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6 作戦会議

──3日目の夜。

今日も桜に自然妊娠派のクラスメイト3人を紹介してもらい、寮に疲れて帰ってきた。
そして自分の部屋に帰るなり、思わず声をあげる。

「なに…この豪華な料理。」

見れば食卓いっぱいの料理、料理、料理……。
お刺身はもちろん、エビフライ、から揚げ、シチュー、トンカツとこれでもかと豪勢なオカズが並べられている。
俺は開いた口が塞がらず、ぼんやりと料理に見入っていたが、ハッと思い出したように台所にいるであろう奈々に視線を向ける。

「奈々、今日何かあったのか? こんな豪華な料理、みたことないぞ……」

こちらに背を向け、トントントンとリズミカルに野菜を刻む奈々は振り返らない。
それどころか、台所の横には、これでもかと山盛りに盛られた赤飯が見えて言葉を失う。

「あのー奈々さん?」

俺が、背筋に薄ら寒いものを感じ腰を低くして下手にでると、ようやく奈々は振り返ってくれた。

「ふふ、勇太、帰ってきたんだ。今日はおめでたい日だから、お赤飯を炊いたんだよ……。嬉しいでしょ?」

包丁を持ったまま笑顔でこちらに近づいてくるエプロン姿の奈々。
背中が、どす黒いオーラーに包まれてるもんだから、すんごく怖い。

「お、おちつけ奈々。は、はなせば分かる!!」

何が何やらわからない俺は本能的に咄嗟に言うが、瞬間、脳裏に電流が走り絶句する。
まさかばれたのか!?俺が女の子とえっちしたことに!?
いや、もう奈々の目を見れば聞かなくても分かる。あの目はマジ!「悪いごはいねーか…!」と村をまわるナマハゲそのものだ!

こ、ころされる……。
腰が抜けたように尻もちをつき、奈々を見上げる哀れな俺。
奈々は俺の前に立つと、ニコニコ顔で言い放つ。
「勇太くん?どうしたのかな。そんなところで座り込んじゃって。立てないなら私が立たせてあげようか?」
「ああ、ええと…いや…」
まるで天使が人類を救済に来たと言ってもおかしくないほどの優しい音色。
だが、騙されてはいけない。これは上げて落とすの前触れなのだ。付き合いの長い俺には分かる。俺は今から処刑されるのだ。

「な、奈々は、ホント美人だなぁ! こんな美人みたの俺初めてだよ!」
とりあえず怒れる大明神奈々の怒りを鎮めるように持ち上げてみる。が、
「ふふふ……勇太くんってば冗談うまいのね。私、冗談でも感激しちゃった!」と、まさに棒読みで返された。

奈々の目は先ほどからまったく変わらずマジモードで、セリフは完全に機械音声だ。
つい一昔前はヘビを見て「ふええええ怖いよおぉぉ」とか言ってたのにどうしてこうなった。

奈々がゆっくりと歩いてくるのを見て

……終わった。
と、覚悟を決める俺であった……。


──数十分後。

「あいたたたたた……」
俺は奈々にギッタンギッタンにやられた後、ソファーでごろんと横になっていた。
とりあえず奈々は俺をボコボコにして気が済んだのか、ぷんぷん肩を怒らせながら帰って行った。
よって部屋にいるのは俺一人である。

