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10──主従──

8月12日 午後12時38分 研究所 地下5階 治療室  桐沢真由美


部屋に突入してきた3人の警備員を胡散臭げに見つめた。
彼らは部屋に入ってくるなり、驚いた声をあげる。

「細川副所長っ! これはいったい!?」

「……こいつを捕らえろ、殺してはならん…」

ワタクシに持ち上げられた細川という男が、口から血を出しながら警備員に指示を出した。
こいつはどうやら思ってた以上にこの研究所で偉かったらしい。まぁワタクシには関係ないことですが。


ワタクシのまわりを取り囲むように警備員が警棒を構えてジリジリと距離を詰めてくる。

こんなことをしても無駄だというですのに。

ワタクシは薄く笑うと、手に持ったゴミ(細川)を部屋の隅に投げ捨てる。
女の身で軽々と細川を投げ捨てたところから、彼らは驚きで目を見張ったが、すぐさま気を取り直しこちらに掴みかかってきた。抑え込もうというのだろう。

「まったく、甘いですわっ!!」

ワタクシは一人目のゴツイ男の手を掴むと、そのまま円盤投げのように男を振りまわす。

「うあっ! は、はなせっ!!」

グルグル独楽のようにまわるワタクシと男。

他の警備員が当たることを恐れて近づけない中、ワタクシは願いに答えて、勢いのついたまま壁に投げつけた!!


──グシャッ!!

真っ赤なトマトが壁に叩きつけられた結果と同じことが起きる。
壁にぶつかった警備兵の身体から赤い血が拡散するように広がり、ズルズルと壁から滑り落ちる。
もはや身動きはない。

その様子を部屋にいるワタクシを除く全員が驚きをもって見守る。

「ば、ばけもの……」

警備員のひとりが恐れおおのいたように少しずつ後ずさる。

(失礼ですわね。ワタクシはこんなに美しいというのに)

耳にかかった細くて長い黒髪を軽くかきあげ、ワタクシは小さく息を吐く。

彼らがワタクシを恐れるのも無理はないと理解している。
先ほど目覚めてより、自分の身体から溢れ出る力に戸惑っていた。

投与されたときの苦しみは嘘のよう。
あの死線を彷徨った自分はどこへやら。
なぜワタクシがあの赤い世界から抜けれたのかは分からない。恐らくだが、この部屋にいるすべての者が説明などできないだろう。
もっとも説明できたとしても、今は興味がない。

なぜなら今、ワタクシを支配しているのは、溢れんばかりのエネルギーと気力。そして怒りだからだ。

ワタクシは拳を握りしめると、その溢れんパワーをぶつけるべく、警棒を持ったまま固まった警備員に目をつける。

タンッ!!

軽やかに床を蹴り、一気に距離をつめる。

「っ!?」

相手がワタクシを視認したときには、すでに膝が崩れ落ちる。
首裏に手刀を入れ、意識を刈り取った為だ。

すぐにワタクシは最後の警備員を視界に入れると、そのまま同じように手刀を入れて気絶させた。

この間の時間、わずか3秒。
3秒である。

もはや、その身体能力は誰が見ても驚異的であると言っていい。

首に手を当てれば浮き出た血管が元の状態に戻ってきており、薄い膜がかかったように赤かった視界もクリアになって目の充血も治ってきたようだ。
まさに新たな種の誕生である。

自分が人間と違うと認識しはじめている。
その気になれば人間の首をねじ切れるのではないか?とさえ思い始めてる。

──傲慢。

かつて自分の中にあった自分そのものである感情が再び蘇ってきている。

警備員を失った研究者どもは、震えあがっているかと思いきや、モニター前で狂喜している。

「あはははははは!! 素晴らしいッ!! 筋力、瞬発力ともに完全に人に許された限界を超えている。超人類…いや新人類の誕生だ! 我々は神となったのだ!」

髪を7:3に分けた男が両手を広げて狂ったように笑う。

見苦しい。
何が神なのか。ワタクシはワタクシ。断じて、お前たちに作られたものではない。

手をスーと前に伸ばすと、5メートルほどの距離を一足で詰めた。
そして見るからにおぞましい、その笑顔を消すために自らの肘を曲げ手を後ろに引いた。

ミシャッ!!

