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モブの植木鉢小説館

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9──籠城2──

明朝、予想通り、島津軍は犬山城を包囲すると、一気に一飲みにせんと襲い掛かってきた。
彼らは兵糧攻めなど悠長に時間をかけてる暇などないから当然である。

敵の主力が東に展開し、城門を破らんと突撃を繰り返す。
それを我が方の城主、由布惟信が自らが陣頭に立って防いでいる。
城門上から弓が放たれ、熱湯が敵兵目掛けてぶっかけられると、たちまち門前は阿鼻叫喚と化し、地獄絵図が展開される。
次々と島津兵が倒れ、死体がいくつも出来上がるが、それでも敵兵は突撃をやめない。
まるで何かに取りつかれたようだ。

「いよいよ、始まったべな……」

槍を握りしめた槍之助が南側の城壁の鉄砲穴から外堀の向こうを覗いて興奮した声を漏らしている。
南側に展開した敵は、水を湛えた外堀があるため、こちらに一気に攻めてくることはせず、こちらを窺うように騎馬が何頭か走って僕らの目を惹く。
射程外には当然、足軽たちがこちらを包囲するように囲んでおり、法螺貝を鳴らしながら少しずつ距離をつめてきているようだ。

「弓隊構えっ!!」

ここの指揮を任された毛受荘介が手を振り上げる。

そして十分ひきつけたところで叫んだ。

「放てっ!!」

──ヒュン!ヒュン!ヒュン!

風切り音と共に一斉に矢が外に向かって放たれ、敵兵の何人かに命中する。

その途端、敵兵は、後方に後ずさるようにして下がりはじめた。

「んっ?」

やけにあっさり引いた島津兵に僕は眉をひそめる。

どうやら南側の敵には、積極的な攻勢の意思は感じられない。
やはり木曽川から水を引き込んだ外堀の存在が大きいのだろう。
幅も広いあの堀を渡ったとして、さらに城壁を乗り越えなければいけないのだから、尻ごみする気も分かるのだが、ちょっと消極的すぎやしないだろうか。
島津兵が長い梯子を持って来ていることから、外堀の外から一気に城壁の上まで越えようと考えているのは確かなようだが……。

「「わあああああああああーー!」」

その時、東側から恐ろしいほどの大声と金属音が耳に入り振り返った。
敵はどうやら東側に攻撃を集中させているらしい。ひっきりなしに兵が動き回り、叫び声をあげてるのが遠目にも分かる。
東側の戦況は、あまりよくないようだ。
荘介のもとに伝令がひっきりなしにやってくるので盗み聞きすると、島津は犠牲を顧みず城門だけではなく城壁にまでも一斉に梯子をかけて攻撃しているらしい。
しかも、突進する敵兵の背後から味方ごと射抜くように弓が飛んでくるので、手が付けれぬ有様のようだ。
「そちらに兵をまわしたいが……」
傍にいた荘介が悩んでいる。
こちらに積極的に攻めてくる様子はないが、もしこちら側の兵が少なくなったと分かれば激しい攻撃を仕掛けてくるだろう。
堀と城壁があれど、数の上では南側の敵兵の方が多いのだ。
迂闊に兵を動かすことは出来ない。

「荘介さま、敵の勢いは雪崩のごとく、このままでは城門を維持できませぬ」
悲壮な声で、伝令が膝を折って頭を下げる。

まだ戦いが始まって3時間しか経ってないのに、いったいどうなってるんだ、このありさまは。ここの城主、由布惟信は猛将ではなかったのか?

傍にいた僕が、まるで自分が報告を受けたように顔を顰めるが、どうにもならない。
明らかに立花軍は敵を甘く見ていた。島津が死兵となってこれほどの猛攻を仕掛けてくるとは思ってもみなかったのだ。
そう、完全に犬山勢は先手を取られて後手にまわった。
このまま手をこまねいていれば、敵になだれ込まれて城は危うくなるだろう。

「荘介さまっ!!」
伝令が再び、決断を促すよう声を張り上げる。
だが、それでも荘介は迷っている。もしかしたら荘介という人物は、命令に忠実であるがゆえ、融通が利かないのかもしれない。
兵を預けられ、南側を守れと言われて、その兵を割くことにためらっている。
なんらかの手を打たなければならないのにだ。
この兄ちゃんは、クソ真面目だからあり得る。

