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11──所長室へ──

8月12日 午後12時42分 研究所 地下5階 治療室  藤乃宮遥


気づいた時には撃たれていた。
痛みを感じて左肩を視線をやると、小さな注射器のようなものが刺さっている。
私はすぐに力を失い、桐沢さんと同じ苦しみを味わうことになった。

赤い、
赤い世界。

恐らく、これが桐沢さんの見ていた世界。

様々なものが、走馬灯のように脳内を駆け巡り、身体が煮えたぎる。
心臓が爆発するようなほど大きな音を立て、呼吸が苦しくなる。
身体が震え、引き裂かんばかりの痛みが全身を襲うが、叫びにならない。

やがてそれは大きなひとつの流れになり、私から様々なモノを奪っていく……。

それは人の殻。
罪悪感、痛み、苦しみ。


光が視界に入ってくる。

私は今、新たに生まれ変わった。




「藤乃宮さま……」

ゆっくりと床から身を起こした私の前に、桐沢さんがひざまづいている。
まるで信者が神に祈りを捧げるような姿だ。
私はなぜかその姿が愛おしく、手を伸ばして頭を撫でてやる。そうすると彼女は嬉しそうに微笑んだ。

なぜだろう。
自然に理解した。

彼女は私の忠実な僕なのだと。






8月12日 午後12時42分 研究所 地下5階 治療室  桐沢真由美


「桐沢さん、ここにいる人は全員殺しちゃったの?」
「いえ、警備員の何人かはまだ生きていると思いますわ」
「そう、ならここの情報を訊きだしましょ。こっから出なくっちゃ」
「わかりましたわ」

ワタクシは首を傾け、胸が上下している警備員に目をつけるとつま先で蹴りを入れて、目覚めさせる。

「う……」
「おい、おまえ。ワタクシの質問に懇切丁寧に答えなさい。いいですわね」
「わ、わかった。い、いや、わかりました!」

声の主がワタクシだと分かった警備員は、顔を歪めて何度も首を振った。

「では、まずここはどこですの?」
「こ、ここは植物研究所地下5階の治療室です。投与実験の際、助かる見込みのある者を手当てをする場所だときいてます」
「投与実験? ここではタイプαの実験が繰り返し行われているのですか?」
「い、いや俺には薬の種類なんて分かりません。ただの警備員ですから……」
「そうですか。では質問を変えましょう。ここから出るにはどうしたらいいのです?」
「この部屋を出て右にまっすぐ行った突き当りにエレベーターがあります。それに乗れば地上に出られます」
「そうですか……」

腕を組んで目を細めたワタクシは、ビービービーと鳴る警報音を思い出す。

「この警報音を止めていただけるかしら?」
「そ、それは出来ない。俺はただの下っ端だ。警報を止めることができるのは警備班長か、研究者の誰かだ」

──ドスッ!!

「ぐあっ!」

警備員の身体が蹴りで軽く浮き上がる。

「言ったでしょう。ワタクシに対して敬意を払うように丁寧に答えなさい。分かりましたわね?」
「は、はい……」

体を折り曲げ、警備員が息も絶え絶えに返事をする。
この身体になってから手加減が難しいですわ。

「では最後の質問。ここの責任者、村山麗子はどこにいるのかしら?」
「……そ、それは」

初めて言葉に詰まる。ワタクシの目的を察して話すのを拒んでいるのかしら。ここの所長もいい部下を持ったわね。

「言わなくてもいいですわ。他の警備員に訊きますので」

「ま、まて分かった! 教える。地下1階だ。地下1階に所長室がある。そこに所長はいる」

振り上げた足にビビったのか警備員が口を割る。

前言撤回かしら。忠誠心がまだ足りませんわ。
それに言葉遣いがまた元に戻ってますけど、もういいでしょう。用済みなのは生かしておいて害になりますし。

ワタクシは警備員に微笑むと、そのまま足を振り下ろした。

グシャッと鈍い音が響いて、彼もまた物を言わぬ肉人形と化した。


「桐沢さん、所長室の場所なんて訊いてどうするの? 脱出するんじゃないの?」

黙ってやりとりを聞いていた藤乃宮さまが口を開いてワタクシに尋ねる。
目の前で警備員が殺されたというのに顔色ひとつ変えない藤乃宮さま。やはり、彼女も理解している。自分が人間とは違うということに。

「ここを脱出したところで、ワタクシたちが生きている限り、絶対にこいつらは追いかけてきますわ。なので、所長に会って所長にもワタクシたちの仲間になってもらいましょう」
「仲間に? そんなこと彼女は了承するかしら。そうは思えないんだけど」
「藤乃宮さま、彼女にもタイプγを飲んでもらうのです。力ずくでも。そうすれば彼女はきっと仲間になりますわ。だってそうでしょう。ワタクシたちは人間を超越した存在なのですから」
「でも副作用を乗り越えれなかったら?」
「その時はまた別の手を考えましょう」