掌底の一撃で相手の顎を破壊する。
顎が跳ね上がったところで、回転し、裏拳で相手の頬を思いっきり殴る。
顔が横頬から眼球へと鉄球が当たったように変形し、首が折れ曲がったまま治療室の白い壁に叩きつけられてバウンドすると、ピクリともしなくなった。

「………さてと」

最後の一人。細川という男に視線を移す。
この男は壁に背を預け、折れた腕を抑えたままこちらを無言で睨んでいる。

先ほどまでのワタクシと逆の立場になったようだ。

ビービービーっと警報音が鳴り響く中、ワタクシはゆっくりと歩みを進める。
ワタクシはここにいる連中から、今の異常な身体を治療してもらおうと思わない。信用もできないし、第一、このような力を捨てるなんて考えられない。
ならやることは決まっている。いや、腹を決めたといったほうが正しい。

そう、こいつらの息の根を止める。

そうしなければならない。ここから逃げ出したとしても必ずこいつらはワタクシたちを追ってくる。
許しをくれた藤乃宮さん、いや藤乃宮さま。

あれだけひどいことをしたにも関わらず、こんなワタクシを心配してくれて救いを与えてくれた。
まさにワタクシだけの女神。
そう、ワタクシは彼女の従者。忠実な僕なのだ。
彼女を絶対にこいつらの手に委ねてはいけない。守り抜かなければならないのだ。

鳴り続ける警報を止めさせるため、ワタクシは細川の首を掴む。

「細川さん、このうるさい警報止めていただけるかしら?」
「言うと思ってるのか、化け物め……」

案の定、細川は反抗的な態度で拒む。

「ならいいですわ。ワタクシ、自分で探しますので」

徐々に首を握る手に力を込める。

「ま、まて……あそこだ。机の横に警報を止めるON/OFFスイッチがある」

さすがに殺意を本物だと悟ったのか、焦った様子であっさりと吐いた。

「どこですの? そんな装置見えませんが……」
「ほら、そこだ。そこからだと陰になって見えないかもしれないが」

ワタクシが首を捻って細川から完全に視線を机に移動させる。
だが、なんの装置もやはりない。

「ないですわ。あなたワタクシを……」


──パシュッ!!

乾いた音が室内に響き渡った。
何事かと音のした細川に顔を戻すと、この男はいつのまにか懐から出した麻酔銃で、藤乃宮さまに銃口を向けていた。

「ははは……ざまぁみろ。モルモットめ……」

「あなたっ!!」

憤怒の表情でワタクシは細川から銃を奪い取る。
だが、すでに引き金は引かれている。ワタクシは銃口先の藤乃宮さまを見た。

ああ……なんてこと。

藤乃宮さまはうつ伏せで床に倒れている。
ワタクシが呼びかけても返事をしないが、時折ピクピクと痙攣するように手足が動いている。
血は流れていないが、明らかになんらかの薬物を撃たれたことが分かる。

「あなた、いったい藤乃宮さまに何をしたの!?」

「くくく……タイプγさ。おまえに打ったタイプγを彼女に撃ちこんだのさ。おまえは、副作用を乗り越えたが、果たして彼女はどうかな?」

「き、きさまっ!!」

なんてこと。
あの赤い苦しみが彼女を襲っていると言うの。
全身を煮えたぎらせた血液の拷問。意識を保つことなど困難なほどの激痛。
死をもっとも意識させたあの時間を。

このクソムシのせいで。


ワタクシは細川の折れた腕を掴むと、一気にそれを引っこ抜くようにして引っ張った。

「ぐぎゃあああああああああああああああああ!!」

断末魔のような悲鳴があがり、細川の腕が体から引きちぎられる。
赤い鮮血が宙を舞い、イモムシのように細川が体をばたつかせる。

だが、それでは不十分。ワタクシの怒りは収まらない。

私は続けて奴の肩を掴むと、力任せに思いっきり握った。

──ゴキィッ!!

