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9──タイプγ──

タイプγ、それは数日前に出来たばかりの性欲増強剤である。
特徴は、タイプαに比べてさらに効果が強力で、どんなに枯れ果てた老人であろうと、性欲が完全に蘇るというものだ。
いや、正確にはそうであろう、と予測させるものである。と、言った方が正しいだろう。
なぜなら、投与されたものは100%、全身から血を噴き出し出血死しているからだ。
それでもこれが性欲が完全に蘇るとされたのは、死亡の際、老人が勃起しながら大量に精液をぶちまけて恍惚な顔で死んでいったからである。
これはデータできちんと裏付けされているので間違いない。枯れ果てた者たちは全員、性欲がよみがえったのだ。
とはいえ、それを認めたのは細川と側近だけである。
所長の村山麗子は、その可能性を切って捨て、薬と認めなかったのだから。






8月12日 午後12時11分 研究所 地下5階 治療室  桐沢真由美


「だめええええええええええええ!!」

そんな声が最後に聞こえた。
ワタクシの視界の前には、怒りで顔を歪めた男が注射器を振り下ろす姿。
防げない。
満足に身体を動かせないワタクシには、どうすることもできない。

「あぁがあああーーーっ!!」

首筋に鋭い痛みが走ると同時に、突然、目の前が真っ赤になった。

見えるもの全てがペンキで塗られたように赤く真紅に。
人も床も机も、空気さえも赤く。

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」

ワタクシは訳も分からず叫び出す。身体中の血液がマグマのように沸騰しているよう。

「………り………て!」

遥さんがワタクシを見てなにかを叫んでる。

なにを言ってるのかしら、そんな必死な顔をして。
その必死さに思わず笑ってしまいそうになりながらワタクシは自分の身を抱きしめる。

何かが喉元にせりあがってくるのを感じ口を抑える。
吐いてしまう。
食べ物を?血を?それとも…内臓を?

壊れる。
ワタクシが壊れてしまう。

嫌だ。嫌だ。ワタクシは、まだシニタ…ク……ナ………。










8月12日 午後12時12分 研究所 地下5階 治療室  細川弘毅



「……死んだか?」

口から血を吐き、壮絶な表情で固まった桐沢に視線をやりながら、側近の男に尋ねる。

「ど、どうなんでしょ。前のサンプルは全身から血を撒き散らして死にましたから……」
「フンッ」

側近が、モニターで鼓動や脳波の有無など、生体反応を確かめているのを横目に見ながら、俺は先ほど邪魔をした藤乃宮に顔を向けた。

藤乃宮は、放心したように床にへたり込んでいる。
止めることのできなかった自分の無力さに打ちひしがれているのだろう。顔を俯かせている。

馬鹿が、俺に逆らうからこうなるのだ。思い知ったか。

俺は先ほどまでの溜飲を下げ、満足すると、鼻を鳴らす。

「生体反応はありません。どうやら死亡したようです」

調べていた側近が、俺に報告する。

「そうか、ならこのゴミを手術台まで運んでおけ。全身から血をぶちまけなかった貴重なサンプルだ。解剖して調べないとな」
「はい」

薄ら笑いをして俺は治療室を出ようと体を扉に向ける。
若い被験者が死んだのは痛いが、元々殺す予定だったのだ。それが少し早まっただけだと、納得する。

そうして扉に手をかけたとき、それは起こった。



──ドクン!