俺は嵐が去ったことに一安心して立ち上がると、台所にある冷蔵庫を開けてジュースを取る。
そしていざ飲もうとして。新たな客、桜がノックもせずに現れた。

「……おい。おまえ、俺の部屋をなんだと思ってるんだ?」
「あら、男なら細かいことを気にしちゃ駄目よ。器が知れるわよ」

「……………」

なんの遠慮もなく部屋に突然入ってきた桜は、夜だというのに制服姿だ。彼女は颯爽とリビングの青いソファーに座ると、俺にもソファーに座るよう促す。

「なんなんだよ、いったい?」

いきなりここに来た理由が分からず、怪訝そうな顔で桜を見つめると
桜は「さすが早いだけあってせっかちな男ね」と余計なひと言をいいながら理由を教えてくれた。

「これからのことを貴方に言っておこうと思ってね。なんとかノルマは達成出来そうだし」


・・・・・・・

「これからのこと……?」
「そう、これからのことよ。話す前に奈々がいないならここに呼んできてほしいんだけど」

部屋を見渡し、奈々がいないことに気づいた桜がそう言うが、俺としては遠慮したい。
さっきあんなことがあって気まずいし、また暴れ出すかもしれないからだ。

しかしこれからのことを話す作戦会議なら奈々を呼ばないわけにはいかないし……。う~ん。
俺が思案顔で額に手を当て悩んでいると、桜が「はぁ」と溜息をつく。

「あなた、また、奈々に何かしたの? 早く謝ってきなさい」
「……したのは事実だが、なぜ俺が悪いことになっている。しかも「また」っておかしいだろ……」

「言わなくても分かるわ。あなたの顔を見ればすぐに分かるもの。どうせ過去にも散々悪いことして奈々を困らせてきたんでしょう?」
「こいつ……」

優雅に足を組みながら断言した桜に、内心で苦虫を噛み潰す。
いい加減頭叩きたい。頭、叩いていいよな!?
ポカンッ!と叩いたらどんなにスッキリするだろう。

悶々としながら、どうしようかと葛藤していると、珍しく部屋のドアがコンコンとノックされた。

「はい」

まさか奈々かと頭をよぎったが、あいつは俺の部屋の鍵を持ってるし、ノックなんかしないと分かってるので
他の奴だろうと判断して部屋のドアを開けた。

ぴょこん

んっ?

「こんばんは、勇太くん、茜だよ~」

飛び跳ねるようにドアの横から出てきたのは、昨日俺とえっちしたクラスメイトの茜だった。
俺は思いもよらない訪問者に少し驚く。何かあったのだろうか?

「なんか用か? こんな時間に」

まったく心当たりがない俺が尋ねる。茜を抱いてから一言も会話を交わしてないので用がさっぱり分からない。

「うん、ここに桜ちゃんいるよね? あたし桜ちゃんに勇太くんに協力するよう言われてここに来たんだ」
「えっ、そうなのか?」

「うん、そういうことだから入るね。おじゃましまーす」

靴を脱ぎ散らかし、とっとと部屋の中に入っていくのを見ながら
茜まで呼んでいったい桜は何をしようとしているのかと頭をひねるのだった。




「よく来たわね。渚はどうしたの?」
「渚は少し微熱があるから休ませたよ。今日の事は、明日あたしがちゃんと伝えるから大丈夫っ!」

台所からお茶うけ用に置いてあったせんべえを勝手にバリバリ食べながら茜がテンション高めに答えてる。
昨日見たときも思ったが、こんな時間でも元気が良すぎる。しかしこいつ。どうも見た目通り小学生で精神年齢が止まってるような気がするな。
靴を脱ぎ散らすし、勝手にせんべえを食べて周囲にボロボロ欠片を落とすし。落ち着きないし。
俺は、茜の隣に座ってそんな人物評をしていると、桜が一つ咳払いをした。

「奈々が誰かさんのせいでいないのが残念だけど、今日はこのメンバーで今後の方針を決めるわ。いいかしら?」
「は~い。賛成っ!!」
「…まぁいいけど……って、ホントに茜さんも俺に協力してくれるのか?」

「うん、何かよくわかんないけど困ってるんでしょ? あたしに任せておいて!」

足をバタバタさせ両手を上にあげた茜に、俺は奈々のことを思い出されて急に気が重くなりながらも感謝する。


「では、さっそくだけど、ゲームが過ぎてから3日経ったわ。これから私たちはどうしたらいいと思う?」

「は~いはいはいはいっ!! 全員とえっちすればいいとおもいま~~す!!」

桜の問いに一瞬で手をあげて元気に言った茜にあっけにとられる。協力してくれるのはありがたいが、この答えはどうなのよ。ふざけてるのか??
俺が横目で何言ってんだこいつ?という顔をしているのに、それに気づかずドヤ顔みたいにされてるとはある意味大物。
どうも大真面目に言ったらしい。