僕は、鉄砲穴から外を見ている彩月と槍之助の背中を見ると、大きく息を吸った。
そして意を決すると、荘介の前に進み出て勇気を出す。

「荘介さま、ここは援軍を差し向けるべきです。南側には敵兵が積極的に来てませんので、東側で疲れている味方や負傷兵と兵を入れ替えるだけでも
かなり違うかと思われます」

「お、おおっ、そうか、そうだな」

突然出てきた僕に驚いたようだったが、僕の言に頷くと、すぐさま指示を出し始める。
一度決めると、すぐに行動するところが生真面目な荘介らしい。
彼は僕に向き直ると、無言で肩を叩いて、耳元で囁いた。

「よくぞ言ってくれた。俺はこの通りの堅物ゆえ、融通が利かん。これからも思ったことがあったら遠慮なく述べてくれ」
「……はっ!」
僕は頭を下げたまま引き下がると、そのまま二人の元に戻った。

「直樹どうしたべ? 荘介の兄ちゃんと何かあったべか?」
「いや、なんでもないよ。それより、敵はどうなってる?」

荘介の元から戻ってくるのを見守っていた槍之助が僕に尋ねると、それを煙に巻くようにして敵の動きについて逆に尋ねる。

「敵なら近づいてこないよ。遠巻きにこっちを見ているみたいだけどね」
「そうか、それならよかった」
彩月が鉄砲穴を覗いたまま答えると、僕はホッと息を吐いた。
このまま大人しくしてくれると助かるのだが。

「しかしこっちに敵がこないと暇だべな。おらたちも東側に行くわけにはいかんべか?」
「そうね。あたしも賛成。ここでじっとしてるより向こうの方を手伝った方がいいと思うし、直樹はどう?」

「んっ、そうだな……」

口に手を当てて考える。
確かに敵は攻めてこないが、さっき荘介に助言する約束みたいなものをしたから迷う。
僕だけここに残り、この二人を東側へ向かわせるという手もあるのだが、彼らは引くこと知らないことがあるので行かせることに気が進まないの。
それにいつ攻めてくるか分からない為、離れ離れになるのは得策ではない。

「行ったら駄目?」

こちらに近づいてきた彩月が僕の前に立って、じっと僕の顔を見つめる。
行かせないと言えばそれで済むのだが、東側のことを考えれば無碍にもできない。
これでは先ほど荘介が悩んでいた姿とそっくりだと内心で苦笑する。

「わかった。だけど、城壁に上がらないという条件付きだ。様子を見に行って、すぐに戻って現状を報告してほしい。槍之助が突撃しないか不安だしね」

槍之助に聞こえぬよう、こっそり言うと、彩月はクスリと笑って頷いた。
そうして槍之助を引き連れ、カシャカシャと鎧音を立てながら他の兵士と共に東側へ駆けて行った。



・・・・・・・・・・

「城門を抑え込め、決して突破を許すなっ!! 手が空いてるものは外壁をのぼり、梯子を外堀へ捨てよ。矢を恐れてはならぬ!!」

その頃、東門では、陣頭指揮に立つ由布惟信が矢継ぎ早に指示を出し兵を叱咤していた。
城門の向こう側から絶えず敵兵の雄叫びと共に、ドン!ドン!と丸太で門を攻撃してるのが分かる。
反対側では味方が必死に城門の扉を体を使って抑え込んでいるのだ。


「おのれ小娘……血迷うたか」

背後から矢を撃たれているのにも関わらず、まるで気にしないようにこちらへ前進してくる敵兵に歯噛みする。
味方もろとも矢を撃つなど、己には出来そうにない。もしそんなことをすれば兵は自分に不信感を抱き、指揮に従わなくなるだろう。

───まさに絶対的な統率力。
自分に命を捧げられるカリスマがなければ下せない命令である。
そう、島津星姫という少女の魅力は、兵を狂信的に。そして死を恐れぬ死兵へと変えている。
元々容姿が美しい少女であることは戦場で見かけて知っていたが、まさかこのような鬼の命をくだせるとは……。