ワタクシたちは頷くと、この部屋の机や、細川の服を漁ってタイプγがないか探す。
そして数分後。ワタクシたちは細川の胸ポケットから透明なビニール袋に入ったタイプγ一粒と緊急マニュアルを発見した。

「何か分かった?」
「ええ……、このマニュアルには緊急時の避難経路と対応が書かれておりますわ。そして各階の簡単な地図も書かれてますわね」
「そうなんだ。じゃあ、そろそろ行きましょ。ここにいたら気が滅入っちゃうわ」

肉の塊をうんざりした顔で見つめた藤乃宮さまにワタクシは苦笑を漏らす。
かつて学園で幾度も見た顔だったからだ。

ワタクシたちはドアを開けると、マニュアルの地図にあったエレベーターに向かって走り出した。目指すは所長室だ。



──地下3階、廊下。

「地下5階、A区画から生体サンプルが2体脱走した。警備員はすぐに現場に向かい捕獲せよ!繰り返す。A区画から生体サンプル2体が脱走した。ただちに……」

狂ったように館内放送が響き渡り、それと同時に警報が鳴り響く。

ワタクシたちはエレベータールームに到着したものの、先手を打たれて電源を落とされたのを知ると、すぐさま階段をあがった。
だが、この建物が特殊なのか階層ごとに階段が別の場所にあるらしく、探すのに手間取り所長室までまだ到着できていなかった。

「困りましたわね。エレベーターが使えないのがこんなに不便なものだとは知りませんでしたわ」

次々と襲ってくる警備員を倒しながらワタクシは呟く。
すでに倒した警備員の数など覚えていない。この苺山島にこれほどの大人がどこに隠れていたのか?そっちのほうが気になっている。

「そうよね。なんでも機械化しちゃうと、なくなったときが不便よね!」

藤乃宮さまが頭にふりおろされた警棒の一撃をバックステップでかわし、お返しの右ハイキックで首を刈って答えた。

念のために言うが、遥や桐沢に格闘の経験などない。
蹴りやパンチなど実践的な訓練をもしたことも当然ない。
だが、ポテンシャルの違いは歴然としている。
訓練を受けた警備員が相手とはいえ、桐沢たちの相手ではない。
天才と凡人の差?
いや、そんなものではない。
まるでカブトムシやカマキリが人間相手に戦いを挑むようなものである。

故に結果は歴然。
遥や桐沢が腕を振るうたびに、警備員は地に伏し道が開けていく。

「な、なんだ!こいつらは!本当に人間か!」

顔を引き攣らせながらも必死にその場に留まり、次々とこちらに麻酔銃の銃口を向ける警備員。
だが、遅い。
遅すぎるのだ。
彼らが構えたころにはすでに懐に入り込み、攻撃のモーションに入っている。
彼らは銃の照準を合わせることなく、骨を砕かれ、あるいは致命傷を負って倒れていく。

まさに荒野を行くが如く。

これではどちらが狩られるものか分からない。

新薬の影響だろうか。
命を刈り取ることにためらいもない。

警備員の顔からは出会うまであった余裕が消え、化け物に出くわしたような恐慌状態に陥っていく。
自分たちが人の形をした別の何かに挑んでいることが、時間の経過と共にわかっていったからだ。

ついに何人かの警備員が背を向けて逃げ出す。
同僚たちが何もできずに血まみれになって死んでいくのを見て、恐怖に耐えきれなくなったのだろう。悲鳴をあげて走っていく。

ワタクシたちはそれを追うようなことはせず、立ち向かってくる者を優先的に始末していく。
そしてついに地下1階へとたどり着いた。









8月12日 午後13時26分 研究所 地下1階 所長室  村山麗子


地下1階まで侵入されたというのに、いまだ目の前の光景を完全には信じられずにいる。
なぜ彼女たちがこれほどの力を得るに至ったのか、私には理解できていない。恐らく治療室で細川が何か薬物を彼女たちに投与したのは分かるが、それが何かまでは分からないのだ。

「所長! 警棒や銃ではまるで歯が立ちません! どうかご指示をっ!!」

緊迫した声が先ほどからひっきりなしに受話器の向こうから聞こえ、
私は今ある現実を受け止めるため非現実に染まりがちな頭を振ると、気を取り直して指示を出す。

「わかった。まずは地下1階通路の防火シャッターを下ろせ。奴らの進路を遮るんだ。それから催眠ガスを用意させろ」
「わかりました!」

こんなことなら催眠ガスをスプリンクラーと一緒に設置させとくべきだった、と後悔するが、もはや後の祭りでしかない。
このままだと彼女たちは地上へ逃走してしまうだろう。銃の扱いを知っている警備員が役に立たないことから止めることは難しい。
この島から脱出するのは通常では難しいだろうが、あの力で誰かを脅して脱出することは十分ありえる。
殺したくはないが、すでに報告だと何人も殺害しているらしいし人を殺すことに躊躇いようなので、こちらとしても殺さずに捕らえる余裕がなくなってきている。もし、このまま防火シャッターを越えて進むようだと決断しなければならない。