骨の折れる感触と音が聴こえ、再び細川は口から血を吐く。
細川からは痛みを訴える言葉が出ず、口からでるのは血のみである。ワタクシは、目を細めて細川の顔をみると、奴は白目を剥いて気絶している。
ワタクシは腹を殴って強引に意識を目覚めさせると、拷問をはじめる。
無傷の腕を引きちぎり、脇腹に何度も拳を入れ骨を砕く。さらに、足の膝に蹴りを入れて皿を破壊すると、首から手を離して崩れ落ちる瞬間を狙って、思いっきり膝蹴りを顔にいれた。

そして気づけば、細川は物を言わぬ肉の塊と化していた。

「……………」

ワタクシはそこでハッと気づいたように藤乃宮さまの元へ駆け寄る。

なんという罪深きミスをまたしても犯した。
先ほどの細川からタイプγとやらの治療方法を訊きだしてから殺すべきだったと歯ぎしりする。
本当に馬鹿だ。

ワタクシは藤乃宮さまの傍で膝を折ると、両手を胸の前で握って目を瞑る。

(お許しください。ワタクシは本当に使えないクズです。
あなたさまの苦しみを顧みず、細川の始末に夢中になってしまいました。どうか無事に副作用を乗り越えて、ワタクシに罰をお与えください)


ワタクシは涙を流しながら、苦しみに喘ぐ藤乃宮さまの傍で祈り続けるのだった。







8月12日 午後12時36分 研究所 地下1階 所長室  村山麗子


──同時刻。
私は、桐沢の尋問を終えたあと、所長室で書類の整理にかかっていた。
昼食の代わりにブラックを飲み、黙々と書類に目を通す。これらの整理を早く済ませて今晩にでも雅彦に会いに行こうと思っている。とにかく時間が惜しい。

そして数度目かになるブラックを口につけようとしたときに、私に緊張を強いる出来事が起こった。

──ビービービービービー!

私に緊急を知らせる警報。
すぐさま書類整理を中断して、机に置かれた電話機の内線を押す。

「何事だ?」
「地下5階の治療室で、警報ボタンが押されたようです。すぐに警備員を向かわせます」
「そうか、なら警備員を3人ほど向かわせろ、至急な」
「はい」

受話器を置いた私は、ひょっとしたら意識を取り戻した桐沢が暴れたのかと思い浮かび、顔を苦いものに変える。

そして再び書類整理を始めて10分。
いつまで経っても警報が鳴りやまないことに眉をひそめた。

「なぜ鳴り止まない。故障か?」

ペンを持った手を止め、再び受話器を取ろうと手を伸ばした瞬間、電話が鳴った。

「どうした?」
「しょ、所長! 治療室にいた2人の少女が警備員を倒して逃走しております。至急ご指示を!」
「……なんだと」

私は即座に事態を把握し頭を回転させる。
この研究所に少女と呼べる年齢を持つ者はふたりしかない。桐沢と藤乃宮だ。恐らく桐沢が藤乃宮を連れて逃走しようとしているのだろう。

細川め、さてはしくじったな。

この場にいない細川に罵声を浴びせたくなったが、今はそれどころではない。警備員を3人向かわせて倒しているところから、武器を持っている姿が容易に想像できる。このままでは多くの怪我人が出るだろう。
私は、すぐさま動員できる警備員を向かわせるよう指示すると同時にエレベーターの電源を落とすよう命ずる。
万が一にも奴らを外に出すわけにはいかない。多くの生徒と島の住人に知られれば隠し通すことは難しくなるからだ。

私は、所長室に備え付けてあった監視カメラとリンクさせたテレビをつけ、
事態の深刻さを理解すると共にまるで夢を見ているような光景に驚愕を隠せなかった。

画面の中にいるふたりの少女が、まるで映画のように警備員をなぎ倒していく。
彼女たちは武器を持っている風ではなく、まったくの素手だ。
なのに大の男たちが束になっても敵わない。

あるものは顎を破壊されて昏倒し、またあるものは顔を殴られて数メートル後ろに吹っ飛んでそのまま動かなくなる。

「何が起こってる……?」

目の前の出来事が信じられず、呆然と言葉を漏らす。
彼女たちの力と俊敏さは、とても人間のものとは思えない。映画の撮影でないとしたら、私の頭がおかしくなったのかと疑うほどだ。

私は震える手でもう一度、受話器をとると、指示を出した。

「彼女たちを殺さずに捕らえろ。そのためにはいかなる手段も許可する」

と。







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  1. 2013/01/31(木) 00:06:57|
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