「殿……」

惟信は、静かに目を閉じ脳裏に浮かんだ道華の顔を思い浮かべる。

断っておくが、この由布惟信は決して無能ではない。
幼少の頃より立花家に仕え、当主道華と共に戦場を駆け抜け、尾張統一に大きな功績を残した。
故に、立花家きっての猛将とうたわれ、道華よりこの犬山城の守備を任されたのだ。
それが、敵の損害を度外視した攻撃を受けているとはいえ、わずか1日で落城することになれば死んでも死にきれぬことになる。

齢42の猛将と17になったばかりの鬼姫。

その戦いはひとつの佳境を迎えていた。




「いい、絶対に突っ込んじゃ駄目よ、直樹に言われてるんだからね」
「わかってるべ、何度もうるさい奴べな!」

東側に近づくにつれ、彩月たちは緊張を隠せないでいた。
遠くで見てたより、戦況が悪いと分かったからだ。死を恐れてぬように敵兵が血まみれになりながら城壁にしがみつき、それに止めを刺さんと城壁にあがった味方が、敵の矢で射殺される。
矢はなかなか途切れることはなくこちらに射続けられ、これではどちらが防衛しているのか分からない。
明らかに味方が敵の勢いに押され尻ごみしている。

「どうするべ。このまま指をくわえてみてるべか?」

悲痛な叫びと雄叫びが交差する東側城壁前で、槍之助が彩月に挑発するようにいう。
共に来た南側の兵は、すでに己の役目を全うすべく行動を開始している。何もせず矢雨から隠れるように突っ立てるのは、彩月たちだけだ。

(そうは言っても)

彩月は、これからの行動について考えあぐねている。
直樹に様子を見て戻ってこいと言われてるのだが、このまま何もせず自分たちだけが安全な場所で様子を窺うのは、彩月とて本意ではない。
しかしこの矢の中飛び込んで行っては簡単に引くこともできない。特に頭に血が昇った槍之助を、自分一人で制御できる自信がないのだ。

ヒュンヒュンと矢が飛び交い、近くの民家の壁にドスドスと勢いよく突き刺さる。
流れ矢であっさりと人生を閉じてもおかしくない状況だ。

槍之助はさっきから周囲の気に当てられてか、鼻息荒く、槍を持ったまま目を血走らせている。自分がここにいなければすぐにでも飛び込んでいくだろう。
武人として、自分もまた飛び込みたいのだけれど、直樹の言われてることを破りたくないのも事実である。
彩月は城壁にあがった味方が矢に討たれて、敵の梯子ごと外堀の中にドボンと落ちるのを見つめながら悩んでいると、あることを思いついた。

そうだ、直樹は城壁にあがるのは禁じたけど、それ以外なら許したじゃない。
ちょこちょこと城門前で、矢を撃ちながら戻ればいいわ。そうすれば城門の様子も分かるし、一石二鳥よ。

一人頷き、そう決めた彩月は、さっそく槍之助に言った。

「城門前に行くわよ。そっちの様子を見に行かなくっちゃ!」


城門前は、まるで祭りのような騒ぎだった。
右へ左へとひっきりなしに人が行きかい、城門には数人の足軽が必死に体を門に押し付け敵の丸太での攻撃を防いでいる。
城壁には次々と外から梯子がかけられ、敵兵が梯子にしがみついてこちらへやってくる。味方が梯子を落とせど、すぐに次の梯子が架けられキリがない。

「敵の侵入を許すな!!矢を撃ち続けよ!!」

ぎゃあああ!と断末魔をあげながら敵味方が倒れるのを尻目に、指揮官らしき武将が味方を鼓舞する。
だが、次々に飛び込んでくる矢にかなり苦しんでいる。城門傍には数十人の味方が矢に倒れて、死んでいるのが見えた。

彩月は死んだ兵が持っていた弓を取り、矢をつがえて外に放つ。
槍之助も弓矢をどこからか持って来て塀の外へ向けて放ち始めた。

「当たってるかどうかわからねえべな」

怒声が飛び交う場で、ぶかっこうに弓を引きながら不満そうに槍之助が隣にいる彩月に呟く。
自身の身長より高い塀の向こう側が見えず、狙いが定められない。
これでは矢の無駄遣いだと、5回ほど矢を放ってから槍之助は弓を放り投げた。