いったん椅子に深く腰をかけると、私は彼女たちを止める方法を模索する。

あの力を見る限りだと、防火シャッターすら破壊して進むことは明白だ。時間稼ぎにしかならない。
かといって警備員たちで止めれるかといえば、これもまた厳しいだろう。
テレビ画面の中の警備員は接近することを恐れて、かなり遠くから銃を構えて撃っているのだが、彼女たちはそれをなんなく捌き、時には横壁を蹴って躱すと、あっというまに距離を詰めて警備員たちを血祭りにあげていく。
これには慈悲もなく容赦もない。おかげで警備員の士気はさらに落ち、出会う前から腰が引けている。

催眠弾を撃って効果があればいいが、効果がなければ最悪だ。
大事になる前に交渉の余地があればよかったのだが、ここまで来れば彼女たちは易々と交渉に応じないだろう。
自白剤を使ったのだし、拉致してここまで連れてきたのだから我々を信用しないに違いない。私が彼女たちの立場だったとしてもやはり応じないだろう。
優位なのは彼女たちで、私たちは追い詰められている。

だからと言って、さぁ逃げてくださいと諦めることも出来ない。
ではどうするか。

私は軽く瞼に手を当てた。

──爆殺するしかない。
さすがに彼女たちも爆弾は躱せないだろう。

死んでしまうか四肢のどれかが欠けるだろうが、もはやそんなことを言ってる場合ではない。
一般市民に犠牲が出れば、私の首が飛ぶだけでは済まなくなる。

もっと早く決断すべきだった。

あれは見かけに騙されてはいけない。
人の皮をかぶった化け物なのだ。

私はそれに気づくのが遅かった。
研究者としての欲がどこかにあって、生け捕りにしたいと常に頭にあった。
それが致命的に対応を遅らせたのだ。

私は唇を噛むと、落ち着くようにタバコを取りだし火をつけた。

そして、再び受話器をとる。爆発物の用意をさせるために。







8月12日 午後13時45分 研究所 地下1階 B区画通路  桐沢真由美


ついに地下1階までやってきた。
この階のどこかに所長室があり、ワタクシたちを人外に変えた親玉がいる。
ワタクシたちの目的はまだ知られてないはずなのだから、ここの出口に向かうよりかは警戒は薄いだろう。あとは目的を悟られずにどこまでいけるかだ。

病院のような白い廊下を行く私たちの進路を塞ぐように、次々と防火シャッターが下りてきて行く手を遮る。
ワタクシたちはそれを数度殴ってシャッターごと吹き飛ばして先に進む。
所長室の場所は分かってる。緊急マニュアルに載っていたからだ。

「このクソガキがぁ!」

立ち塞がる大柄な警備員。
ライフルを構えてパン!パン!と銃音を鳴らす。

「遅くてあくびがでるわね」

遥さまは撃ち出される弾丸をたやすく手で受け止め相手に指弾でかえす。

悲鳴をあげて床にもんどりうって倒れる名も知らぬ警備員。

人智を超えた動体視力で弾丸の軌道を見切り、鋼鉄をも切り裂くパワーで相手を薙ぎ倒す。

警報が施設中にうるさいほど鳴り響き、それに呼応するように湧き出てくる敵。敵。敵。

この島にいる大人は少数だと思ってましたのに、いったいどこに隠れていたのやら……。
すでにこの階で50匹は倒しましたわよ。小さく呟きフロアにいた最後の一匹を倒すと再び走り出す。


ワタクシと遥さまは所長室に向かって地下施設の廊下を高速で走り続ける。

隣で走る遥さまをチラリと横目で見る。

その顔は生気で満ち溢れ、瞳には力強い意志がこもっている。

ああ……この方を輝かせるためならワタクシはきっとなんでもすることだろう。
映画で主演を選んだのはもはや偶然ではなく運命。

「もうすぐ所長室よ!」

ああ、やはりワタクシは、この方の為にうまれてきたのかもしれない。


──所長室。

バンッ!

ついにワタクシたちは所長室に辿りつき、部屋に飛び込んだ。
そこは12畳ほどの白い部屋で、黒いオフィス机と本棚がいくつか置かれている。
しかし、本来いるはずの肝心な主はおらず、もぬけの殻だ。

「逃げたのかしら……」

遥さまと顔を見合わせている間に、通路から白い煙が部屋に入って充満してくる。

「なにこの煙……」
遥さまが顔を顰めて口に手を当てる間に、ワタクシはこの煙がなんなのか大凡の見当をつける。

「これは催眠ガスのたぐいでワタクシたちの意識や力を失わせるものですわ。少し手足が痺れてきましたもの……。どうやらワタクシたちがここへやってくるのはお見通しだったみたいですわね」
「そっか、やっぱり1階へ続く階段から離れちゃったしね。それでどうしよ、もうこっから出ちゃう?」
「そうですわね。このままここにいても仕方ないですし、煙もありますしね。ですけど……」

そこでワタクシは、オフィス机の後ろの壁を蹴り破った。

「あなたと話をしてからですわ。村山麗子さん」

その隠し部屋にいたのは白衣を着た村山麗子だった。









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