さすがに桜もこれには苦笑している。

俺がこんなことを言ったらボロクソに叩くくせに、この待遇の差がひどいよな。と思ってると、
桜が楽しそうに口を開いた。

「ええ、そうね。クラス全員とえっちしてしまえばかなり有利になるわ。リスクも冒さないで済むしね。でもそれはさすがに駄目なの。
彼は一日に3回の射精が限界みたいだし、このままではなんとか15人前後を確保するのが精いっぱいだわ。だから仮の所有権がなくなったあとの事を考えたいの。
本戦が始まる間際に考えたら後手にまわるでしょ?」

「う~ん、そっかぁ。いい案だと思ったんだけどなぁ」
残念とばかり再びせんべえをバリバリ食べ始めた茜。

おまえ何も考えてないだろ……。でなきゃ、あんなふざけた案でないし!

「じゃあ、あなた何か考えてることがある? 当然、自分の事だから何か考えてるんでしょう?」

白い足を組みなおした桜が俺を見る。

『いや、特に何も考えてないけど……』と言いたいが、そんなことを言ったらフルボッコにされるだろう。
なので俺は必死に何かないかと考えを巡らせる。そしてなんとか苦し紛れに一つの案を出した。

「この際、クラス全員を集めて他の男とえっちしないでくださいってお願いするのはどうだ? そしたら他の男に抱かれないでくれるかもしれないし……」

言いながら語尾がどんどん小さくなる。
桜の視線が細く冷たいものに変わっていったからだ。

「それは初日にやったほうが良かったわね。勿論、土下座で。」
「さ、さいですか……」

バッサリ斬られてしまった。でも苦し紛れにしてはいい案だと思ったんだがなぁ。

「まぁ着眼点は悪くないわね。最終日にやっておいたら多少の効果はあるかもしれないわ。最終日のHR前に教壇前でやっておきなさい。
それより、茜。頼んでおいたこと調べておいてくれた?」

「うん。渚と一緒に調べておいたよ」
「なら報告お願い」

「えっと、桜ちゃんの読み通りクラスのほとんどは自然妊娠派だったよ。人工授精派は分かってるだけで5人くらいかな。」
「そう、予想通りね。ならその5人とえっちするのは後回しでいいわね。引き続き調査をお願いね」

「りょうか~い」

茜が桜に向かってビシっと敬礼する。

「なぁ、なんで人工授精派は後回しでいいんだ? やっぱ、人工授精の方がいいから説得が難しいのか?」
素朴な疑問を感じ俺が質問する。
「そうね。それもあるけど、自然妊娠派はある意味一番不安定な存在なの。だってそうでしょう。彼女たちは妊娠すればいいのだから、勝てそうな相手や気に入った相手に出会えれば遠慮なく乗り換えるわ」

「でも校舎が違うだろ? 他の男連中とそんなに出会うきっかけはないんじゃないか?」

「何を言ってるの、部活があるでしょ。部活は他のクラスの子たちも入るんだから知り合うきっかけなんていくらでもあるわ。一緒にやってればいくらでも仲良くなれるんだし。」

「そっか、そうだな」

部活の事を忘れてた。確かに言われてみればそうだ。その気になれば部活に限らず、いくらでも出会うきっかけはあるだろう。
行事とか委員会もあるんだろうし。
校舎が違うと安心しては駄目なのだ。