「なにやってんの。矢を撃ち続けなさいよ!」

外堀の向こうから飛んでくる矢に気を付けながら、彩月が槍之助に注意するが、槍之助は地面にあった槍を拾い上げて彩月に吠えた。

「もう飽きたべ! おらは敵を殺してくるべ!」
そう言って大股に城壁にかかってる梯子に手をかけてのぼろうとする。
「ちょ、ちょっと!まちなさいよ!!」
慌てて彩月が弓を撃つのをやめて、槍之助の腰にしがみつく。このままじゃ直樹の言っていたことが守れなくなる。

「離すべっ!」
「いいから降りなさい!!」

押し問答しながら梯子でグイグイ引っ張りあう二人。
緊迫感漂うこの殺伐とした場で、わーわー騒ぎを起こすのだから迷惑このうえない。
だが、そんな争いはすぐに終わった。

「うわあああああああ!!」

自分たちよりかなり離れた城壁の上に、ついに敵兵が現れたのだ。
まだ一人だけの侵入者とはいえ、二人の目はそちらへ向く。

「あっちにいくべ!」
梯子から手を離し地面に降り立った槍之助はすぐさま敵めがけて走り出す。
他の味方兵も一斉にそちらに向かっているのだから追いつけそうにないのだが、彩月も城壁の上にあがられるよりかはマシだと黙認して追随する。

「おりゃあああ!!」
槍を振り回して暴れる敵足軽。
めちゃくちゃに振り回すので味方が近づけない。

「何をしておる! 早く討ち取らんか!!」
惟信が叫ぶが、
もたもたしているうちに続々と外壁の向こうから敵が梯子をのぼって城下街へ侵入する。
「くっ、いかん!」
既に数にして20。そちらに気を取られているうちに他の場所の梯子からもちらほら敵が見え始める。
勢いに乗る敵は、これまで以上に城門を気合と共に攻撃し、扉が丸太に押されて跳ねるようにキシキシと悲鳴をあげる。

すでに侵入した個所では敵味方入り混じって斬り合いをしている。
味方の旗色は少しずつ悪くなり始めていた。



「彩月、槍之助……」
僕は伝令の話で、敵が少数ながら城壁を越えたことを知って焦っていた。
すぐに戻ってこいと言ったのだが、やはり歯止めが利かなかったのか未だに戻ってこない。
やはりふたりを行かすべきではなかったか、と後悔していると、荘介が自ら城門へ向かおうとしているのが見えて驚く。

「荘介さま、どちらへ行かれるのですか!?」
慌てて荘介の前に立ち塞がり、彼に問う。
「知れたこと! 惟信さまをお助けに行くまでのことよ!」
槍を持ち怒鳴りつけるように言う荘介の表情は鬼気迫ってる。
しかし、ここを大将が離れてしまえば、いったい敵が来たときどうすればいいのか。

「お待ちください。荘介さまがここを離れれば、いったい誰がここの指揮を執るのです」
「そんなこと、そなたがすればよいだろう!」
「しかし、僕は足軽小頭の身、指揮などできません!」
「ええい、黙れっ!! こうして無駄話している間も惟信さまの身が危ないのだ。残ったものはこの男の指揮に従え、よいなっ!!」

「荘介さまっ!!」

僕の叫び声に振り返らず、荘介は己の側近と兵を連れて、東側へと駆けていく。

それを見送り、唖然とする僕。

どうすりゃいいんだよ、まったく。指揮の経験なんてないのに……。しかもまだ10代の若造だよ僕は。他に足軽大将とかいないのかよ。

内心、頭を抱えていると、周囲の足軽たちが僕を窺うように視線を集中させている。
ここで挙動不審な態度を取れば士気にかかわると思った僕は、姿勢を正すと、声を張り上げた。

「とりあえず現状を維持。敵が近づいてきたら僕に教えてくれ。荘介さまが戻られるまで皆協力してここを持ちこたえるんだ!」








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  1. 2012/12/05(水) 00:02:17|
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