異例の昇進。
クリスタルリング始まって以来の若干17にして兵長。
このニュースはクリスタルリングどころか、隣の天王星や遠い土星でも話題となった。
葵は今やクリスタルリングの時の人となり、道を歩くだけで人は道を譲り、ヒソヒソと噂話をする。
それは妬みだったり称賛だったり色々だった。
もっとも私自身、いくらすぐに事件を解決し人質を救ったとはいえ、17の小娘に兵長とはあまりにも簡単に目論見通りすぎじゃない?
と、思うところがあるので、噂をされるのは仕方ないと思う。
もっともこう好奇の目や噂話に晒されると溜息の一つもつきたくなってるけど。
「いたいたいた~。やっぱり来てたのねー。英雄殿は」
「やめてよ、陽菜。そんな大したものじゃないわよ」
ジャズが流れるお洒落な喫茶店。そこに待ち合わせをしていた陽菜が私の姿を見つけると手を振りながらやってきた。
私は陽菜が対面の席に座ると、店員にコーヒーを頼んで話しかける。
「治安課でも私のこと噂になってるの?」
「もちろん、上司から私たち下っ端まで話題は葵のことばっかり。わたし葵と仲いいからみんなに色々話聞かれるよ」
「そう」
私は大体どんな噂をされてるか想像し、その話を打ち切ってコーヒーに口をつける。
「そういえば、葵って昇進してから小田軍曹…ううん小田少尉と何か話をした?」
「どうして?」
突然、葵が小田少尉について聞いてきたのでカップから口を離す。
「だってさ。今回昇進したのは小田少尉と葵だけなんだよ。気になるじゃん」
「そういうものかしら?」
「そういうものだよ~」
昇進したからと言って私や小田少尉が何か変わったということはない。
いつもと何も変わらないだけだ。陽菜には私が変わって見えるのだろうか?
「それでどうなの?」
「まあ昇進した後、少し話をしたわね」
「えっ、どんな?」
身を乗り出すようにして話に乗ってきた陽菜に苦笑しながら、私はその時のことを少し思い出す。
確か小田少尉と話した時もこうやって喫茶店で向かい合って話をしていた。
静けさが漂うふたりだけの午後の店内。
昇進したというのに小田少尉はなんの喜びも見せず、何かに思い悩んでいるようだった。
それは私の考えすぎかもしれないけど、どこか違和感を覚えたのは確かだ。
そういえば公園でぼんやりと星空を見ていた小田少尉は、あの星の海を見ながら何を考えていたのだろうか。
「……ねぇってばっ、葵!」
「えっ?」
考え込みすぎたのだろう。陽菜に少し大きな声をかけられ我に返る。
「もう、葵ってば。すぐ自分の世界に入っちゃうんだから……」
「ごめんごめん、なんの話しだっけ?」
「もう、小田少尉の話しだよ」
私は謝罪を済ませると、そのときの他愛のない話をしてあげる。
「小田少尉とはお互いの日常の話しをしたわ。休日は何をしているのか普段はどんな食事をしているとかね」
ふんふん、と熱心に陽菜は耳を傾ける。
「そういえば、休日にふたりで会わないかと誘われたりもしたわ」
「へー、小田少尉に誘われるなんてねぇ」
それは意外な発言だったようで、陽菜は目を丸くして驚いた。
「じゃあ、今度ふたりで会うんだ?」
「そうね。断る理由もないし」
「ふ~ん」
私が再びコーヒーを口につけると、陽菜も自分のコーヒーを一気に飲み干した。
「そろそろ時間じゃない。葵、♂♀ルームに行こうよ」
─────
喫茶店で陽菜に誘われた私は、時間を確かめ♂♀ルームの女性部屋の前に来ていた。
地球からは離れた辺境の宇宙ステーションでは、毎週1回、この♂♀ルームで男性クルーたちによる女性クルーへの種付け義務があり、これは宇宙軍に属するクルーたちの大事な仕事の一つである。
開拓の見込みが薄い惑星に浮かぶ辺境のステーションでは、事実上、軍の人間しかおらず、厳しい環境のなか開拓に来る人間の応募も少ない。
クルーの数が減れば任務地として人の補充は済むが、これではいつまで経っても辺境惑星の開拓が進まないと、軍の上層部が業務の一環として仕事に組み込んだのだ。
つまり簡単に言うと、ステーションに勤める女性クルーが子を産めば、そのステーションで子育てをしステーションに住む人間の数が増えていく。いずれはそのステーションに住む人間で辺境惑星の開拓をやらせようというわけである。
なんとも気の長い話だと思うが、10年以上前に始まったこの種付け業務により、このクリスタルリングでも順調に人が増え、あと10年もすればこの計画も決して夢ではなくなる話らしい。
私は♂♀ルームの女性部屋の前に立つと、白いドアの横にある機械にカードキーを差し込んで陽菜と一緒に部屋の中にはいっていく。
白い部屋の中は左手に銀色のロッカー、そして奥まで伸びる通路を隔てて右手に女性クルーたちが男性クルーを受け入れるシャワー室のように低い壁に仕切られた、女性ひとりが四つん這いになるのがやっとというコックピット程度の広さの種付け室があり、それが何百と牛を繋ぐ牛小屋のように奥まで続いている。