俺が腕を組んでうんうん唸ってると、桜が続けて口を開く。

「あと、あなたは部活に入らない方がいいわね。つまらないトラップにかかりそうだし。」
「なんだと、それはどういう意味だ。」

「そのままの意味よ。他のクラスの手先に騙されて他の男子の所有物に手を出してしまいそうだわ」

「そ、そそんなわけあるか!俺を甘く見るなよ!!」

思わず立ち上がってしまいそうになるのを抑える。こいつ俺を舐めすぎだろ。

「なら入る? 言っておくけど他の男子の所有物に手を出したら、向こうの指名でこちらの所有物の女の子を2人取られるのよ。
もし、そこに奈々が入っていたら……」

「……っ!!」

言葉に詰まる。
一瞬だが、奈々が俺から引きはがされる光景が目に浮かんだからだ。

「理解できたみたいね。それはそうと、あなた奈々を抱いたんでしょうね?」

「……いや」

「なら早く抱いておきなさい。あと四日は安全だけど、それ以降は何があっても不思議じゃないわ。いきなりレイプされて奪われるってこともあるのよ」
「ああ……」

急に大人しくなったせいで桜は拍子抜けしたようだが、きちんと俺に警告してくれる。
口は悪いが、なかなかいい奴かもしれない。
俺は膝に手を置いて落ち着きを取り戻すと、軽く息を吸って真面目に尋ねる。

「なら桜は何かいい考えがあるのか? 正直俺にはどうしたらいいか分からない。他のクラスの子に手を出して、それが他の男の所有物だったらと思うと怖くて仕方がないんだ」

「……そうね。あるにはあるけど。その前に校則手帳を持って来てくれるかしら?」

わかった、と俺は立ち上がり、制服のポケットに入れてあった黒い手帳を持ってくる。
桜はそれを俺の手から受け取ると、ペラペラと捲りはじめた。

「うん、やっぱりそうね。やはりこのゲームは個人戦じゃないわ」
「えっ……」

周り全員が敵だと思ってた俺は、驚いて桜を見つめるが、桜は視線を手帳に落としたままである。
なんとなしに手持無沙汰になり隣の茜に顔を向けると、茜は口に手を当て大きな欠伸をしていた。
時計を見るとすでに夜の9時をまわっている。

「眠いなら部屋に帰るか? 今日決まったことは明日伝えるし」
「んっ、大丈夫。まだまだ元気だよ。小学生扱いしないでね!」

桜の邪魔をしないように身体を寄せてヒソヒソと茜に言ったのだが、茜はぶんぶんとツインテールを左右に揺らしながら拒んだ。
わざわざ自分から小学生と言い出したことから、茜が周囲からどういう扱いをされているか窺いしることができる。
まぁ、見た目もそうだけど行動からして明らかに小学生だよな。俺も制服来てなかったら小学生扱いしてたし。
でもこれには触れないでやることが優しさだろう。これから協力してもらうことになるんだし。
俺は茜から桜に視線を戻した。

そして今更ながらに飲み物を出してないことに気づいて冷蔵庫からジュースをとってくる。

「ほら、せんべえ食べてたら喉が渇いただろ。」
「わーい。ありがと!」

茜が缶コーヒーを受け取り嬉しそうに栓を開けて飲み干す。
桜にも渡そうとしたが、桜は顔をあげて手を振った。

「いえ、私はいいわ。それより今後の方針を言うわ。まずは仮の所有権が切れる一日前、後3日後に他の男子と同盟を結びましょう」
「同盟? 同盟だと。」

「ええ、わかってると思うけど、このゲームに落ちるのは一人だけ。だから同盟を組んで狙った他のプレイヤーから徹底的に所有物を奪うようにするの。
そうすれば、あっさりこのゲームを勝ち抜けるわ。なにせ落ちるのは一人だけなんだから。
これは個人戦ではなく団体戦。いかに味方を多く作るかが勝負よ。」

「なるほど。でも、なんですぐに同盟結んだら駄目なんだ? 本格的にゲームが始まる前より、よっぽど余裕を持って接触しやすいと思うんだけど。」

「それは相手を変にやる気出させるかもしれないからよ。もし接触した相手が何らかの理由で女の子をあまり抱いていなかった場合、こちらとしても困ったことになるでしょ?
接触したからといって同盟結ぶか分からないんだし。」

「……そっか、なら誰と同盟結んだほうがいいんだ?」

「それは今から情報を集めさせるわ。
誰が信用出来て、誰と組むのが得なのかってことをね。」

桜が意味ありげに茜に目をやり、形のいい唇に指を当て微笑んだ。


……やっぱりこいつだけは敵にまわしたくないな。

明らかに楽しんでいる桜を見て俺はそう思うのだった。





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ntr属性なのに超純愛ゲーをやって自己嫌悪になった男。リハビリのために小説を書いてます。
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