと散っていく。
敵の到着はまだ先だが、弓矢や投石の用意など色々準備があるのだ。

「よし、僕らもいくぞ」

槍之助と彩月を引きつれ、僕らも自分の持ち場へ行く。
僕らの担当は城、南側の城壁から敵の侵入を止める役だ。
詳しく説明すると、犬山城は平山にある天守閣を中心に城下街がふもとの南側に広がっており、その外側に城壁と木曽川から水を引き込んだ外堀がある。
城下街に入るためには東側にある城門を通るしかなく、守りやすいともいえるのだが、城下街を囲っている分、城壁の長さはかなりあり、水を湛えた外堀を越え城壁を乗り越えられてしまえば困ったことになる。
城の西側と北半分は、川幅の広い木曽川が流れ断崖絶壁が敵を阻んでいるので、そこはいいとしても、南側と東側を守るのは大変だといえる。
ましてや噂によると、この城の兵は2000ほどであり、敵方は8000とも言われている。
城を落とすには3倍の兵が必要とも言われてるのだから、気を抜いたらあっというまにやられそうだ。


大きな怒鳴り声とガチャガチャ喧しい金属音を立てて走り回る兵士たちが、否が応でもなく場の緊張を高めていく。
僕も弓矢を持ち、拳より少し小さめな石をズボンのポケットに詰め込んだ。
槍之助も彩月も僕にならって黙々と武器を用意している。
兵の士気は高い。

「ここまで用意周到に準備したら大丈夫じゃない。数か月も籠城するわけじゃないんだし」
「そうだべな」

籠城経験のない彩月が楽観的に言ったが、それは誤りだ。
やつらにとって時間をかけずにこの城を取るのは絶対条件。しょっぱなから激しい攻撃が来ることが予想される。
僕は彩月と槍之助に気を抜かないよう注意すると、外堀の傍の城壁の上から眼下の城下町を見下ろす。
すでに街の住人の避難はあらかた終わっており、住人はみな他の街へと逃げている。
いくさになれば、家の中にある財は奪われ、最悪火をかけられるだろう。

島津の大将さんがそんな馬鹿な真似をしないと信じたいけどね。

僕は知らず知らずのうちに唇を噛みしめるのだった。



島津星姫が大将をつとめる島津軍が犬山に到着したのは、日が丁度暮れそうになりそうだった夕暮れのことだった。
薄暗いせいと移動による疲れがあるのか、そのまま犬山城に押し寄せてくることはせず、城の東側に陣を敷いている。

「攻めてくるなら明日だろう。ふたりともしっかり休息しておいて」
無人となった城下街の長屋の一室で、僕は首を撫でた。
深夜奇襲してくることもありえるから警戒は怠るつもりないが、明日は激戦が予測されるので交代の時間はしっかりと休息に使った方がいい。

「直樹は休まないべか?」
槍之助が夕食の握り飯をむしゃむしゃ食べながら立ちあがった僕を見上げている。

「僕はちょっと外の様子が気になるから見てきてから休むよ。彩月と槍之助は先に休んでくれ」
「まって!あたしも行くよ。さっきまで休んでたからね」

彩月が外に出た僕についてくる。
髪を後ろに束ねたポニーテールの格好で、とても可愛らしい。こんな時代でなければ、きっと学校で人気者だったろうと思う。
時代というのは本当に残酷だ。

「もうすぐ冬だね」

ポツリと彩月が言った。
すでに肌寒い風が、時折、身体を撫でていく日々が増えている。
もう少ししたら冬支度をしなくてはならない。仲良く年を越すためにもこの戦いも生き残りたいものだ。

「勝てると思ってる? 今回の戦い……」

「………………」

ひとけのない場所で彩月が思い切ったように口を開いた。不安だったんだろう。
もしかしたら先ほど言った楽観論は、そんな不安をかき消すためのものだったのかもしれない。

「……彩月はどう思うんだい?」
「あたしは…負けるかもしれないと思ってる…数が違いすぎるし」

俯いた彩月。
僕はそれに肯定もせず否定もしなかった。
島津が攻めてくる前は、この城の兵の数など興味はなかったのだが、こうして現実的な数字を知ってしまうとやはり心理的負担が増す。
所詮は足軽だと色々手を打たなかったのが、今になって裏目に出たのかもしれない。

僕は彩月の肩に手を置くと、明るく言った。

「ここの城主は有能だし大丈夫だと思う。僕の予測では1週間耐えれれば、きっと援軍が来るよ。それまでは頑張ろう」

「うん」

釣られて笑顔になった彩月。僕らは、南側の城壁近くをある程度巡回した後、長屋に戻って眠った。








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