私と陽菜は、大勢の女性クルーとすれ違いながら空いていた260番と261番の銀色のロッカーの前に立つと、宇宙軍の青い制服と白のタイトスカートとパンツを脱いで全裸になり、それぞれ番号に割り振られた種付け室に入室して準備をはじめる。
右前方の壁でチカチカ光る起動スイッチを押すと、そのまま隣のタッチパネルを操作して個人IDを入力して本人確認し、私は男性ルームにお尻を向け機械が動き出すのを待つ。
静かに動き出す種付け室に備え付けられた機械。横壁と床の丸い穴からロボットアームが出て両腕両足を拘束し、四つん這いになった私の身体を固定する。
MRIの診察台のように種付け室が後ろにゆっくりと移動し始め、隣の陽菜の首から下が隠れるくらいまで奥に移動すると、個人IDの情報を元に私のお尻の形に奥壁に穴が開いて男性ルームにくびれた腰とお尻、そして足の一部が晒されることになった。
「なんか、どきどきするね」
「そう?」
わたしと同じく身体を四つん這いに固定された261番の陽菜が顔をこちらに向けて笑みを見せる。
「うん、なんかいつもこの瞬間ってドキドキするよ~。どんなおちんちんに種付けされるとか。葵はそんな気分になったことない?」
「ないわね」
火星育ちで子宮シリンダーで育った私にはこの行為の意味するところがあまり理解できていない。だけど、陽菜にはわかっているのかこの時間を一番楽しみにしているようだ。
そういえば、地球ではいまだに恋愛なるものをして繁殖するらしいが本当だろうか?
詳しく調べてみたことがないので恋愛して繁殖というものが理解できない。
「何発おまんこに出されるか葵、勝負しない?」
「いやよ」
「残念~。英雄様に勝つチャンスだったのになぁ」
「馬鹿」
時間が来たので私たちは黙る。
午後8時になれば、数百人のクリスタルリングに属する女性クルーが一斉に男性クルーに種付けされるだろう。
最後に首の真上から天井の壁が降りて、私と陽菜の首をまるで断頭台のように固定すると、種付け部屋の壁から顔だけが出る状態になり、首を動かすことも難しくなった。
それと同時に後ろの男性クルーたちが、私たちのお尻を掴んで男性器を注射針のように膣穴に刺してきた。
(ずぶっ!)
「「「「「んっ……」」」」」
少しだけ私の顔が前に動き、吐息に似た言葉が女性クルーたちの口から一斉に漏れる。
これは女性クルーたちの最初の挨拶みたいなもので『挿入された』という暗黙のメッセージを教えあうようなものだ。
これから身体をしっかり四つん這いに固定された私たちは、男性クルーたちが膣内で射精するのを壁の外から出した顔をしっかり上げて、銀のロッカーを見つめながら待つのである。
パンパン!!という激しい尻音が背後の壁越しに聞こえ、黙って前を見ていた私に、早くも陽菜の声が耳にはいってきた。
「あっ、もう出したよ。はやーい」
前を向いていた17歳の陽菜が顔を少し前後に揺らしながら、つぶやく。
揺れてるのは、男性クルーが何度も腰を陽菜のお尻に深く押し付け、子種を奥へ奥へと押し込んでるためだろう。陽菜は黙ってそれを受け止めている。
「葵の方は出された?」
「んっ、もうちょっとみたいね……」
忙しなく膣内で男性器をゴシゴシ擦られてるのを感じながら、私は目の前の260番のロッカーを見ながら冷静に判断を下す。
始まってまだ2分も経っていないが、種付け作業に置いて一回の交尾は5分と決められている。
それはなるべく多くの男性に交代で膣に射精させ、勝ち残った精子で妊娠させるためだ。
宇宙という厳しい環境において子供に求められるのは、優秀で元気な遺伝子を持つ子。ここで他の男に負けるような精子はいらないというわけだ。
5分で射精できなかった男は、自分の子孫を残す縁がなかった。それだけの事なのだ。
2分が過ぎ、やがて3分が過ぎ去る頃、私のお尻を掴んで腰を振っている男性クルーの手に力が籠り、尻肉を鷲掴みしたことで射精の気配を感じた
(どぴゅぅうううううううう───!びゅるるるるぅぅぅ~~~♥♥♥)
「んっ…ぅ」
熱い子種を膣奥で感じ、私は前を向いたままクールな表情を崩さぬようにして、入ってきた子種をお尻をモゾモゾ動かして子宮でしっかり受け止める。
かなりの量を出されたが、これも大事な宇宙軍の仕事のひとつ。手抜きは許されない。
なのでお尻を振ってなるべく奥へ行かせるように努力する。
「だされた?」
「ええ……」
いまだにモゾモゾお尻を振って子種を受け止めていた私は陽菜にそう返した。
見れば陽菜も少し顔を動かしている。多分わたしと一緒で、壁の向こうでお尻を振っているに違いない。
5分経つと、ロッカーのドアで時間を表示していた電光掲示板が青く光り、自分たちに種付けしていた男性クルーが交代することを告げる。