大きく心臓が跳ねる。
一瞬、誰の鼓動か分からず、立ち止まって自分の胸に手をやる。

恐ろしいほど早鐘を打ちはじめた心臓。
いきなりなんだ、この嫌な感じ。悪寒は。

肌がぞわぞわと鳥肌を立て、直感に従ってゆっくりと後ろを向く。

そこで見たのは、死んだはずの桐沢が、ゆらりと手足をだらんとさせて立ち上がった姿だった。

「…………」

唖然として声が出ない。
魅入られたように、その場にいた者たちが、息を呑む。

桐沢は、ゆっくりベッドから床に降り立つと、自分の身体を確かめるようにペタペタと触りはじめた。


いったいなんなのだこいつは、死んだのではなかったのか。
まるで先ほどの苦しみ抜いた死から解放されたようではないか。


充血した赤い目。
細い首に無数に浮かぶ血管。
ドクンドクンと不気味なほど大きく脈打つ血管に比べて、なんとその表情は穏やかなことか。

あまりの変貌ぶりにでくのぼうと化していた俺は、ようやく我に返り側近にデータを取っているか訊こうとするが、奴は口を半開きにしたまま微動たりもしない。

ちっ、使えない奴だ。
俺は、モニターの傍まで行くと、ボーとしている側近を押しのけ、自分で桐沢の生体データを確認した。

「脳波、心拍数、血圧、体温、正常……。
いや、これは……!?」

生体チップから送られてくるデータに驚愕する。

そう、脳波を描く曲線が本来ありえないほど複雑に波打っていたからだ。
よく見れば、赤血球、白血球の数も通常より非常に大きく増えている。
普通の人間であれば、それに伴い血圧なども上昇するのだが、それがなく正常値を保っている。明らかに異常な状態だ。

目の前の桐沢の状態を見れば、データに頼らなくとも異常な状態だと一目でわかる。
目は血のように真っ赤なままで、首筋からは血管が大きく浮き出て生き物のように脈動している。それでいて顔は苦痛に歪んでいない。
本来死んでいるはずなのにだ。

俺は、唾を飲み込むと、奴を刺激しないよう、ゆったりとした動きで奴に近づいていく。

確保しなければならない。
タイプγ投与から見事生還して見せたこのサンプルを。
絶対に死なせてはいけない。

使命感に駆られたように足を進めた俺だったが、ある距離まで近づくと、桐沢は何を思ったのか無造作に傍にあった外科用メスを手に取った。

そしてそれを綺麗にグニャリと曲げる。

「えっ!!」

驚きの声をあげる俺と藤乃宮。
あまりにその動きは自然で、大して力を入れたようには見えない。なのに、それをいともたやすく曲げた桐沢に、何かの手品を見せられている錯覚に陥り混乱する。
別にメスは個人で簡単に曲げれるほど薄いものではない。かなりの強度を誇るステンレス製なはずだ。

それをまるで粘土のように丸めていく桐沢に、俺は驚愕を通り越して得たいのしれないものを感じ始める。

「360……」

俺は振り返る。
モニターの前の側近が、信じられないと言った風に首を左右に振った。

「こ、こいつ! 最低でも握力が360あります! 今曲げた瞬間、それだけの数値が出ました!」

「なんだとっ!?」

何度目かになる驚愕が俺を襲う。

ありえない。
側近の見間違いじゃないなら、もはや人間を越えている。
詳しい検査が必要だが、先ほどのメスを曲げた通り、我々の想像を超えた筋力を有している可能性がある。
これは迂闊に接触できない。

張りつめた空気が漂い、俺はこれ以上身動きが取れなくなる。

解き放たれたライオン。
目の前で腹を空かせたライオンと対峙している気分だ。

少しでも奴の気を惹けば食われる。そんな予感を感じさせる。


だが、その中で、空気が読めないようにひとり動き出したものがいた。

「桐沢さん、大丈夫なの……?」

サンプルの藤乃宮だ。
奴は、恐る恐ると言った風に奴に近づいていく。


(馬鹿な。理性が残っていなかったら死ぬだけだぞ……)
固唾を呑んで見守りながらも、俺はまたデータが取れると期待する。

が、奴はその声に振り向くと、意外にもゆっくりと喋り出した。

「藤乃宮さん……ごめんなさい」
「えっ……」
「ワタクシ、あなたにひどいことをしてしまいました。先ほどあそこの男が言ったことは真実ですわ。ワタクシはあなたに薬を盛ったのです……」

穏やかな顔から一転、桐沢は涙を流して俯く。
何度も何度も悔いるように頭を下げ、藤乃宮に許しを請う。
藤乃宮は桐沢を抱きしめ、背中を擦っている。


──なんという茶番。

俺が見たいのはこんなものではない。その並外れた筋力で不用意に近づいた藤乃宮を殺すというところが見たかったのだ。
タイプγにはこのような筋力を増大させる効果などない。
いや、確認されていないといったほうが正しいか。
もし奴が、副作用を乗り越えてこのような力を身につけたのだとしたら、性欲増強どころの話ではない。

人間を越えた人間。

新人類になれる薬を作ったということになるのだ。

これほどの喜びがあろうか。
俺は新人類の父となり、歴史に名を残せる大科学者となれるのだ。
なんという素晴らしいことなのだ。



……とはいえ、やっかいなことになったのは確かだ。

この様子だと理性や記憶は残っている。
意識レベルは脳波の波状から錯乱しているか、完全に理性を失っていると思ったが、違っていたようだ。
桐沢は俺を憎んでいるようだから話し合いなど応じず大人しく捕まらないだろう。

俺はチラリと側近に目配せすると、側近は意を汲みとって小さく頷き、注射器を密かに用意し始める。
暴れまわる患者を抑えるための鎮圧用の薬を用意させているのだ。
今の茶番で空気が緩んだ隙をつけば、奴に薬を打ち込めるかもしれない。

俺は、準備を終えたのを確認すると、極めて友好的な調子で彼女たちに声をかけた。

「どうやら大丈夫だったみたいだね。あの薬は桐沢さんを治す一か八かの薬だったんだけど、無事効いて良かったよ」

「……………」

警戒するようにこちらを見たふたり。
ゆっくり近づく俺に対し、露骨に嫌悪感を露わにする。

「……おかげさまで無事でしたわ。ですがそれ以上、近づかないでくださるかしら。ワタクシ、あなたを信用していませんので」

「そうかい。でも詳しい検査しないとまだ危ないと思うよ? 目は真っ赤だし、首にもいっぱい血管が浮いてるしね」

「そんなこと知りませんわ。ワタクシあなたを信用していないと言ったでしょう。聞こえなかったのかしら」

再び剣呑となりつつある空気。
やはり桐沢の説得は難しいなと思いつつ、今度は隣の藤乃宮に声をかける。

「藤乃宮さんからも言ってあげてくれるかな。検査をしないと今度こそ死んじゃう可能性があるって。彼女はとても危険な状態なんだよ」

「お断りします。私もあなたが信用できない」

「そうはいうけどさ。彼女の首とか目を見てごらんよ。明らかに異常な状態でしょ」

言葉に釣られて藤乃宮が不安そうにする。
後、もうひと押しだ。

「たとえば、その首筋の太い血管が破れればどうなるか。たちまち彼女は出血多量で死ぬだろうね」

みるみるうちに青ざめていく藤乃宮。
桐沢を見る目が不安げに揺れている。

俺は、側近に合図をすると、先ほど用意させた眠り薬入りの注射器を持ってこさせる。

「さぁ、これを彼女に打てば、彼女の容態は安定するから」

そう言って、俺は笑顔を浮かべながら彼女に近づいた。

──瞬間っ!

ベキィ!!

鈍い音と共に、俺の左腕があり得ない方向に曲がる。
折られたと、認識する間もなく、俺は桐沢に蹴られて壁まで吹っ飛ぶ。

「ぐあっ!!」

痛みが襲うより先に、血をゲロのように吐く。

なんてことしやがる、こいつ。

壁まで打ち付けられた衝撃で、背中からも痛みを感じ顔を顰める。
幸い蹴られた箇所には大して痛みはない。これは蹴られたというより蹴り押されたといったほうがいいか。しかしながら折れた左腕は激しい痛みを訴えてくる。
本来なら痛みで転げまわってもおかしくないが、目の前にいる桐沢という存在が俺にそれを許さない。

奴は藤乃宮が止めようとするのを聞かず、そのままゆったり近づいてくると、俺の襟首を持ち上げる。

なんという腕力。
70キロはあるという俺を、苦も無く片腕で自分の顔の前まで持ち上げ、目を細める。

「つまらないことはおやめなさい。ワタクシにはあなたの考えなど手に取るようにわかりますわ。大方、それはワタクシの意識を奪うものでしょう。
殺すつもりだったワタクシが生き残ったものですからね。さぞあなたがたには魅力的な研究対象でしょう」

「何を言っている……俺は真剣に君の事を……」

──ミシッ!!

腹を殴られた。
凄まじい痛みが俺の脳裏を駆け抜け、持ち上げられながら身体を九の字に曲げる。

「殺しますわよ。あなた」

殺気の籠った冷たい目が俺を貫く。

一言でも喋ったら殺される。
背筋に冷たいものが走り、身体を震わせる。

だが、ここで俺を救うかもしれない聞きなれない機械音が室内に鳴り響いた。


首を動かしてみれば、青ざめた側近が机の下の警報ボタンを押したようだった。










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