「二人目だね」
「そうね」
また別の手が私のお尻を掴み、男性器の挿入をはじめる。
今度のは少し太い。
膣口が拡がって亀頭から竿を飲みこんでいってるが、長さも結構あるようだ。私の身体からしたらサイズが合わない。
根元まで男性器が入ると、思わず安堵の溜息を吐いてしまう。
「どうしたの? いきなり奥まで入れられた?」
「ほっておいて」
やたら話しかけてくる陽菜をほっておいて、私は前を向いて交尾に集中する。
後ろからパンパンッ!と陽菜の尻音の倍になりそうな私の乾いた尻音が聞こえてくるが、視線をロッカーに固定し尻を高くあげて射精を待つ。
「すごい音だね」
隣から陽菜の視線を感じるが、気にしないようにして前を向く。
「顔真っ赤になってるよ?」
それでも無視して前を向く。
「ねぇ、わたしたちって男性クルーから肉便器って呼ばれてること知ってる?」
ぱんぱんぱん!と激しく鳴り響くわたしの尻音。
私は必死にその突きに耐えながら前を向く。
「気持ちいい肉穴。びゅー!って出すと嫌なこととか忘れてスッキリできるんだって」
亀頭から出た熱い精子のシャワー。
私はそれを無防備な子宮にかけられながら、真面目に受け止め続けるのだった。
─────
業務終了後。私はフラフラになりながら♂♀ルームの隣にあるシャワー室で熱いシャワーを浴び、ロッカーの前で宇宙服に着替えていた。
今日は特にハードで、「何発出されたよ~」とか「濃いの出されて本当に妊娠したかも」とか嬉しそうに報告してくる陽菜に言い返す元気がない。
男性クルーと交尾中に陽菜が言った私の知らない『肉便器』という言葉の意味について尋ねてみると、陽菜は何でもないような顔をして、そのままの意味だよと言ったので顔を少し曇らせる。男性クルーたちが女性クルーを見下してると感じたからだ。
「そんな言葉どこで聞いたのよ?」
将来を期待されている兵長になった私は聞き捨てならないと、髪をサイドポニーを結びながら隣で着替える陽菜に顔を向ける。
「ん? 治安課にいるとね。ほら私たちは現場を経験するから」
「ああ……」
人が増えると荒事も増えてくる。
一部の区間では治安が悪化していると聞く。クリスタルリングも他のステーション同様、その例に漏れなかったのだ。
陽菜はそこでそんな悪い言葉を覚えたのだろう。いけない子だ。
「もう、そんなこと言っちゃ駄目よ?」
大事な親友の陽菜にそういうことを言ってほしくない。顔を覗き込むようにしていうと、陽菜は笑顔を見せながら頷いたので私も自然と笑みが零れる。
着替えが終わると、陽菜の提案で噴水のある中央公園に行こうという話になる。
マイナスイオンを浴びて部屋に戻ろうというという話だ。
私も疲労が溜まっていたことあり、二つ返事でOKして、中央公園まで伸びる通路を歩くことになる。
「あれ、小田少尉じゃない?」
隣を歩いていた陽菜が、私に耳打ちするように小田少尉が歩いていることを囁く。
どうしていつも元気な陽菜がコソコソするような小さな声で私に言ったのか怪訝に思ったが、ある意味恩人でもある少尉を見つけて知らないふりをするのも失礼だと、陽菜が止める間もなく声をかけた。
「少尉、お疲れ様です!」
振り向いた小田少尉に敬礼をする私。
陽菜も慌てて追いかけてきて、同じく敬礼する。
「きみたちか。二人そろって休憩中か?」
敬礼を返した小田少尉が、なぜか元気のない声で私を切なそうに見る。
「はい、つい先ほど男性クルーとの種付け業務を終え、中央公園で休息をとる予定です」
あちゃあと陽菜がそんな表情をしたが、私は小田少尉をしっかり見据え真面目に答える。
「そ、そうか。それはご苦労だったな。ゆっくりと休息をとるといい」
軽く動揺したように小田少尉は私から視線を逸らすと、軽く敬礼して背を向けた。
そして小田少尉の姿が見えなくなると、陽菜が私に噛みつくように言った。
「もう、なんでああ答えちゃうのよ! 葵は小田少尉に遊びに行かないか?って誘われたんでしょ」
「遊びにじゃないわ。休日に会おうと言われただけよ」
「一緒だって!」
陽菜が呆れたように溜息をつく。
「何怒ってるのよ」
「別に怒ってないわ。ただ……ああ、もう!いい」
陽菜が諦めたのか先に歩き出すと、私も後を追う。
楽天家で明るい性格のショートカットの陽菜とサイドポニーの極めて真面目な性格の葵。
このふたりの凸凹コンビは、クリスタルリングの一日をこうして終えるのだった。
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- 2017/08/12(土) 01:20:39|
- 小説
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